劇場版『名探偵コナン』ヒットを生み出す「変化する力」 | FRIDAYデジタル

劇場版『名探偵コナン』ヒットを生み出す「変化する力」

最新作『緋色の弾丸』&過去作でわかるシリーズの変化と、「ファンを育て続けてきた」その歩み

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『名探偵コナン 緋色の弾丸』(2021年4月16日(金)全国東宝系公開) ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
『名探偵コナン 緋色の弾丸』(2021年4月16日(金)全国東宝系公開) ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

劇場版『名探偵コナン』の第24作『緋色の弾丸』が、1年間の公開延期を乗り越えて2021年4月16日に劇場公開を迎えた。公開週の動員ランキングは堂々たる1位。公開初日から3日間の興行収入は22.1億円、観客動員数は153万人。シリーズ歴代最高の興収となる93.7億円を記録した前作『紺青の拳』(2019)の144%を記録しており、初の100億超えは確実とのこと(この時点では3回目の緊急事態宣言は発出されていなかった)。

コロナ禍をものともしないロケットスタートを切った。

前人未到の興収400億円が目前に迫る『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』、興収80億円到達が視野に入った『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』、23日には『るろうに剣心 最終章 The Final』が公開と、強豪たちがひしめくなかで、どこまで数字を伸ばせるかに期待が高まる。

劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』で描かれるのは、世界最大のスポーツの祭典「WSG(ワールド・スポーツ・ゲームス)」の東京大会の開催前に起こる大事件。開会式に合わせて、最高時速1000kmを誇る「真空超電導リニア」の開通が発表され、国内は大盛り上がりを見せていた。

だがその裏で、大会スポンサーを務める各企業のトップが、相次いで拉致される事件が発生。その内容が15年前にアメリカ・ボストンで起きた「WSG連続拉致事件」と酷似していたことから、別件で日本で秘密裏に捜査を行っていたFBIが動き始める……といった内容だ。

コナンは、FBI捜査官の赤井秀一とその仲間(ジョディ、キャメル、ブラック)と協力して調査を進めることに。時を同じくして、イギリスの諜報機関「MI6」に所属する赤井の母メアリーとその娘・世良真純も動き出していた。また、赤井の弟である棋士・羽田秀吉(しゅうきち)と恋人の警視庁婦警・宮本由美も事件に関わることになり、「赤井ファミリー」が集結する。

元々は2020年に公開される予定だった本作、明らかに東京五輪にぶつけて事件を起こすという攻めた姿勢が興味深い。そういった意味で、Jリーグとタイアップした第16作『名探偵コナン 11人目のストライカー』のようなイベントムービーとしての意味合いもあるだろう。ただ、1994年から原作が連載開始(週刊少年サンデー)し、コミックスが99巻にまで到達した『名探偵コナン』は、いまや公安警察、FBI、CIA、MI6といった世界を巻き込んだスケールへと拡大中。劇場版でも、これくらいの巨大な物語にしなければ、キャラクターを十分に活躍させられないのだろう。

加えて、近年の劇場版コナンは作品ごとにコナンや蘭以外のメインで活躍するキャラクターを変える構造をとっており、今回の目玉である「赤井ファミリー」を活躍させるためには、「世界中の人が日本に集まる」スポーツの世界大会は格好の題材といえよう(黒ずくめの組織に小さくされたコナンを国外に連れて行くのはパスポートの問題など色々と制約があり、原作ではロンドン、劇場版では『紺青の拳』でのシンガポールに連れて行くのに策を要していた。そのため、コナンが国内にとどまったまま、国際的な事件を設定できる“仮想五輪”は非常に効果的なのだ)。

『名探偵コナン 緋色の弾丸』では、メアリー、赤井秀一、羽田秀吉、世良真純ら「赤井ファミリー」が集結。年に一度の劇場版ならではの”お祭り感”がある ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
『名探偵コナン 緋色の弾丸』では、メアリー、赤井秀一、羽田秀吉、世良真純ら「赤井ファミリー」が集結。年に一度の劇場版ならではの”お祭り感”がある ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

ただ、舞台設定は良いとしても、近年のコナン映画にはひとつ“ウィークポイント”がある。それは、「キャラクター押し」の構造に変えたことで、一見さんのハードルが上がってしまったということ。たとえば「黒ずくめの組織に身体を小さくされた高校生探偵・工藤新一が、江戸川コナンという仮の姿で難事件を解決していく」という出発点くらいしか認識していない層には、ほぼ「わからない」話になっているのだ。「赤井ファミリーって何のこと?」とお思いの方も多いのではないか。

ただ、テレビシリーズの“続き”を描いた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が国内で歴代最高の興収を記録し、全ての作品が繋がっているマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)が世界的に大ヒットしているように、もはや「ビギナーにはわからない」よりも「ファンが確実に動く」つくりにするほうが、シリーズものを制作するうえで効果的なのは確か。もちろん一つひとつの作品のクオリティが高いのは絶対条件だが、一見さん向けにする必要性は薄まっているといえるだろう。

また、劇場版コナンの上手い部分は、原作との補完関係にあるストーリーが展開すること。たとえば、あるキャラクターの“正体”が劇場版で先に暗示されたり、『緋色の弾丸』の中にも、赤井ファミリーの夢の競演はもちろん「灰原哀が眼鏡をかける」「ジョディが承認保護プログラムについて語る」といった“原作ガチ勢”にはグッとくる要素が仕込んであったり……。

