緊急事態宣言下でもテレビ番組に影響が少ない5つのワケ | FRIDAYデジタル

緊急事態宣言下でもテレビ番組に影響が少ない5つのワケ

コロナ禍で編み出された新しい制作ノウハウとは

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昨年の緊急事態宣言以来、コロナ禍での制作スタイルを模索し続けてきた各テレビ局。「海外ロケ番組」の代表格とも言える『日立 世界ふしぎ発見!』(TBS)でも、リモート技術を駆使しているという(写真はYouTube「TBS公式 YouTuboo」より)
昨年の緊急事態宣言以来、コロナ禍での制作スタイルを模索し続けてきた各テレビ局。「海外ロケ番組」の代表格とも言える『日立 世界ふしぎ発見!』(TBS)でも、リモート技術を駆使しているという(写真はYouTube「TBS公式 YouTuboo」より)

ゴールデンウィークは書き入れ時だったのに、いきなりの緊急事態宣言の影響を受けて大変な打撃となってしまった。そんな業界は多いと思う。エンタテインメント業界でも映画や舞台などは大きな影響を受けているはずだ。

もちろんテレビも緊急事態宣言の影響を受けないわけではない。しかし、思ったよりもその影響は少ないという声が現場からは聞こえてくる。いったいなぜテレビの制作現場はそれほど緊急事態宣言の影響を受けないのか、テレビマンである筆者がその理由を紹介したい。

新しいスタイルで制作するノウハウが生み出された

まず一番に挙げられるのは「テレビ制作の新しい方法論」が確立されてきたということ。去年の緊急事態宣言下で番組制作の現場は大変苦しんだ。番組の収録・ロケは軒並み中止され、多くの番組が再放送に置き換えられた。そしてそんな中、テレビマンたちは苦心しながら新しい番組の制作方法をいろいろと編み出したのだ。

zoomやskypeなどを利用したリモートでのインタビュー収録はもはやお手のものだ。当初は回線状態が脆弱なことによるトラブルや、ビデオカメラを使った再撮が上手くいかずトラブルが頻発したが、現在では技術スタッフやADも手慣れてきて、実にスムーズに収録が行われている。

海外ロケも「東京にいながら」可能に

また、現在では「リモートでのロケ方法」も一段と進歩を遂げている。多くの海外ロケ番組が存在するのに、緊急事態宣言でもロケがストップしないのは、「東京にいながら海外の出演者と技術スタッフをリモートコントロールする」手法がほぼ確立したからだ。

世界各国には多くの日系制作技術会社や、日本人のコーディネーターが存在している。そんな彼らが、現地でカメラマンなどの役割を担い、リポーターに現地在住の日本人や日本語が話せる人物を起用する。その撮影現場と東京のディレクターをオンラインで繋いで、「はい、そこでカメラをパンしてください」「リポーターさんは歩いてお店に入りつつリポートをしてください」などと、現地に東京から具体的な指示をオンタイムで出すのだ。

この方法が確立されたことで、仮にコロナが収束したとしても海外へは行かず、東京にいながら世界中でロケが可能になった。これはコストや制作期間の短縮という意味でも非常に大きな技術の革新だ。新しいテレビの可能性を広げるかもしれない。

国内ロケ番組もあらかじめ「緊急事態を想定した企画」に

海外ロケだけではなく、主に国内ロケで成り立っているバラエティについても影響はあまりない。というのも、現在放送されている番組のほとんどは、昨年から今年の初めにかけて企画決定されたもので、そもそもその時点で「緊急事態宣言が出ても問題なくロケが可能なもの」という大前提で選ばれているからだ。

地方への移動を伴うロケはそもそも可能な限り避けられているし、近県でのロケについてもいざという時には都内などに「振り替え」できるようにあらかじめ想定されている場合も多い。

また、去年の「再放送に頼らざるを得なかった時期」に、各番組ともアーカイブされた過去の取材テープなどをスタッフ総出でもう一度見直している。その結果、有効利用できる過去の素材はできるだけうまく利用し、新しくロケに行く割合は極力少なくて済むよう、構成が考えられているのだ。こうして「安全第一」で「よほどのことがない限り制作が止まらない」ようにセーフティネットが張られているというわけだ。

収録は「多種多様なアクリル板」の普及で容易に

去年の緊急事態宣言の際に、番組制作の最大のネックのひとつとなったのが、「スタジオ収録での感染防止対策が難しかったこと」だ。当初は、感染防止用具もあまりなく、スタジオ内には「局員であるアナウンサー以外の出演者は入れてはいけない」とする局などもあって番組収録は困難を極めた。

しかし現在では、実に多種多様なアクリル板をレンタルする業者が登場して、比較的安価で簡単に借りることができるようになった。また、蜜を避けるためいくつかのスタジオを同時に開き、他のスタジオにいる出演者を違和感なく「その場にいるかのように見せる」縦型のモニターなども大幅に拡充され、比較的スタジオ収録のハードルが下がっている。

編集も「密にならず、人と合わない」方法が登場

そして、取材ロケ・スタジオ収録が終了した後の編集作業にも大幅な革新が見られている。

まだ一部の番組に限られてはいるものの、局内の編集室とディレクターがいる部屋をリモートでつなぎ、編集マンとディレクターが顔を合わさずにVTRを編集したり、ナレーター、オペレーター、ディレクターが顔を合わさずにナレーション収録を行なったりすることが可能な編集室も増えてきている。こうすることで、在宅では作業することが難しかった本編集・MA(録音・整音)作業すらも次第に三密を避けて行えるようになってきた。

さて、こうしてテレビ番組制作の現場では緊急事態宣言が出ても、あまり影響を受けずに放送を継続することができているのだが、決してコロナ禍の影響を受けていないわけではない。確かに緊急事態宣言で外出せずにテレビを見る人が増えていることから、視聴率は決して悪くはない状況だが、経済の冷え込みに伴ってCMの売れ行きは決して良くはない。「視聴率は良いが、お金にはならない」状態が続いているのだ。

そして、目の前に迫った東京オリンピック・パラリンピックの開催にもいまだに不安要素が無いとは言えず、「本当にオリ・パラ番組が放送できるのか」という不確定要素もある。番組予算は減少の一途をたどっているし、現場はまさに火の車だ。そんな中、現場のテレビマンたちが「なんとか面白い番組を視聴者に届けよう」と必死で頑張っているからこそ、今日も再放送ではなく新作の番組が放送されているのだということを忘れないでおきたいものである。

  • 取材・文鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。近著に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)

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