佐藤健が『るろうに剣心』と駆け抜けてきた10年の軌跡 | FRIDAYデジタル

佐藤健が『るろうに剣心』と駆け抜けてきた10年の軌跡

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『るろうに剣心 最終章 The Final』(公開中) ©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心 最終章 The Final』(公開中) ©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

制作発表から、なんと10年。2011年6月に実写映画化が発表された『るろうに剣心』が、シリーズ第4作『るろうに剣心 最終章 The Final』(公開中)と第5作『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(6月4日公開)をもって完結する。

東日本大震災や新型コロナウイルスの余波を乗り越えて、ここまで成長してきたシリーズのフィナーレは、実に感慨深い。日本のビッグバジェットの実写シリーズの歴史を観ても、ここまで人気を獲得し、かつ続いた作品は珍しく、まさに一時代の終わりを感じさせる。

シリーズ最大の功労者のひとりであり、10年という月日を駆け抜けた主演俳優・佐藤健の躍進も、非常に興味深いところ。

いまや、いち俳優の領域を超えた存在にまで到達した彼は、第1作の制作当時は22歳。2006年の俳優デビューから5年が経った若武者であり、いまでは考えられないことだが、原作の人気も相まって、少なからず「務まるのか」という不安の声も上がっていたと聞く。

そうしたネガティブな声やプレッシャーをはねのけて、国内におけるスターの定義すら塗り替え、人々の心に灯をともす「ヒーロー」へと上り詰めた佐藤。今回は、彼が『るろうに剣心』と歩んだ10年間を改めて見ていきたい。

『るろうに剣心 最終章 The Final』 ©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心 最終章 The Final』 ©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

まずは、「『るろうに剣心』が佐藤健主演で実写映画化」の第一報が出た2011年に時を戻そう。佐藤健は、『仮面ライダー電王』(07~08)や映画化もされたドラマ『ROOKIES』(08)、映画『BECK』(10)等々に出演し、実力を示すと共に、着実に認知度が広がっていった時期だった。『るろうに剣心』の原作者・和月伸宏も『仮面ライダー電王』で佐藤に注目し、実写化の打診が来た際には、主人公の緋村剣心役に彼を推したという。

ただ、個人的にターニングポイントだったように感じるのは、NHK大河ドラマ『龍馬伝』(10)だ。『るろうに剣心』を共に作り上げてゆく大友啓史監督との初タッグとなった本作で佐藤に任されたのは、岡田以蔵。そう、「人斬り以蔵」として有名な人物だ。ただ本作では、ギラついたキャラクターとしては描かれない。むしろその逆で、純朴で人懐っこい性格の好青年が、暗殺者に仕立てられて堕ちていくグラデーションを丹念に、かつ切実につづっていく。

剣心の過去を克明に描く『るろうに剣心 最終章 The Beginning』でその詳細が描かれるのだが、「尊敬する人の役に立ちたい」という一心で暗殺稼業に手を染めてしまう以蔵は、「誰もが安心できる新時代を作りたい」との願いと共に人斬りとなった剣心とオーバーラップする。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(6月4日公開) © 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(6月4日公開) © 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

また、佐藤が『龍馬伝』で見せた「変移する演技」は驚異的で、『るろうに剣心 伝説の最期編』(14)で披露した「入り込みすぎて狂気が全身から立ち上る」姿の片鱗を感じさせる。こうして見ていくと、この作品での一世一代の力演が、『るろうに剣心』につながっているように思えてならない。

そして、『るろうに剣心』(12)は佐藤の潜在力を大いに引き出す代表作となった。デビュー当初より抜きんでていた超人的な身体能力にはさらに磨きがかかり、観る者を圧倒したが、演技面で注目したいのは「身体能力と表現の連結」だ。

前述の「入り込む憑依演技」を含め、佐藤の演技は身体性との結びつきが強い。たとえアップで撮られているカットであれど、身体全体がその役になりきっているのだ。だからこそ、彼が演じるキャラクターには、説得力が伴ってくる。

『るろうに剣心 最終章 The Final』 ©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心 最終章 The Final』 ©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

