『コントが始まる』ふと泣かされてしまう仲野太賀の演技力 | FRIDAYデジタル

『コントが始まる』ふと泣かされてしまう仲野太賀の演技力

絶妙に緩急をつけた演技を見逃すな!

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『コントが始まる』で売れない芸人の美濃輪潤平を熱く演じる仲野太賀
『コントが始まる』で売れない芸人の美濃輪潤平を熱く演じる仲野太賀

上質ドラマが連発している今クール。中でも推したい作品は『コントが始まる』(日本テレビ系・土曜・22時〜)だ。放送前から豪華かつ、視聴者のツボをついたキャスティングでかなりの話題だった。

実際に完成された作品は地上の期待値から、富士山頂を越える勢いで面白かった。レコーダーに録画をして毎週2回はチェック。夢中になってしまう理由のひとつに主要キャストのひとりである仲野太賀の存在がある。

童顔の好青年に香る、心地よい“圧”

『コントが始まる』のあらすじを紹介しよう。

“お笑いトリオ『マクベス』は売れないまま10年を迎えてしまった。高岩春斗(菅田将暉)、朝吹駿太(神木隆之介)、美濃輪潤平(仲野)のメンバーは、ついに解散することを決意する。ただいざ夢をあきらめるとなると、3人はもちろん、周囲の人間たちにもさまざまな思いが去来していく”

3人だけでも物語が回りそうなのに、『マクベス』のファンという設定で、中浜里穂子(有村架純)と、同居をする妹のつむぎ(古川琴音)が彼らに並ぶ。ここまでの放送は、冒頭で毎回『マクベス』によるコントシーンがあり、このネタをベースに一話の物語が展開されるのがパターンだ。

第三話ではカルト集団からミネラルウォーターを強要される『奇跡の水』がテーマ。実はこれが春斗の“兄”が、誰からも期待されるエリート街道を進みながら、おかしな集団に洗脳されてしまった事実がネタ元になっている。一方、恋人にひどい裏切られ方をして、一時期は廃人生活をしていた“姉”の里穂子の話も重ねて流れてくる。この回は“兄弟”にまつわるエピソードでまとめられているのだ。

こんなおもしろ伏線で毎週放送されているのだから、一言でまとめると“お見事”。放送前に映画『花束みたいな恋をした』の主演カップルが出演するとあって、映画の世界観が残ることを懸念していた自分を呪いたい。『コントが始まる』には、また新しい世界があったのだから。

こんな令和の青春群像劇で、仲野演じる潤平は面倒なくらいに熱い。昔でいう『寺内貫太郎一家』(TBS系・1974年)で、ちゃぶ台をひっくり返すお父さんの、一歩手前の熱さ。同居している春斗たちともしょっちゅう衝突している。ちなみに声もでかい。このストッパーになっているのが、高校時代も周囲から高嶺の花だと茶化されながらも告白をして、10年つき合っている恋人の岸倉奈津美(芳根京子)だ。そろそろ結婚しなくてはならないという、プレッシャーが解散を決意させた。

この文章そのままだと、熱いだけでドラマを混乱させる、うざったい存在の潤平の演技。でも仲野はどうやら温度調節の方法を知っているらしい。

恋の当て馬、芸人役……世界一優しい顔芸にいやされる

軽く前述したけれど、仲野の声量は大きいだけではなくて抑揚がある。このタイミングが絶妙なのだ。

「(コントで)笑わせたい人間はひとりしかいなかった。それが奈津美だ」

と、照れたようにしんみり名言を漂わせたと思えば

「おめえと(お笑いトリオを)組むんじゃなかったわ!!!」

と、怒りにすべてを任せて春斗に怒鳴る。これは喜怒哀楽がはっきりとしているだけで、病んで気持ちの浮き沈みが激しいわけではない。さらに彼の演技に惹かれてしまうのは“顔芸”と呼びたい、表情の豊かさだ。

「おまえ(春斗)ってさ、大事な発言するとき、いつもラーメン食い終わった後なのな。(中略)それが一番おもしれえよ」

こんな何気ないセリフを破顔で放つ。そして数秒後には解散をつらそうにしながら鼻の穴を膨らませて泣き出す。コントシーンで牛乳瓶レンズのメガネで仮装して登場していたのは、全力すぎて本物の芸人よりも“圧”があった。

そのほかドラマではないけれど、CM『金鳥 虫コナーズ』で見せるキョトン顔では可愛らしさを覗かせている。昨年、恋の当て馬ぶりが「切ない」と話題になった『この恋あたためますか」(TBS系)での、新谷誠役。恋する彼女の前でひたすら優しい笑顔だった。表情がバラエティー豊かすぎてどれが彼の“素”なのかわからないけれど、演技が死ぬほど好きなことだけは、テレビ越しに伝わってくる。

令和3年5月、28歳。ただの期待を含めた予想だけれど、これから彼には朝ドラのメインキャストなど、大きな役が次々と回ってくることになると思う。それらを私たちの目が見逃さずに追っていく。でも仲野にはどんなにスターになっても、潤平みたいなイメージであってほしい。ジャージにサンダル、下町でホッピーを楽しそうに飲む。けっしてタワマンでシャンパンを開けていてほしくない。

  • 小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

  • 写真2019 TIFF/アフロ

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