ひっくり返して見て! 別の意味が表れる「不思議な逆さ文字」
玄関で待っていた女性から見ると。
「おかえり」
帰ってきた男性側からは。
「ただいま」
見方を変えると、不思議と違う言葉が表れたーー。
関連画像で紹介するのは、「アンビグラム」といトリック文字だ。逆さまにしたり、鏡に映すとまったく違う意味に読めれる。20年のサッカー日本代表のユニフォームにアンビグラムが採用され話題に。刻まれた「日本晴れ」の文字が、反対から読むと「侍魂」になるのだ。考案したのは、アンビグラムの第一人者・野村一晟氏(30)。富山大学芸術文化学部に在学中、1本の映画をみて着想を得たという。野村氏が語る。
「09年に公開された小説『天使と悪魔』の映画版でアンビグラムを知り、なんて面白いんだろうと感激したのを覚えています。担当教授へ話すと、『人前でやってみたら』と言われました。『その場であなたの名前をアンビグラムにします』という趣向でイベントを開いてね。
たまたまイベントに参加していた他の大学の先生が興味を持ってくれて、美術館関係者や新聞記者に紹介。それがキッカケで少しずつアンビグラムが知られるようになりました」
母の日のプレゼントに最適
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以降、テレビや雑誌から出演依頼が多数くるようになった野村氏。作品は教科書の副読本でも取り上げられた。浸透し始めた、アンビグラムの難しさと醍醐味はなんだろうか。野村氏が続ける。
「向きを変えると、違う文字になるだけでは意味がありません。『おかあさん』が『ありがとう』に変化するなど、物語性を持たせることが大切なんです」
「おかあさん」が「ありがとう」に変わるメッセージカードは、母の日のプレゼントに最適だろう。野村氏が扱うのは、そうした一般的な言葉だけではない。「平成」が「令和」に、「トランプ」が「バイデン」に変化するなど、時事ネタも多い。
「アンビグラムで、世の中を風刺したいと考えています。自然とニュース性の高い言葉には、敏感になりますね。26文字しかないアルファベットならアンビグラムを作るのは簡単ですが、漢字やひらがなの組み合わせが無数にある日本語だと難しい。
コツは目に止まりやすい文字の左側を太く、視野に入りづらい右側を補足することです。アンビグラムには筆文字が、もっとも合います」
野村氏の作品から、「逆さ文字アート」の不思議な温かみを感じていただきたい。
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- 撮影:幸多潤平
- 作品クレジット:野村一晟/野村一晟アートプロモーション