進化?停滞?『イチケイ』『レンアイ』原作脚色に賭けるフジテレビ | FRIDAYデジタル

進化?停滞?『イチケイ』『レンアイ』原作脚色に賭けるフジテレビ

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他局の新作ドラマはほぼオリジナル

ドラマ『イチケイのカラス』で竹野内豊が演じる主人公は”小太りメガネの中年男”という漫画での設定とは異なり、”スリムなヒゲのイケメン”に(写真:2019 TIFF/アフロ)

4月下旬に入って春ドラマの主要作が出そろい、ネット上には連日、関連記事が量産されているが、善し悪し両方の意味で目立っているのがフジテレビ。

今春のフジテレビは、竹野内豊が型破りな裁判官を演じる『イチケイのカラス』、鈴木亮平が人づきあいの苦手な天才漫画家を演じる『レンアイ漫画家』の2作を放送している(『大豆田とわ子と三人の元夫』は関西テレビ制作、『最高のオバハン 中島ハルコ』は東海テレビ制作)。

ここまでは『イチケイのカラス』に好意的な声が目立ち、視聴率も順調な一方、『レンアイ漫画家』には否定的な声が飛び交い、視聴率も低迷。残酷なまでに明暗が分かれているが、両作には「原作漫画を大幅にアレンジした」という共通点がある。

ひいては、フジテレビが3月まで放送していた『監察医 朝顔』と『知ってるワイフ』も原作からの大幅なアレンジがあり、どちらも原作ファンと視聴者からの反応は上々だった。

一方、他局の新作ドラマに目を向けてみると、日本テレビの『恋はDeepに』『コントが始まる』『ネメシス』、前期の『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』『レッドアイズ 監視捜査班』『君と世界が終わる日に』はすべてオリジナル。

TBSの『着飾る恋には理由があって』『リコカツ』、前期の『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』『俺の家の話』『天国と地獄~サイコな2人~』はオリジナルで、原作ありは『ドラゴン桜』の1作のみ。

テレビ朝日の『桜の塔』、前期の『にじいろカルテ』はオリジナル。

つまり、他局がオリジナルを手がける中、なぜフジテレビは原作ファンからの批判を受けるリスクの高いアレンジに挑んでいるのか。進化にも、停滞にも見える戦略の実態を掘り下げていく。

成功体験がさらなる大胆な脚色を実現

まずは「フジテレビの各ドラマがどれくらいのアレンジを行っているのか」を簡単に紹介していこう。

『イチケイのカラス』の原作漫画は、主人公が坂間だったが、ドラマでは入間みちおに変更。入間は「小太りメガネの中年男」から「スリムなヒゲのイケメン」に代わり、坂間の性別は男性から女性に変わった。その他、各話のエピソード、「職権発動」の決めゼリフ、入間のふるさと納税好きなど多くの点で脚色が見られる。

『レンアイ漫画家』の原作漫画も、主人公は刈部清一郎ではなく、久遠あいこだった。さらに、あいこの年齢は23歳から29歳に引き上げられ、「ダメ男ホイホイ」と呼ばれる崖っぷちのアラサーに変更。気の強い性格から温厚なお人好しに大きく変えられている。

『監察医 朝顔』の原作漫画は、主人公が母を失った理由が阪神淡路大震災から東日本大震災に変更。東北を訪れて行方不明の母を探すシーンが何度となく描かれた。朝顔や夫・桑原などのキャラクターも大きく変わり、原作では少なかった娘・つぐみが生まれてからのエピソードがたっぷり描かれるなど、ホームドラマの要素が濃くなった。

『知ってるワイフ』の原作である韓国ドラマはコメディテイストだが、日本版は夫婦関係をめぐるシリアスなムードに終始。その他でも、重要な出会いのシーンや、ヒロインの職業、さらには結末などがアレンジされていた。

特筆すべきは、この4作を見た原作ファンからの批判が限りなく少なかったこと。これは「原作の世界観を大切にしながら、別角度から物語を見せるような脚色がうまくいっていた」ということだろう。

とりわけ『イチケイのカラス』は、キャラクター、セリフ、行動、相関図、音楽などで20年前の大ヒットドラマ『HERO』を踏襲するような大幅な脚色が見られる。ここまで大胆に脚色できたのは、『監察医 朝顔』や『ルパンの娘』などの原作アレンジが一定の成果と評価を得られた成功体験によるものだろう。

また、「原作者の了解を得ている」ことを放送前から公表した配慮も見逃せない。これは原作ファンの批判を未然に防ぐための策であり、実際に効果を挙げている。2000年代は実写ドラマ化に対する原作ファンの拒絶反応が強烈だったが、現在は当時ほどではなくなっていることもあり、このような配慮があれば、よほどひどい改編でない限り受け入れてもらえるようになった。

TBSの原作アレンジはさらに強烈

ただ、「フジテレビのドラマが盤石か」と言えばそうではなく、むしろオリジナルを手がけている他局はその数歩先を歩いている。そもそも原作のあるドラマばかりに偏っているのは、オリジナルを手がけるリスクや手間を考慮してのこと。局内で「オリジナルを手がけよう」という気運が他局よりも低く、企画が通りにくい状況が推察される。

また、原作アレンジもフジテレビの独壇場ではなく、昨年TBSは『テセウスの船』でドラマオリジナルの黒幕を加え、『半沢直樹』では大和田暁や黒崎駿一を再登場させ、「半沢と共闘する」という荒業で視聴者を驚かせた。オリジナルを次々に制作しながら、ときどき大胆な原作アレンジを手がけるTBSはフジテレビが次に目指すべき姿と言っていいだろう。

原作アレンジの精度が上がっていることに安心せず、「他局がオリジナルばかりならウチは原作を選びやすい」と守りに入らず、積極的に仕掛けていけるか。もし今、フジテレビにそんな姿勢があったら、「連ドラ初の裁判官が主人公のドラマ」は、『イチケイのカラス』ではなく、オリジナルが制作されていたかもしれない。

「これくらい大胆なアレンジができるのだから、オリジナルも手がけられるはずだ」というムードを社内で作れるか。フジテレビのドラマ関係者に勇気が求められている。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

  • 写真2019 TIFF/アフロ

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