ラグビートップリーグ活躍選手が「ヴィーガン食」にトライする理由 | FRIDAYデジタル

ラグビートップリーグ活躍選手が「ヴィーガン食」にトライする理由

中田敦彦やローラも実践したとされる「菜食主義」。実践中ラグビー選手に、その理由を聞いてみた

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ラグビー王国ニュージーランド代表のTJペレナラは、今季の国内トップリーグに参戦して大車輪の活躍。以前まで下位に低迷していたNTTドコモに加わり、前年度に90点差以上をつけられた相手にも2点差に迫った。

新天地での挑戦を楽しむ本人は、私生活ではヴィーガンになったと公言。消耗の激しいラグビーをしながら、肉や魚に加え卵や乳製品も口にしないヴィーガンを貫くのはなぜか。選手生活への影響は。本人と専門家の証言に迫る。

NTTドコモ躍進のキーマン

明るい人に映る。厳しい戦いの最中も楽しげに笑い、プレーが途切れれば対戦チームにいる知り合いへ朗らかに話しかける。TJペレナラその人は言う。

「自分の知らない人や知らない環境を前にすれば少し、人見知りをします。グラウンドへ出るとそんなことはないのですが」

ワールドカップ優勝3度の強豪「オールブラックス」ことニュージーランド代表として、通算69回の代表戦へ出た29歳である。身長184センチ、体重90キロのサイズは、攻めの起点であるスクラムハーフの選手にあっては大柄。速くて強靭だ。同代表が戦前に披露する、先住民族マオリの儀式「ハカ」では先導役も任される。

2021年は日本のトップリーグに参戦。ずっと16チーム中2ケタ台の順位に甘んじていたNTTドコモで開幕3連勝を果たし、4月10日、東大阪市花園ラグビー場でのレギュラーシーズン最終節を4勝2敗の戦績で迎える。相手は神戸製鋼。2018年度の王者だった。

不成立となった2020年シーズン、NTTドコモはこのカードを0―97と大差で落としていた。

しかしこの午後は、試合終了間際まで3点リードを保つ。

持ち味をスコアに繋げた1人が、背番号9のペレナラだった。

相手の落球を誘う絶妙な位置取りとタックル、快足を活かしたスコアとチャンスメイク、ぎりぎりのところで向こうのトライを防ぐインゴールエリアでの粘り…。最後は29―31となるも、会場内外の愛好家を唸らせた。

ピンチとチャンスに顔を出し続けたのは、それ以前の6戦においても同じだった。今季は勝った4戦中3戦が5点差以内。チーム内に与えるペレナラの効果は、他の強豪にいる各国代表戦士のそれとも一線を画す。本人はこうだ。

「一貫性を持ってプレーできれば、どんなチームへも勝つチャンスが巡ってくる」

新天地で「(日本は)スピードのあるラグビーをする印象があります。毎週、試合をするのが楽しみ」と話すペレナラは、私生活にもある種の「一貫性」を保つ。

ヴィーガンという、動物性の食物を摂らない生き方を選ぶのだ。大阪の練習場の近くに、ヴィーガン対応のメニューを出してくれるカフェも見つけた。

ヴィーガニストには世界中の俳優やアーティスト、さらには身体を酷使する運動選手が一定数、含まれる。

ラグビー選手にとってリスクはないのか

ラグビー元日本代表で日野在籍の村田毅の妻で、トッププレーヤーの身体作りを支える「アスリートフードマイスター1級」の資格を持つ村田英理子さんは、以前、海外の拠点で2020年からヴィーガニストになったスイマーと対談。「無駄な脂肪も落ちたし、身体が凄く感覚として軽くなって、タイムもよくなった」と、前向きな感触を得られたという。

ヴィーガニストは身体のさびつきを防ぐビタミン、新陳代謝を促すミネラルを野菜からたくさん摂れる一方、筋肉の材料となるたんぱく質が得づらそうに思える。肉や魚に加え、卵、乳製品も口にしないからだ。激しく身体をぶつけるラグビー選手にとって、リスクはないのだろうか。

村田さんはこう説く。

「植物性(の食物)からビタミン、ミネラルを摂ることで、結果的に回復が早くなることもあると思います。ヴィーガンとアスリートにとってたんぱく質が足りるのかは、個人的にも模索中です。ただ一般的には、たくさん種類があるお豆をまんべんなく食べることでたんぱく質も摂れ、(たんぱく質のもととなる)アミノ酸の偏りもなくなると考えられています」

ここへ動物性食品に多く含まれるビタミンB12をサプリなどで補えば、赤血球の不足に伴う貧血や酸欠も防ぎうる。ちなみにペレナラがヴィーガンに転じたのは、ワールドカップ日本大会を終えた2019年秋以降である。さらに、その3年以上も前から菜食主義だった。ずいぶん前から肉や魚と距離を置き、2021年のトップリーグを沸かせている。前向きな言葉にも説得力が帯びる。

「たんぱく質は野菜からでも十分に採れます。大変だったということは特にないです。コンディションも問題ありません」

ペレナラの特異性に触れ、村田さんは「(今後)ヴィーガンになろうとする選手は増えそうですね」と言って、こうも補足する。

「ただ、いきなり食生活を変えるのは難しいです。よほど強いモチベーションの炎がないと、制限が多く感じるのでは。私が対談した水泳選手も、最初にパフォーマンスアップのために(ヴィーガン生活を)した時は続かなかった。その後、動物の命という点に響くものを覚えたらしく、そこからきれいに切り替えられたと話していました」

その意味では、ペレナラは心に「炎」を燃やしていた。現在のスタイルに行きつくより約3年も前からベジタリアンで、ずっと「環境問題に興味があった」。自分がヴィーガニストである意味を、かように語るのだ。

「いま住んでいる地球は特別な惑星だと思っています。簡単に言えば、(人々に)農業や地球に対して優しくいて欲しい。ヴィーガンになるよりも少し前から、こう考えるようになりました。もちろん、僕の意見に反対する人もいます。ただ、私がこのように発信することで、子ども、次の世代の子どもが、それぞれ地球を大切にする…。そうなっていけばと思っています」

例えば、いまこの瞬間に食肉を控えることで、動物の命やそれを維持するための穀物の消費を抑えられる。「惑星」に「優しく」できる…。未来への想像力を日々の暮らしに反映させ、日々、芝に立つ。

4月25日からは、負けたら終わりのプレーオフトーナメントへ突入した。2回戦でホンダを21-13で下し、クラブ史上初の8強入りを果たした。5月8日には準決勝進出をかけ、2018年度まで2季連続4強入りの強豪、トヨタ自動車戦に挑む。

異国での暮らしについて「こういう(外出がしづらい)状況なので、日本の文化に触れる時間が設けられていない」と苦笑しながら、新たな生活様式を仲間の喜びに昇華させている。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター 1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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