元々『名探偵コナン』においては「原作勢」「TVアニメ勢」「劇場勢」の属性がそれぞれ異なっており、「原作だけ読んでいれば大丈夫」というファンも少なからずいたように思う。しかし今や、原作と劇場版が蜜月関係にあるため両方を押さえる必要があり、劇場版だけをイベントとして楽しんでいたファンも、「原作を読まないとわからない」構造になったため、原作(ないしTVアニメ)に手を出すようになった――という流れがある。

ただ、「一見さんには頑張ってもらう」構造であっても、『名探偵コナン』は非常に長い時間をかけて「ファンを育ててきた」実績がある。たとえば、今回メインで活躍する赤井秀一が初登場したのは原作の29巻だ。

キャラクター一人ひとりにちゃんと歴史があり、物語にしっかりと組み込んでいるため、『名探偵コナン』シリーズはただカッコいいとかかわいいだけのキャラクターというのが存在しない。原作者・青山剛昌氏のセンスには毎度驚嘆させられるが、全員が何かしらの形で「コナンVS黒ずくめの組織」の構図に関わっている。そのため、キャラクターの魅力にハマって作品を観始めた人々も、物語を深く理解するに至る、というわけだ。

『緋色の弾丸』でも大活躍する灰原哀(CV:林原めぐみ)。 ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
『緋色の弾丸』でも大活躍する灰原哀(CV:林原めぐみ)。 ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

このように考えていくと、劇場版シリーズの大ヒットというのも、決してラッキーパンチ的なものではなく、しっかりと練られたものであることが見えてくる。ではここで改めて、シリーズの興収とその変遷を見ていきたい。

第1作『時計じかけの摩天楼』から第7作『迷宮の十字路』までの興収は、大体25~30億円程度。クオリティも高くいまだにこの期間のファンも多く、十二分にヒット作だったが、興行成績的には今ほどのヒットシリーズではなかった。監督は、こだま兼嗣が務めていた。

このまま堅調に進んでいくかと思われたが、監督が山本泰一郎に引き継がれた第8作『銀翼の奇術師』から第14作『天空の難破船』で、異変が生じ始める。いくつかの作品の興収が振るわず、良い評価も得られなかったのだ。ただ興味深いのは、オールスター映画となった第10作『探偵たちの鎮魂歌』や、黒の組織が登場する第13作『漆黒の追跡者』が好成績を残せたこと。特に『漆黒の追跡者』は35億円とその時点での最高記録を叩き出した。

そして、少しずつではあるが、作品の内容に変化が生じ始める。それまでの劇場版コナンは「コナンが何をするか」だったのが(毎回エンドロールの後に発表される次作の予告も、豪華客船や飛行機といったシチュエーションにフォーカスしたものが多かった)、それ以降の劇場版コナンは「コナンが誰と組むか(誰がメインで活躍するか)」に主軸が切り替わっていくのだ。

そこに至るまでに、第16作『11人目のストライカー』ではJリーグ、第17作『絶海の探偵』では自衛隊と組み、新たなファンを連れてこようとする施策も行っており、苦心のほどがうかがえる。おなじみのメンツではなく、主題歌ミュージシャンに新しい風を吹き込もうとし始めたのも、このころからだ(「ゲスト声優」として著名人を起用し始めたのは、『漆黒の追跡者』から)。この2作はどちらも興収30億円超えと結果は出したが、特効薬とはならなかった。ちなみにその後、『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』も公開された。

40億円の壁を越えられない状況を打ち破ったのは、第18作『異次元の狙撃手』。ファンに人気の高い赤井秀一をしっかりと登場させた本作は、41億円の興収を獲得。続く第19作『業火の向日葵』では、怪盗キッドを再投入(興収は44億円)。そして、黒ずくめの組織との全面対決を超パワーアップさせたアクション描写と圧巻の熱量で描いた『純黒の悪夢』は、興収63億円と初期の倍以上の興収を叩き出し、劇場版コナンは「キャラクター押し」という新たなる金脈を確立するに至る。

ファンの中でも人気が高いFBI捜査官の赤井秀一(CV:池田秀一)。FBIきっての狙撃の名手であり、『緋色の弾丸』でも驚愕の神業を見せる ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
ファンの中でも人気が高いFBI捜査官の赤井秀一(CV:池田秀一)。FBIきっての狙撃の名手であり、『緋色の弾丸』でも驚愕の神業を見せる ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

その後、服部平治と遠山和葉をメインに据えた第21作『から紅の恋歌』は68億円、安室透を実質主人公にした第22作『ゼロの執行人』はなんと91億円の特大ヒット。勢いは止まらず、キッド、鈴木園子、京極真が大活躍する『紺青の拳』は93.7億円を記録。そして、100億円突破が確実視される『緋色の弾丸』が公開と、このまま順調に行けば第15作の『沈黙の15分』から10作品連続で右肩上がりで興収が上がり続けていることになる。

一見さんに寄せた「超大作のセオリー」を「ファン向け」に変え、同時に原作と連携した「ファンを育てる」をやり続けるという、「戦略の勝利」といえる劇場版コナンの歩み。ちなみに、コナン世代は大体30代前半であり(原作は1994年に連載開始、TVアニメは1996年に放送開始、劇場版は1997年にスタート)、経済的にも「趣味にお金を使える」年齢になってきたことも大きいかもしれない。

赤井ファミリーが「100億の家族」となり、シリーズ最高の記録を樹立できるのか。今後の推移に注目だ。

©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

『名探偵コナン 緋色の弾丸』
2021年4月16日(金)全国東宝系公開
©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。

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