既視感を憶えても…『イチケイのカラス』は竹野内豊にお任せを
奇跡の50歳、竹野内豊を見逃すな!
春ドラマのプライム帯放送の先陣を切って放送された『イチケイのカラス』(フジテレビ系)。
放送2回を経て『HERO』(フジテレビ系・2001年〜)との類似点がネットで騒がれた。確かに主役は“通販好き=ふるさと納税好き” “型破りな仕事ぶり”“バディは真面目な女性”など、共通することはいくつかある。でも本来、裁かれるべき人物が明るみになっていくことがリーガルもののキモなので、見ていて不快になることはまずない。
ただ自称ドラマオタクの目線から辿っていくと、他にも過去作を彷彿させる点がいくつか浮上してくる。その一部を紹介したい。
「警察と検事は何してる?」とテレビ前で総ツッコミ
まずは『イチケイのカラス』のあらすじを。
“入間みちお(竹野内豊)は刑事裁判官。事件の真相について、どこまでも自分が現場に足を運び、冤罪を阻止していくのがモットー。そんな彼と一緒に働くことになったのが、裁判官の坂間千鶴(黒木華)。入間とは違い、東大卒のエリートで、ルールから外れない堅物だ。タイプが全く異なる二人が所属する東京地方裁判所第3支部第1刑事部を舞台に、さまざまな事件の真相が浮き彫りになっていく”
第一話は、大学生が代議士にケガを負わせる傷害事件。この代議士の秘書で、自殺と処理されていたのは大学生の父親。その向こうには出廷した代議士の不正献金疑惑が浮上してくる。ここに違和感を感じた入間は法廷を飛び出して、父親の自殺を再度、現場で検証する。
第二話では実子虐待の罪に問われていた女性が、無罪を訴えて再審に。そこで様々な話を聞いていくうちに、子どもの手当をした医師、そして当時の裁判官が怪しいとまた法廷を飛び出す。医師の勤務する病院に押しかけるだけではなく、医師が不在でこれから海外出張へ行くと聞けば空港へ追いかけようとする入間。
ここまでの流れを見ていると「え、警察と検察は何をしていたのだろう?」と笑って突っ込みたくなるのだが、見る側には同じ現象が過去のドラマにもあった。それが石原さとみ主演の『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系・2020年)だ。
主役の薬剤師が処方された患者のもとに直接押しかけて、病状を確かめるシーンが散見した。それを見ながら「医師と看護師は何を??」とジリジリしていたことを思い出す。これがSNSの一部で“アンサング現象”と呼ばれている。
同じ傾向として『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系・2016年)では、校閲の女性が記事の間違いを正すために、よく現場へ出かけていた。実際、編集部で見つけることができなかった誤植を食い止めるお手柄だ。でも同じ出版業界に働く者としては「現場まで校閲さんに行かれてしまうと、編集者とライターの立場が」とも……。ちなみにこの作品の主役も石原さとみ。彼女は現場急行型の役が似合うのだろうか。
竹野内豊はいつまでカッコいいのだろうか……
まだ既視感は続く。第一話で入間は千鶴に裁判のことを
「浦島太郎に例えたらどうします?」
と、昔話になぞらえていた。これはかつてEテレで放送されていた『昔話法廷』がじわじわと脳裏に浮かんでくる。具体的な判決内容は違ったけれど、やはり昔話にはどこかに事件性が込められていると妙に納得をしてしまった。
他には『HERO』にも出演していた小日向文世の衣装にも見られた。裁判官の彼は法廷に出勤する際、マスコミから逃れるために変装をするシーンがあった。その変装が“定年後にバードウオッチングが趣味”という設定だという。ん? これは『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』(NHK総合・2021年)で小日向本人が演じていた65歳の男性と同じ……と、類似点を発見。どちらも同クールで放送していたのは、ちょっと近すぎたような……。
このように“アンサング現象”をはじめとして『イチケイのカラス』には、いくつかの既視感があった。でもこの事例を揶揄したいのではなくて、単純に楽しんでいる。なぜそんな幸せ思考に陥るかと言えば、そこには既視感をすべて覆すような主演・竹野内豊という字面だけでも強さを感じる俳優の存在があるからだ。
彼が月9に主演しているという事実は、絶大なスペシャル感がある。かつての『ロングバケーション』(1996年)『ビーチボーイズ』(1997年)『できちゃった結婚』(2001年)などの、平成ドラマ黄金期を思い出して、どこか色めきたち、『イチケイ』(すべてフジテレビ系)が気になってしまう女性視聴者は多いはず。
実は数年前とある町中華で偶然、竹野内豊とすれ違ったことがある。不意打ちの彼は本当に一瞬、息が止まるほど天使だった。どんな生活をしてどんな友達がいるのか、私生活は皆目検討がつかない。でも50歳という年齢が霞んでしまうほど、竹野内豊をまっとうして私たちをときめかせてくれている。一体彼はいつまでかっこいいのだろうか?
文:小林久乃
エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。
写真:2019 TIFF/アフロ