たとえば『るろうに剣心』では、人斬り時代の緋村剣心=緋村抜刀斎と現在の剣心の両方を演じているが、身体面での演技がまるで違う。抜刀斎のほうはひきつけを起こしたような動きと、つぶやくようなセリフの発語で異様な雰囲気を醸し出しつつ、超速の剣技で大きなギャップを生み出している。

剣心のほうでは対照的に、ほんわかした空気を身にまとい、口癖の「おろ?」まで原作から完コピ。ただし、戦闘シーンになると抜刀斎時代の狂気がほんのわずかにじみ、鋭い眼光や「声を立てる」演技でがらりとイメージを変える。これらの芸当を成し遂げられるのは、身体と感情がハイレベルに連携できているが故だろう。佐藤ならではの特長といえる。

『るろうに剣心 最終章 The Final』 ©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心 最終章 The Final』 ©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

こうした彼の奮闘もあって、『るろうに剣心』(12)は興行収入30億円を突破する大ヒットを記録。続く『るろうに剣心 京都大火編』『るろうに剣心 伝説の最期編』も2作あわせて興収100億円に迫る好成績を叩き出し、佐藤のキャリアにも大きな影響を与えた。

ドラマでいえば、複雑な感情表現が求められる『とんび』(13)や伝説の料理人に扮した『天皇の料理番』(15)は、役者がこなさなければならないタスクが多く、映画でいうと『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)では平凡な好青年を違和感なく演じ、『ひとよ』(19)は母親に愛憎を抱く息子を繊細かつ大胆に魅せる必要があった。こうした役柄が次々と舞い込むのも、『るろうに剣心』でその才覚と実力を存分に発揮したからこそだろう。

悪役に扮した『いぬやしき』(18)や、人間の暗部も見せる『何者』(16)に『ハード・コア』(18)と役の幅も広がり、『世界から猫が消えたなら』(16)では死期が迫った青年と、彼をたぶらかそうとする悪魔の二役を演じ切った。

『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(13)や『恋はつづくよどこまでも』(20)のような「ファンの需要にしっかり応える」作品にも出演しつつ、連続テレビ小説『半分、青い。』(18)や『義母と娘のブルース』(18)のようなお茶の間に浸透するドラマもカバー。公開が待ち望まれていた映画『護られなかった者たちへ』が10月1日に劇場公開予定で、2022年には、宇多田ヒカルの楽曲にインスパイアされた『First Love 初恋』でNetflixデビューも決まっている。

また、驚嘆すべきは、『るろうに剣心』シリーズが完結した後も、俳優・佐藤健の道のりに翳(かげ)りが見えないところ。2020年3月に開設したYouTubeチャンネルの登録者数は200万人を突破。公式LINEはメッセージを送信するたびにTwitterのトレンド入りを果たし、もはや「佐藤健」自体が、一つのビッグコンテンツと化している。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』 © 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』 © 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

さらに、2021年3月末をもって所属事務所のアミューズから独立し、神木隆之介と共に新会社「Co-LaVo」へと移籍。『るろうに剣心 最終章 The Final』の公開に際して本人にインタビューした折も、次なる目標を明確にとらえ、迷うことなく歩を進めている姿が印象的だった。佐藤の目には、『るろうに剣心』後の「次の10年」がクリアに見えているのだろう。

一気にスターダムへとのし上がった20代なりたての俊英は、30代に入り、国内のエンタメを司るトップランナーと化した。『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』でも鬼神の如き大活躍を見せており、さらなる評価を得ることはもはや必定。他の俳優とは一線を画す覇道を突き進む佐藤健の、次なる大舞台に期待したい。

 

『るろうに剣心 最終章 The Final』2021年4月23日(金)全国ロードショー
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』2021年6月4日(金)全国ロードショー

出演:佐藤健
武井 咲 新田真剣佑
青木崇高 蒼井 優 伊勢谷友介
土屋太鳳/三浦涼介 音尾琢真 鶴見辰吾 中原丈雄/北村一輝
有村架純 江口洋介
監督・脚本:大友啓史 音楽:佐藤直紀 主題歌:ONE OK ROCK
原作:和月伸宏「るろうに剣心−明治剣客浪漫譚」(集英社ジャンプ コミックス刊)
製作:映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning 」製作委員会
制作プロダクション・配給:ワーナー・ブラザース映画

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。

  • 写真©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会、© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

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