好きなコトしかしたくない!「バカ映画」一直線監督に学ぶ生き方 | FRIDAYデジタル

好きなコトしかしたくない!「バカ映画」一直線監督に学ぶ生き方

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世界が認めた日本の「バカ映画」。その監督、河崎実とは?

この世に「映画バカ」は星の数ほどいても、「バカ映画バカ」はただ一人、河崎実監督のみと断言しよう。人は彼をこう呼ぶ。「どこに出しても恥ずかしい監督」と。フジテレビ系列『世にも奇妙な物語』監督や『ウルトラマンティガ』脚本共同執筆など、まっとうな仕事(?)もする一方で、自身の作品は「バカ映画」一本やり。なぜそうなってしまったのか? そしてそのパワーの源は? お聞きしたい。

雨の中でも「ヤァ!」と元気そのものの河崎実監督。冬でも夏でもアロハシャツ。この日は自作『電エース』の絵柄入りオリジナル(撮影:安部まゆみ)
雨の中でも「ヤァ!」と元気そのものの河崎実監督。冬でも夏でもアロハシャツ。この日は自作『電エース』の絵柄入りオリジナル(撮影:安部まゆみ)

「くだらない。時間の無駄だった」が最高の褒め言葉

サブカル系には根強い人気を誇るものの、「え、誰?」という人のために、まずは何作かの監督作品を紹介しよう。

【5秒でわかる河崎作品】 

  • ■『飛び出せ!全裸学園』(’95年)甲子園の予選で怪我をしたエースが野球のうまいJKに「ひと肌脱いでくれ」と頼み、その後、JKは全裸で学園生活を送るという話。
  • ■『ヅラ刑事』(’06年)ドクター・中松に改造されてヅラに命を与えられた刑事が、ヅラを投げて悪と戦う。モト冬樹主演。
  • ■『三大怪獣グルメ』(’20年)国立競技場を丼にして巨大海鮮怪獣を海鮮丼に。調理するのは浅草かっぱ橋ニイミ洋食器店のシンボル、ジャンボコック。監修は久住昌之氏だ。

大体おわかりいただけただろうか。

(右)『地球防衛少女イコちゃん30周年記念盤』(’17年)シリーズ3作品収録。(中)三越福袋企画『メグ・ライオン』(’20年)。長谷摩美さんが素人離れした演技を披露。(左)『電エースキック』(’19年)。キックボクシング元世界チャンピオン小林さとし主演!
(右)『地球防衛少女イコちゃん30周年記念盤』(’17年)シリーズ3作品収録。(中)三越福袋企画『メグ・ライオン』(’20年)。長谷摩美さんが素人離れした演技を披露。(左)『電エースキック』(’19年)。キックボクシング元世界チャンピオン小林さとし主演!

ウルトラマンから卒業できないまま還暦超え

河崎監督は1958年、銀座でふぐ料理店を営む両親のもとに生まれた。

「一人っ子なんで甘やかされ放題ですよ。オバQグッズもウルトラマンのフィギュアも全部持ってました」(河崎実監督 以下同)

その後、映画『若大将シリーズ』(スポーツ万能の加山雄三が何でもこなし、ひたすらモテまくる)、『無責任シリーズ』(植木等が調子よく世渡りし、ひたすら成功する)に深い感銘を受ける。

「ウルトラマン、若大将、無責任で俺のアイデンティティーが確立しました」

中学時代、ウルトラマンからの卒業を切望する親にグッズを全部捨てられそうになるが拒否。「こんないいものをなぜ卒業しなくちゃいけないんだ!」と奮起し、円谷プロに入り浸りになる。

「当時、祖師ケ谷大蔵の円谷プロに怪獣倉庫というのがあって、歴代の怪獣が虫干しとかされてズラッと並んでるんですよ。怪獣天国です。ずっとここにいたいなと思ってました」

その後、監督は明治大学農学部に進み、映画研究会に入る。

「入ったのはいいけど、みんなゴダールとか観ていて“何だこいつら、気取りやがって”と。

こっちはバカ映画しか撮りたくないので、他の大学にも原口智生(『平成ガメラシリーズ』などを手掛けた特撮界のレジェンド)とかすごい奴がいっぱいいたから、そういう奴らを集めてウルトラセブンの映画を勝手に作ったりしてました。円谷プロに行き“運動会で使う”とか言って着ぐるみ借りてきて」

嘘をついて本物を借りてしまうのもすごいが、貸してくれる円谷プロもどうかしている。

監督の本拠地、中野の「ルナベース」に飾られたウルトラマンシリーズなどの怪獣たち。ルナベースはイベントスペースだが、毎週金曜の夜のみお店となり、「河崎実ナイト」が開かれる
監督の本拠地、中野の「ルナベース」に飾られたウルトラマンシリーズなどの怪獣たち。ルナベースはイベントスペースだが、毎週金曜の夜のみお店となり、「河崎実ナイト」が開かれる

情熱だけで突き進む、令和の無責任一大男

「好きなコトしかしたくない」で40年。それで食べていくための秘訣を探ってみよう。

【河崎実・痛快武勇伝】 

  • ■超偉大&有名人が喜んで作品に参加する 

例えば『日本以外全部沈没』(’06年)は原典・小松左京、原作・筒井康隆、監修・実相寺昭雄。出演・村野武範、寺田農、藤岡弘、と蒼々たるメンバーが名を連ねる。他作品でも斉藤工、檀蜜、竹中直人、ビートたけし、石坂浩二などなど「この人がなぜ!?」は枚挙にいとまがない。

