それでもワクチン接種の遅れを認めない菅政権「誤算の原点」
「普通の日本人」は、ワクチンを打っていない現実
4月第2週時点で、イギリスでは46%、アメリカは31%の国民が少なくとも1回目のワクチンを接種した。世界最速のイスラエルでは、3月時点で国民の半数以上が2回目の接種を済ませ、新型コロナの感染者数は劇的に減っている。
日本は「約1%」。
渡米を前に、菅義偉首相はすでにワクチン接種を済ませたが、国民の99%は、一度もワクチンを打っていない。菅政権は新型コロナ対策を「何もしていない」に等しい。
そんななか、いよいよ4月12日から、重症化しやすい高齢者を対象としたワクチン接種が始まった。
4月11日、NHK「日曜討論」に出演した河野大臣は「接種スケジュールは想定通りに進んでいる」と発言したが、いつもの切れ味はなかった。それもそのはず、接種が始まったのはごく一部の自治体で、ほとんどの地域では予約受付すら始まっていない。
接種を担う医療従事者への接種も完全には進んでいないのが現実だ。各県の知事や医療関係者、介護施設運営者ら「現場」からは、
「ワクチン納入スケジュールを知らせてほしい」
「届く予定のワクチンが、あまりに少なすぎる」
と指摘されているのだ。
「ほぼ想定通りのスケジュール」とした河野大臣の発言はすぐにその欺瞞が露呈した。そして、
「各県からの要望数を受け付けたところ、こちらの想定を超えオーバーフローとなったことはやや反省しなければならない」
と発言。つまりワクチン確保数量が足りていなかったことを、ポロリと漏らしたのだ。
じつは、こうした混乱に陥ることを、菅首相はあらかじめ知っていた。河野大臣が菅首相に「現実」を報告していたのだという。
「2月上旬に、河野大臣が『日本向けワクチンは、輸入スケジュールが混乱することになりそうです。接種スケジュールは予定より遅れることになります』と報告をしたんです。菅首相は目を見開いて、『えっ!』と言ったきり、しばらくフリーズしていました」(内閣官房スタッフ)
厚生労働省キャリアがその「内幕」を説明する。
「原因のひとつが、中国・ロシアとのワクチン競争です。中国のシノバック・バイオテック製造ワクチン、ロシア製の『スプートニクV』ワクチンが、途上国やアフリカ、南米に向けて廉価または無償で提供されています。アメリカとEUは、中国とロシアのワクチン攻勢に押されている状況。そんななか、ワクチン外交で巻き返すために、欧米から日本への供給は後回しにされたのです」
日本は各国のワクチン外交のあおりを受け、ワクチン確保がこれほどまでに遅れたというのだ。
ワクチン外交で敗北した菅政権
EUの「ワクチン輸出規制」やワクチンの製造元であるファイザー社などとの交渉がうまくいかなかった中で、「絶望的な遅れ」を目の当たりにした河野大臣は記者会見で次のような発言をするようになった。
「ファイザー社との契約内容について記者会見でお話しすることはできない。そのような契約になっていますのでご理解を賜りたい」
国民の安全と命を守る砦であり、すべて税金でまかなわれるワクチンがなかなか入らない、が、その理由は言えないー。この説明では、製薬会社との「契約」が、国民の「命」より優先すべきものなのかという疑問すら感じざる得ない。
次期総理レースにも影響か…
「ワクチン担当大臣は、『令和の運び屋』と大風呂敷を広げたが、いまのところ畳み方が見えていない」
自民党の閣僚経験者は、こう言った。そして
「次の総理総裁候補レース、ワクチン戦略の結果によっては、河野太郎は一回パスになるかもしれないな」
ウイルスの流行をすべて政治の責任とするのは酷だ。しかし、ウイルス蔓延防止の策に対する結果責任は政治にある。その意味では、菅政権の責任は厳しく問われてしかるべきだろう。結果によっては、「河野総裁」の目が遠ざかったとしても仕方なし、だ。
オリンピックの強行開催が迫る中、高齢者や基礎疾患のある人はもちろん、第4波が迫るなか、国民すべての「命」がかかっているワクチン。政治生命をかけて、1日も早く運んできてほしい。
取材・文:岩城周太郎写真:共同通信