「ミャンマーに帰ったら殺されます」入管法改正の危ない現実 | FRIDAYデジタル

「ミャンマーに帰ったら殺されます」入管法改正の危ない現実

死亡事故が続出する入管施設でなにが起きているのか

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5月7日、出入国管理法の「改正案」が採択されようとしている。4月に審議が始まって以来、これに反対する人々の静かな運動が続いている。入管法のなにが問題なのか。

入管法「改正」に国内外の批判が高まる。国会前で行われたシットインでは手作りのメッセージボードやパッチワークキルトで「静かに」意見を訴える人が集まった。入管法の、なにが問題なのか
入管法「改正」に国内外の批判が高まる。国会前で行われたシットインでは手作りのメッセージボードやパッチワークキルトで「静かに」意見を訴える人が集まった。入管法の、なにが問題なのか

日本の「入管」は、人を人として扱わない

名古屋の入管施設に収容されていた33歳のスリランカ人女性ウイシュマさんは今年3月、体調不良を訴えたが診察を受けられず亡くなった。その3日前、面会にきた支援者に「今日、わたしをつれてかえって」と懇願していた。施設にいた8ヶ月で「12.5キロ痩せた」。「いま ほんとうに たべたいです」という手紙を書いていた。

当初「死因不明」とされていたが、その後、医療が受けられなかったことによる「避けられたはずの死」だったとわかった。

茨城県牛久市の施設にいたインド人のクマルさん(32歳)は、9ヶ月に渡る収容生活で心を病み、自ら命を絶った。

長崎県大村市の施設にいたナイジェリア人の男性は、長期の収容に抗議するためハンガーストライキを行い、餓死した。長く収容されている別の男性は、今の希望を聞かれて「星を見ること」だと答えた。

国内には9カ所の入管収容施設がある。収容されている人たちの出身地はさまざまだが、共通しているのは「いつ、ここを出られるかわからない」こと。なぜなら、収容には「期限・上限がない」からだ。令状なく、人を無期限に拘束する日本の行政は国連などから非難されている。

「帰れない」人たち

外国の人たちが、在留資格がないのにあるいは在留資格を失ったのちも「日本に住みたい」と考えるのはなぜだろう。

「わたしが生まれたところは、女性にとって危険なところでした。軍隊がきて女性をつれさり、強姦して殺します。わたしは、小学校になるころに親戚のいる別の場所にあずけられて学校に行きました」

ミャンマー出身のポーヤンさんは静かに話し始めた。

「カチン民族は、ミャンマー軍に弾圧されています。それは70年近く続いているのです。わたしは13年前に日本に逃げてきました。日本に行けば、殺されずに生きていけると思いました。難民申請をしましたが、認められません」

日本で結婚して3人の子どもがいる。今も、難民申請中だ。

「今、ミャンマーでは軍隊が市民を弾圧しています。でもこれはカチン族にとって前からずっと同じです。わたしが今、ミャンマーに送り返されれば、捕まって死刑にされてしまいます」

ポーヤンさんは、話しながら、涙声になった。

取材に答えてくれたミャンマー出身の女性は、話すうちに声が震えてきた。日本で家庭をもち、地域に溶け込んで生活している
取材に答えてくれたミャンマー出身の女性は、話すうちに声が震えてきた。日本で家庭をもち、地域に溶け込んで生活している

今、出入国管理法の改正案が国会で審議されている。「難民認定を申請している人は強制送還しない」という規定を「申請2回目までに制限」するなどの改正案に対して、国連は「懸念」を表明。「国際的な人権基準を満たしていない」と日本政府に対して再検討を求める書簡が送られた。

イラン人のサファリさんは、

「入管法が変われば、わたしは強制送還の対象になります。でもイランに帰ると命の危険があります。だから『帰らない』といえば、刑務所に送られることになるのでしょう」

と言う。

出稼ぎの目的で日本に来た人、帰れば帰れる人は「すでに帰っている」し、それでも日本に残りたい人の多くは「帰ることができない」人だ。

コロナ禍に、入管施設が収容者を「仮放免」した例も増えている。

「外国の人が公園で野宿しているという情報がありました。東京都内の公園にいた60代の男性は、殴られて頭蓋骨を骨折していました。病院に運ばれたのですが、その人が仮放免中の外国人だと知った病院は、彼を車椅子に乗せて公園に連れて行き、そのまま放置しました」(反貧困ネットワーク事務局・瀬戸大作さん)

仮放免中は「就業が禁止」されているため働くことができない。健康保険にも入れない。

「日本の社会はずっと、何年も何十年も、外国人労働者を必要としてきました。オーバーステイであっても労働者としての権利は法的に保障されています。そしてなにより、彼ら彼女らは労働者である前に生活者です。日本で家庭を築き、地域社会に溶け込んで暮らしている人も多いんです。排除はありえないと思います」(移住者と連帯する全国ネットワーク·安藤真起子さん)

幼いころに来日し、日本で生活してきたクルド人の男性はこう言う。

10年間、人生の半分を日本で過ごしてきました。日本語で一生懸命勉強しています。クルド人の僕には帰る国はありません。入管の人に『どんなに頑張っても無駄だよ』と言われました。でも僕は勉強がしたい。頑張って、社会の役にたつ人間になりたい。将来の夢は、国連で働くことです」

現在、日本で難民申請をしている人は、2019年に10300人、2020年は約4000人。そのうち難民と認定されたのは1%以下だという。施設には、現在262人の人が収容され、十分な医療も受けられず心と体を病んでいる。

外国人を大切にしない国は、自国民も大切にしない

名古屋で命を落としたウイシュマさんの遺族が1日、来日した。「姉の最期のようすを知りたい」と願っている。なにが彼女を「殺した」のか。

「ウシク」と呼ばれる入国者収容所に、面会支援に通う女性が言う。

「子どもが産まれたとき、知り合いに『赤ちゃんを、施設にいる外国の人に見せたい。一緒に面会に行ってくれない?』と誘われたのがきっかけです。

子どもを連れて面会に行ったらね、すごく喜ばれたんです。ほんとうににこにこしてくれて、アクリル板越しの30分の面会なんですが、かわいいかわいいって、うちの子をじっと見つめて笑顔になった。それから成長していく娘と通いました。保育園になると、絵を描いて見せたりして。ぬいぐるみをプレゼントしてくれた人もいました」

そうして交流した外国人たちのなかには、今、生死がわからない人もいるという。

「施設の職員による、暴言や暴力もあります。一方で、心ある職員さんもいます。悪いのは、この状態を作っている法律、政治なんじゃないかと思うんです」

その「法律」が今、さらに命を脅かす方向に変えられようとしている。

司法による承認のない拘禁、上限のない収容、生命が脅かされる危険のある国への強制送還。これらは、人を人として扱う姿勢とはほど遠い。条約に反し、国際的にも批判の大きいこのような法律の「改正案」がまかり通るのはなぜだろう。

「外国人に冷たい政府は、国民に対しても同じ姿勢。この法案が間違ってるのは明らかなんです。でもね、外国人の人権に触れると、選挙に差し障るんですよ」(野党議員)

これは、わたしたち日本人の問題でもあったのだ。

外国人に対して、その労働力を使い捨てにしたり、命の危険を放置することができる国は、自国民に対しても同じ発想をするようになるかもしれない。今回の「入管法改正案」に盛り込まれた「人」に対するこの国の姿勢…これは他人事ではない。

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