「ハッタリで声をかけると、なぜか受けてくれるんですよ。向こうも“こいつはアホなんだな”ということがよくわかってるから“ああいいよ、すばらしいね”と」

河崎監督の愛すべきキャラクターとバカ映画にかける情熱が人を動かすのだ。

  • ■監督自らが予算集めに奔走 

「なぜか。それは誰も“イカがレスラーの映画を撮りませんか?”なんて言ってくれないからですよ。バンダイでも電通でも、“イヨォやってますか。ちょっと500万、なんとかお願いします”の繰り返しです」

  • ■バカ映画制作が三越の福袋企画に 

『メグ・ライオン』は「あなたをSFコメディ映画の主役に」という日本橋三越本店の福袋企画。福袋の値段は450万円(税抜き)だ。快諾した三越の真意が理解できない。

「だって応募があるなんて思ってないでしょ。それが来ちゃったから仕方ないなという感じだったんじゃないですか」 

ちなみにメグ・ライアンには何の思い入れもないという。

  • ■設定はすべてあとづけ 

『電エース〜ハンケチ王子の秘密〜』(’07年)、『母さん助けて電エース』(’14年)など、ちょいちょい世相を入れながら30年以上続く『電エース』シリーズでは、気持ちがよくなると主人公が電エースに変身する。ちなみに初期設定では身長2000m。ウルトラマンの50倍だ。 

「東京タワーのミニチュアを買ってきて並べてみたら、縮尺の関係でそうなっちゃったんですよ。倒れただけで港区全滅です(笑)」 

  • ■海外でバカウケ 

『いかレスラー』(’04年)はカナダファンタジア映画祭でアジア映画部門観客賞受賞。『三大怪獣グルメ』はボストンSF映画祭でベストコメディ賞を受賞している。

「海外では“イカの人”で通ってます。外国人はイカとかタコに弱いんですよ。デビルフィッシュは歌舞伎や能に並ぶ日本の伝統文化だね」

ルナベースの隣りは偶然にも「大怪獣サロン」、上の階には仮面ライダーV3の長男経営のバー。磁場でも狂っているのだろうか、みな引き寄せられている
ルナベースの隣りは偶然にも「大怪獣サロン」、上の階には仮面ライダーV3の長男経営のバー。磁場でも狂っているのだろうか、みな引き寄せられている

泣いても笑っても一生は一生。ならばこんな人生を送ってみたい!

薄々気づいてはいたが、取材を通して確信した。河崎監督は要するに、万年少年なのだ。

「子どもの頃はみんなウルトラマンが好きで、“俺が世界一好きだ!”と思ってるけど、みんなやめちゃうんだよね。ずっと好きだったのは俺だけだった。小学生のとき、まさか自分の作品に初代ウルトラマンのハヤタ隊員やウルトラセブンのモロボシ・ダンが出てくれるなんて思ってもいないじゃないですか。それを実現させてるんだから面白い。本家に勝つつもりは当然ないけど、駄菓子を作ってる感覚です」

河崎監督のライフワークともいえる特撮史上最高最低のヒーロー『電エース』シリーズの最新作は、今年6月に撮影予定。ムード歌謡の貴公子タブレット純が主役の電五十二郎を演じ、ムード歌謡をフルコーラス歌い、気持ちよくなって変身。宇宙怪獣をやっつける。

「歌ってる間に怪獣逃げちゃいますよね」

さらに1958年に日本テレビ系列で放映された『遊星王子』のリメイク作品も、この秋に劇場公開される予定だ。どんな話なのか古すぎて誰もわからないが、「そこがマウントをとられないからいいんですよ」と開き直る姿が潔い。

「バカ映画というけれど、バカこそが尊い。『天才バカボン』、『空手バカ一代』、どれも傑作じゃないですか。みんなバカにするけど、本当はバカになりたいんじゃないですか? 感動モノを否定するわけじゃないですよ。でも俺はやらないし観ないというだけ。だから俺が家で映画観てると嫁が怒るんですよ。『愛の不時着』とか観ながら“この映画は怪獣出るのか? いつ出るんだ?”と言って怒られてる」

バカとは突き抜けた存在。それを地で行っているのが河崎監督その人なのであった。

豪華キャストがてんこ盛りの予告編集

河崎実 1958年、東京都生まれ。明治大学在学中から特撮8ミリ映画を製作。卒業後、CMプロデューサーを経て映画監督へ。監督デビュー作は『地球防衛少女イコちゃん』(’87年)。『日本以外全部沈没』は第16回東京スポーツ映画大賞特別作品賞を受賞。『ギララの逆襲洞爺湖サミット危機一髪』(’08年)は、ヴェネチア国際映画祭に公式招待されている。著書に『バカ映画一直線! 河崎実監督のすばらしき世界』(徳間書店)、『河崎実監督の 絶対やせる爆笑痛快人生読本』(山中企画出版部)などがある。他の追随を許さない、日本一のバカ映画の巨匠である。

■河崎実監督の製作会社リバートップのHPはコチラ

  • 取材・文井出千昌

    フリーライター。「ナニコレ面白そう〜」だけでウン十年もライターを続けている。河崎監督とは監督作品『永遠のルンナ』(’18年)が縁で知り合ったが、今回の取材でタブレット純、島本和彦、サリー久保田、故・森田芳光など、あまりにも多くの知人友人が被っていて驚く。「バカが好きな者」として出会うべくして出会ったのだと、勝手に運命を感じた。

  • 撮影安部まゆみ

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