『おちょやん』低空飛行の中「ロス現象」を起こした名脇役たち | FRIDAYデジタル

『おちょやん』低空飛行の中「ロス現象」を起こした名脇役たち

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「おちょやん 」こと竹井千代を好演した杉咲花 写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ
「おちょやん 」こと竹井千代を好演した杉咲花 写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

自粛生活やリモート勤務など、コロナ禍で生活が急激に変化する中で放送開始となった朝ドラ『おちょやん』は、初っぱなから視聴率が20%を切る厳しい立ち上がりだった。

その一方でSNSの書き込みには好意的な意見もあがっており、大切な人を失い、家庭からも追い出されるという辛い経験を経て、逞しく生きていく竹井千代を演じる杉咲花の好演、芝居茶屋・岡安の女将シズ(篠原涼子)らが作り出す温かな雰囲気を楽しむファンもいた。

世間の反応が芳しくなかった原因は様々あるだろうが、個人的には、千代自身の人生が波瀾万丈だったことは理解できたが、ドラマとしてはイマイチ盛り上がりに欠けていたという印象だ。

千代の人生を引っかき回すのは「血を分けた家族」という地獄

特に観ていて「キツイな」と感じたのが、千代の人生を引っかき回すのが、血を分けた家族だったという点。実父・テルヲ(トータス松本)は、女にも金にもだらしなく、実の娘を奉公に出しただけでは収まらず貯金まで盗み、懲りずに病気を理由に千代の元へ押しかけるという“朝ドラ史上最悪のクズ父”。

さらに、千代の心の支えだった実弟のヨシヲ(倉悠貴)が卑劣な手で姉を不幸に落とそうする展開はあまりに救いがなく、そんな父や弟でも見捨てられないと、懲りずに情を重ねる千代の“だめんず”ぶりには、まったく共感できなかった。

そして、トータス松本のダメ父ちゃんっぷりのインパクトが強すぎて、プロポーズしたくせに女の影をチラつかせ、なにかというと酒に逃げるダメ夫・天海一平(成田凌)の存在感が弱くなった感も否めない。

同時に、これだけ辛い人生を送ってきた千代だから、なにが起きても動じないだろうという絶対的な安心感が生まれていて、劇団存続の危機やら戦時下の危機も穏やかに乗り切った印象を視聴者側に与えてしまった、というのが正直なところ。

それでも、20週(4月19日放送週)以降、夫の一平が鶴亀新喜劇の新人女優・灯子(小西はる)を妊娠させて千代と離婚、失意のうちに道頓堀を去った千代が継母・栗子(宮澤エマ)と再会、そこで出会う栗子の孫・春子が千代の子ども時代を演じた毎田暖乃だったなど新展開が続いたため、最終週を目前にして、数字もやや上向きに。

ただ、これまでのお話の紡ぎ方からして急転直下の展開が起きることもなく、ラジオドラマで一躍有名女優になった千代が、古巣の道頓堀に戻る“王道”のラストを穏やかに迎えることになり、やはり全体としてインパクトに欠ける作品という印象になりそうだ。

『おちょやん』脇役の名演技が引き起こした“ロス現象”

そのようにやや低調気味だった『おちょやん』だったが、小規模ながらも朝ドラ名物“ロス現象”も起きた。

最初に話題となったのは、千代が鶴亀映画京都撮影所で出会った助監督の小暮真治(若葉竜也)。

演技のための恋人役をお願いしたことが発端となり良い雰囲気になった途端に、なぜか千代が一平と再会する。千代、小暮、一平の三角関係にはすんなり進まず、実は小暮は女優・高城百合子(井川遥)が好きだったことで一旦失恋。同時期に役者としても試練の時を迎えた千代は、同じく監督を目指し脚本書きに苦心する小暮と“同志”のような関係になる。

特に盛り上がったのは第8週「あんたにうちの何がわかんねん!」39〜40話で、テルヲに全財産を持って行かれ、すっかりやる気を失ってしまった千代に小暮が突然のプロポーズをしたところ。しかし女優を辞めるため退職届を出しに来た千代は、3年ぶりに再会した一平の言葉で芝居への情熱を取り戻し、小暮のプロポーズを断るというめまぐるしい展開だった。

酒に酔った状態でプロポーズの返事を聞かせて欲しいと千代に迫った小暮が、実は千代が働くカフェー『キネマ』で千代の売り上げのために飲めない酒を飲んだというエピソードに、キュンとした女性が多数! 朴訥な好青年を演じ、優しい声で「千代ちゃん」と呼びかける小暮の声が次の9週目から聞けなくなると、寂しがる声があがった。

そして意外にも、テルヲの死でもちょとしたロスが起きた。4、8、15週と一定期間を置きつつしぶとく再登場し、その度に加速する“クズっぷり”を見せて千代を翻弄していたテルヲが、留置所の金網越しに千代へ懺悔の言葉を遺し、独り旅立ったのは、15週「うちは幸せになんで」75話のこと。

亡くなった後に、岡安や福富の面々が顔を出し、テルヲから千代を頼まれたと口々に明かす様子に、思わず目頭が熱くなった人も多かったのだろう。こうして見ると、テルヲは“終わりよければすべてよし”を地で行く、名脇役だったのだ。

  • 取材・文中村美奈子写真アフロ

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