格安スマホ流行に乗じて反社が「電話番号を大量入手中」その目的
菅政権の目玉政策・通信大手3社の大幅値下げで、格安スマホが大安売りに―― ツイッターの「おカネ配りアカウント」を使って何も知らない若者を転売ヤーとしてスカウト
3月中旬から順次サービスが開始された、大手通信3社による携帯料金の値下げ。NTTドコモが従来の半額以下となる新料金プラン『ahamo』を発表すると、次いでソフトバンクとauも『LINEMO』、『povo』という類似の格安プランを打ち出した。
菅義偉首相(72)肝いりの政策として始まったこの動きは、消費者から歓迎されているようだ。だがその一方で、急進的な政策により思わぬ〝副作用〟も起こっているという。
4月上旬、都内の家電量販店の携帯電話売り場で、次々と契約書にサインをする20代の男女がいた。約40分後、彼らは店員から渡された複数の紙袋を両手に携えて、店を後にした。
そのまま二人は家電量販店のすぐ近くにある携帯買い取り専門店へ。20分後、店の外に姿を現した二人の両手に、先ほどまで持っていた紙袋はない。
いったいどういうことなのか。
「初めから転売目的でスマホを複数台購入したのでしょう」と話すのは、大手家電量販店の販売員だ。彼によると、このような転売目的でのスマホの大量購入は、政府が携帯料金の値下げを提唱してから急激に増加しているという。
「携帯電話会社の中には、ドコモ、au、ソフトバンクのほかに、これら大手通信会社よりも安価にサービスを提供する格安携帯会社が存在します。これまで、大手と格安会社では価格という点で棲(す)み分けができていました。しかし、菅政権が大手3社に携帯料金値下げの圧力をかけて以来、その棲み分けが壊れてきている。
結果、格安会社は新規加入者向けに、大幅値引きのキャンペーンを打ち出すようになりました。特典を利用して安く手に入れたスマホを、携帯買い取り専門店やメルカリなどで転売すれば、初期費用や最低契約期間の基本料金、解約手数料などを差し引いても、一台につき、数千円の利益が得られるのです」
以前は転売目的での購入を防ぐため、多くの格安携帯会社は「一名義あたり契約は1回線まで」などと規定していたという。しかし、今年に入って大手通信会社と契約数のシェアを争わざるを得なくなったことで、こうした規定も崩れつつあるようだ。前出の販売員が続ける。
「大手3社が値下げに踏み切ってからは、一名義あたり最大5回線まで開設できる格安携帯会社も登場した。4人で来店し、合計20回線契約していく家族もおり、彼らは明らかに転売目的でしたね。20台すべて転売すれば、十数万円の儲けが出ます。格安携帯会社にとって、契約後すぐに解約されることは損失にしかなりませんが、目先の契約台数を確保するためには仕方がないのでしょう。
ウチの店舗では今年に入り、スマホの一日当たりの契約件数が約3倍に増加しました。でも、客の数自体はあまり変わらない。ほとんどの客が一度に複数台、契約していくようになったからです」
反社が転売ヤーを利用している
小遣い稼ぎや副業感覚で複数のスマホを契約していく客が増えているだけではない。こうした客を利用して、詐欺グループなどの「反社会的勢力」が犯罪用のツールを入手しているというのだ。
「今ほど仕事がしやすい時期はない」と笑うのは、都内を拠点に活動する「道具屋」のA氏だ。「道具屋」とは、他人名義の携帯電話や銀行口座を調達し、犯罪組織に売り渡すことを生業(なりわい)とする人々だ。
「格安携帯会社がスマホを叩き売りしている今の状況は、俺たちにとって非常に都合がいい。SIMカードを手に入れれば、オレオレ詐欺や薬物売買、裏風俗の営業に使うための携帯電話番号が大量に入手できるから。
今はコロナ禍でバイトの収入や仕送りが減っている貧乏学生が多い。そうした学生を集めて小遣いを払い、スマホを大量に契約させるんだ。店員も怪しんでるが、契約ノルマを達成したいから、何も言ってこない。契約後は端末もSIMカードも回収する。反社の連中は、足が付かないように他人名義の携帯番号が必要だから、『トバシ携帯』はいくつあっても多すぎることはない。俺は、一枚あたり2万〜3万円でSIMカードを売ってる。
学生を釣るのも簡単。よく使う手口は、LINEの副業募集アカウントで、『誰でもできる仕事です!』と呼びかけたり、ツイッターで『抽選で100万円差し上げます!』などと投稿すること。ツイッターをフォローしてきたヤツには、『100万円はハズレでしたが、20万円なら渡せます』とDMを送ってスマホの大量契約を持ちかけると、けっこう乗ってくるんだよ」
バイト感覚であったとしても、自分が契約したSIMカードを他人に譲渡することは、罪に問われる恐れもある。詐欺事情に詳しい加藤・浅川法律事務所の加藤博太郎弁護士はこう語る。
「名義貸しで報酬を得ていた場合、携帯電話不正利用防止法により2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金刑に処される可能性があります。犯罪に利用されると知っていて加担した場合は、幇助(ほうじょ)犯としてさらに重い罪に問われます」
警視庁によると、昨年、実際の利用者と異なる名義で契約されていた携帯電話がサービス停止となったケースは345件。前年の18件から急増している。これに拍車をかけるかのように、政権の目玉政策で「反社」に詐欺用電話番号が渡っているのなら、皮肉というほかない。
「政府は支持率上昇のために携帯料金引き下げを急ぎ、不正利用に関しては考慮していなかったのでは。これ以上問題が深刻化すれば、通信業界も政府も、対策を考えざるを得なくなるでしょう」(携帯電話ライターの佐野正弘氏)
ネット上の怪しい副業募集に軽い気持ちで手を出すと、思いもよらぬ高い代償を払うことになりそうだ。


『FRIDAY』2021年4月23日号より
取材・文:奥窪優木写真:共同通信社、時事通信社撮影:結束武郎(6枚目)