テレビマンが見た『ラヴィット!』苦戦の「5つのポイント」 | FRIDAYデジタル

テレビマンが見た『ラヴィット!』苦戦の「5つのポイント」

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本誌は2月半ば、『ラヴィット!』MCに抜擢された『麒麟』の川島明を直撃。人柄も柔らかく、丁寧に取材に応じてくれた 『FRIDAY』2021年3月12日号より
本誌は2月半ば、『ラヴィット!』MCに抜擢された『麒麟』の川島明を直撃。人柄も柔らかく、丁寧に取材に応じてくれた 『FRIDAY』2021年3月12日号より

TBSの朝の新番組『ラヴィット!』が苦戦しているという。「低視聴率」「不評」などと論評する記事を連日のように目にする。

しかし、筆者の経験上、帯番組は立ち上がってから安定するまでにはしばらく時間がかかるものなので、評価するにはまだ早すぎる。それに世帯視聴率の数字だけを見てどうこう言うのは、個人視聴率が指標となっているこのご時世に若干的外れだと言わざるを得ない。

日本のテレビの悪い点のひとつは「横並びで同じような番組しか編成されないこと」だと思う。朝であれば各局ワイドショーばかりを放送しているから、ワイドショーに興味のない視聴者には選択肢があまりない。そんな中むしろ「日本でいちばん明るい朝番組」を標榜し、脱ワイドショーを目指す『ラヴィット!』の試みは素晴らしいのではないか。

そこで今回は、ニュース・情報系の番組を30年近くにわたって制作した経験を持ち、朝の同時間帯の番組制作経験もある筆者が、制作者目線からあえて厳しめに『ラヴィット!』の演出について気になる5つのポイントを指摘し、さらに一層の飛躍を勝手に応援したいと思う。

① コンセプトが「ステマ」に見られたら残念

まず番組を見ていちばん気になるのは、「企業・店舗まとめ」での特集が多いこと。言ってみれば土曜日に放送中のTBSの人気番組『王様のブランチ』と同じような目線で「人気の店舗や企業の商品」をランキング形式などで紹介するのがメインとなっている。

実際にお買い物に行けばひとつの店舗で各フロアを見て回るわけだから、店舗まとめの特集にはそれなりの意義があるとも言えるが、各社の商品を比較しないことにより宣伝っぽさがどうしても出てしまう。

ウェブの世界では情報発信の見返りに報酬を得る「ステマ」は非常に嫌われるので、このコンセプトがターゲットとする若い女性視聴者に「ステマなのでは」と捉えられる危険がは高いのではないか。一旦「ステマ認定」されてしまえば「朝からなぜ2時間も企業CMを見せられなければならないのか」ということになってしまいかねず、残念だ。

② 朝番組なのにテイストが「週末か夜」っぽい

ステマっぽく見られる危険性がありながらも『王様のブランチ』がなぜ人気を保っているかというと、「放送時間が土曜日のお昼頃だから」と言っていいだろう。週末の遅く起きた朝にはファッションなど流行のお買い物情報をボーッと見て、休みにどこに行き、何をするかというのを考えるのが視聴者の自然な「気分」だと思う。

しかし平日の朝、世の女性たちは家事や仕事の準備で忙しい。「どんな服や嗜好品を買おうか」とゆっくり考える気分になれるだろうか。平日の朝の生活情報はもっと「平日に適した実用的なものをコンパクトに伝える」ようにしないとなかなか見る気が起こらないのではないかと心配になる。

③ VTRが長すぎて、生放送である意味があまりない

私は朝の番組は「その日誰かに会ったときに話す話題を教えてくれる」というのが大切な役割だと思っている。1日の始まりに、忙しい中でインプットしたい情報は「職場や仲間うちの話題についていくための“今”の情報」つまり「会話の輪の中に入るために必要な情報」だと思うからだ。

そういう視点で見ると『ラヴィット!』のVTRは長すぎて、きちんと作り込まれすぎている。つまり、あまり“今の情報”と感じられないし、生放送でやる意味が薄いのだ。印象としても抑揚がなく落ち着いた印象となってしまう。

