「ひどい若手」と呼ばれたアンタッチャブルが快進撃を見せるまで | FRIDAYデジタル

「ひどい若手」と呼ばれたアンタッチャブルが快進撃を見せるまで

放送作家・高橋洋二が明かす結成間もない頃のアンタッチャブル!

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コンビで「オッズパーク」のCMに出演しているアンタッチャブルの山崎弘也(左)と柴田英嗣
コンビで「オッズパーク」のCMに出演しているアンタッチャブルの山崎弘也(左)と柴田英嗣

今やテレビで見ない日はないくらい盤石な実力と人気を誇るお笑い芸人さんが駆け出しの時代はどんな様子であったか、お笑い系放送作家の私が綴らせていただく。今回は、最近また活躍が目立つアンタッチャブル。

放送作家の私と柴田英嗣、山崎弘也のアンタッチャブルの関係は、二人が「M-1グランプリ」で圧倒的な実力を見せて優勝した翌年の2005年の春からスタートした、TBSラジオ『木曜JUNK アンタッチャブルのシカゴマンゴ』に私が番組構成者として呼ばれたことに始まる。ちゃんとした仕事としては。

自分たちの冠番組をTBSラジオで持てたことをとても嬉しく感じていた二人は、番組スタート当初から「この番組のメインパーソナリティはリスナーの皆さん。我々はアシスタントですから」とアナウンスしていて、私としては、こりゃ相当な〈ラジオ脳〉のある人たちだなと思った。この呼びかけに全国の、ネタの書けるリスナーから、二人と私が用意したネタコーナーに、どうかというくらい優秀なネタメールが殺到した。

あるコーナーではリスナーが、今人気の芸人の「本ネタ」を書いて送ってくるようになり、ゲストに来たブラックマヨネーズはそのクオリティの高さに「これ(リスナーが送ってきた、ブラックマヨネーズの漫才台本)持って帰っていいですか?」とまで言ってくれた。ちなみに『シカゴマンゴ』の常連ネタ職人からは2名の現役放送作家を輩出している。

そのコーナーをまるまるライブにしようということになり、『他力本願ライブ』なるものも開催した。おぎやはぎ、東京03といったゲストの皆さんにリスナーがネタを書き、優秀なネタは前もってゲストに渡し、当日、草月ホールに集まったお客さんの前でリスナーの台本どおりの漫才やコントを披露したのだ。お客さんも大満足の素晴らしいライブだったのだが、私は別のもうひとつのことにもびっくりしていた。

ライブ終盤、それまでMCだったアンタッチャブルもオリジナルの本ネタ漫才を披露するのだが、そのネタ合わせの様を私は大勢がざわざわしている楽屋の片隅で目撃した。柴田が「なにやる?」と訊き山崎が「不動産屋かな」と答え、そらでネタ合わせが始まる。それも小声で。その辺にあった紙切れに「徒歩2秒」とかいった単語を二つ三つメモしながらネタ合わせは完了。もちろん本番でも大爆笑を取った。私こんなのは見たことなかった。

台本やネタ帳は無く、頭に入っている大筋に、舞台上でなにが飛び出すかわからないアドリブが入って完成しているのだ。

さて、そんな『シカゴマンゴ』は2010年4月で終了する。柴田の1年間の謹慎によるものだ。その間山崎は数々のゴールデンタイムのバラエティ番組で快進撃を続け、謹慎明けの柴田もラジオや深夜バラエティなどで実力を発揮し始める。
しかし「アンタッチャブル」としての仕事を二人は持つことはなかった。およそ10年にわたって。その理由はわからない。

そんな二人が、2019年、有田哲平の粋な計らいで(必死の計らいで、かも知れない)『全力!脱力タイムズ』にて、カメラ前で突如、漫才を披露することになりアンタッチャブルは事実上、コンビ活動復帰を果たした。いや実はこの時は「復帰」でいいのかな? 一度きりのやつなのかな? とみんなが思った。

が、今年2021年の春から明確に潮目が変わった。アンタッチャブルは「いろいろあったアンタッチャブル」ではなく、「ネタもトークも日本一おもしろいでおなじみの中堅芸人コンビのアンタッチャブル」としてテレビに出始めている。

中でも出色なのはテレビ朝日のレギュラー番組『お笑い実力刃』(水曜・23時15分〜)である。MCのアンタッチャブルとサンドウィッチマンの下に毎週、実力派芸人がやってきて長尺のネタを披露して、芸論などもトークするという豪速球の本格的お笑い番組である。

似たタイプの番組は今までに関西にはたまにあったが関東にははっきり言ってなかった。お笑い好きの人が誰しも待ち焦がれていたプログラムにしてMCのキャスティングが完璧、ひょっとしてテレ朝はこの企画、アンタッチャブルが通常モードに戻るのを待ち構えて用意していたのかしらとも思ったくらいだ。まだ二人は40代半ば、さらなる全盛期を見せてくれるだろう。

ああ、アンタッチャブルがまさかの通常運転に戻ってるとはなんて素晴らしい世の中だ、といった話を知り合いのお笑い好きの人々と話す日々を過ごしているわけですが、そんな時私が話すエピソードで妙に評判がいいものがありまして、それをこの拙文のオチに採用したいと考えます。

「結成2年目くらいのアンタッチャブルの漫才はどうしようもないシロモノだった」というものであります。

ラジオの『シカゴマンゴ』の前に私はアンタッチャブルとすれ違ってまして、それは97年のTBSテレビ『海砂利水魚のじょんのび』の収録スタジオでした。構成者の私は、アンタッチャブルなる若手芸人の前説を見ているのでした。

番組本編にはキャスティングされていないこの若手コンビの漫才は、まず、二人ともいっさい客の方に顔を向けずにずっとお互いを向き合ってしゃべってました。内容は忘れましたが、山崎が何か面白げなことをボソッというと客の誰よりも先に柴田が大爆笑してました。スタジオ全体があっけに取られる中この漫才は進行し、一つも笑いを取ることなく出番を終えたのです。

私としては、ああこれが上田と有田が可愛がっているという二人か、可哀想に、絶対売れないな、と思ったんですよ…という事実が結構ウケるので書いてみた。

というわけでお笑いの世界では本人の精進や努力その他の甲斐あれば、どんなにひどい若手でものちに超一流になることができるのだということをアンタッチャブルは私に教えてくれたんですよとお伝えしたかったのである。

  • 高橋洋二

    放送作家 、ライター。1961年千葉県習志野市生まれ。『吉田照美のてるてるワイド』『マッチとデート』『タモリ倶楽部』『ボキャブラ天国(シリーズ)』『サンデージャポン』『火曜JUNK爆笑問題カーボーイ』などの構成を担当。主な著書に『10点さしあげる』(大栄出版)『オールバックの放送作家』(国書刊行会)。また「キネマ旬報社 映画本大賞2019」第一位の『映画監督 神代辰巳』(国書刊行会)にも小文を寄せている。

  • 写真Pasya/アフロ

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