裏でワイドショーが「最新の情報」を刻々と伝える中、『ラヴィット!』を見ていたら、「大きなニュースがもし起きても、自分だけ知らないのでは」と視聴者を不安にさせてしまっては、さすがに良くないのではなかろうか。いくら「ワイドショーではない」と言っても、もっとひとつひとつのVTRを短くしてスタジオや生中継を挟み、最新の天気情報やニュースをこまめに短く伝えるなどした方が、朝の視聴者の生理に合う気がする。

④ “色と音”の情報が多すぎる

若い女性層をターゲットにしているからということで、『ラヴィット!』は番組ロゴもスタジオもカラフルで淡いパステル調にしている。それ自体は若々しくて素晴らしいと思うのだが、若干色味が多すぎるのと淡すぎるのが災いして、目がチカチカして疲れる感じがしてしまうのは、筆者が51歳の老眼だからだろうか。

これは前から思うのだが、そもそもテレビのテロップは色が多すぎる。若い女性が見るウェブサイトやファッション誌は、使う色の数をおさえてトーンを統一し、トータルでオシャレに演出しているのが一般的であることを考えると、あまりに色をゴチャゴチャ使うとダサくて分かりにくい印象になってしまうのではないかと心配になる。

しかも『ラヴィット!』ではVTRに比較的アップテンポでパーカッション強めの曲を使っていて、テロップにもほぼ全てSE(効果音)をつけている。生番組の音の演出としては、「うるさめ」だ。

さらにスタジオが短いのを補うためか、V T R全編にワイプでスタジオの出演者の顔が抜かれていて、音声も生かされている。つまり「①VTRの出演者の声 ②ナレーション ③アップテンポの音楽 ④テロップのSE ⑤スタジオの感想のガヤガヤ」が全て一気に聞こえてくる状況になっている。

こうした演出はボーッとテレビを見る状況の夜・深夜・週末などなら効果的かもしれないが、家事や出勤の準備をしながら若干遠くからテレビを見ている朝の「ながら見」の時間帯には、音の情報が多すぎてゴチャゴチャして聞こえにくいというマイナスの効果を生んでしまう恐れがあるかもしれない。

⑤ 「ひな壇のタレントたち」が面白いことが言えない

『ラヴィット!』は若い視聴者を取り込みたい狙いからか、裏番組に比べて若くて人気のあるお笑い芸人や「ひな壇タレント」を数多くキャスティングしている。それ自体は実に素晴らしいことだが、見た感じだとせっかくの豪華なひな壇があまり盛り上がっていないようで残念だ。

私はこれは実は構造的な問題で、「無理もない」と思っている。なぜなら「商品紹介」のVT Rでは「ひな壇芸人やタレント」は面白いことが言えないのが必然だからだ。

考えてもみてほしい。芸人やタレントなら誰しもCMや広告に起用されたいと思っているのが普通だ。なぜならCMに起用されれば、テレビ番組やそのほかの「営業」よりもはるかに高額のギャラを手にすることができる。そうなれば「〇〇社の製品ランキング」とか「どこどこのお店の人気商品ランキング」を面白く「いじる」ことはしにくいのだ。

例えばこれがワイドショーのように「社会問題」であったり、バラエティのように「面白い人物や他のタレント」であれば、若干貶したり落としたりして笑いを取ることもできる。しかし、企業の製品や商品を「落として笑いをとる」のは企業に嫌われるかもしれずリスキーだ。「良さそうですね」「美味しそうですね」などと、とにかく褒めるしかないのである。

その結果スタジオのタレントたちはそんなに面白いことは言えず、みんなでVTRの中に出てきた商品を「褒めまくるスタジオ」を展開するしかなくなってしまう。商品紹介なら、もっと視聴者代表や辛口のコメンテーターを入れて、若干厳しめの感想や辛口コメントの痛快さを狙ってほしい。そうしないとスタジオはなんとなく「テレビショッピングみたいな感じ」のやりとりになってしまい、番組全体の印象も「商品が買えないテレビショッピング」のようになってしまいかねないのだ。

ずいぶんと好き勝手に、厳しめのことを言わせてもらったが、ぜひ『ラヴィット!』にはワイドショーばかりのテレビのアンチテーゼとしての挑戦を成功させてほしい。そしてぜひ面白い「今の暮らしが10倍楽しくなるライフアイデア発見バラエティ!」として、人気番組になってほしいと心から願っている。

  • 鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。近著に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)

  • 撮影田中俊勝

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