「コロナではなく貧困に殺される」困窮者支援現場から聞こえる悲鳴
この瞬間にもSOSが…「五輪開催即刻中止を」の声
「いま、この瞬間、家を追い出されて、路上に追いやられる若者がいます。いま、この瞬間、おなかをすかしている子どもがいます。その子どものために炊き出しに並ぶ親御さんがいます。そして、いま、いのちを断つことを考えている大勢の人たちがいます」
5月6日、「つくろい東京ファンド」の稲葉剛さんは、参議院厚生労働委員会でこう訴えた。

長引くコロナ禍に、日本の貧困が加速している。GWの5月3日、5日に行われた「大人食堂」には660人の人が訪れ、食料の配布や生活相談を受けた。
「コロナ以前、こうした食料支援の現場に来られる方は中高年の単身男性がほとんどでした。が、今では10代20代の若者、女性、お子さん連れ、外国籍の方などさまざまな方が支援を求めて集まっています」
稲葉さんは、困窮者支援活動を始めて27年になる。
「これほどまでに多く、多様な人が困窮している状況は、過去に見たことがありません」
役所など公共の相談窓口が閉まる年末年始に続き、この連休にも開催された「大人食堂」。ほかにも毎週の炊き出しや「相談会」などの困窮者への支援活動を、民間の団体が行っている。
「自助も共助も、もう限界です。今こそ公助の出番だ、と、この1年間叫び続けてきました。けれども、公助の姿は見えません」
じっさい、民間の支援団体のスタッフたちはもう限界に近い活動を続け、さらに深まる一方の困窮、「底が抜けた」といわれる現実に向き合っている。
「死にたい」というメールに駆けつける毎日
「支援を求めるメールに『死』の文字が増えました。心をやられてしまった若い子が増えている。お金がなくて寂しくて、もう死にたいって」
新型コロナ災害緊急アクションの瀬戸大作さんは、こう言う。
この1年、自死が増えてしまった。多くの人がコロナだけではなく「貧困」で亡くなっている。どうすれば、この惨状から抜け出せるのだろうか。
「民間の力では限界です。命を落とす前に、最後のセイフティーネットである生活保護を利用することです。そのために、政府はもっと広報をしてほしい。かつて、一部の政治家が行った『バッシング』がいまだ尾をひいています。生活保護は権利であることをあらためて広く知らせてほしい」(稲葉さん)
この1年、生活苦による自死が増えた。大阪で、餓死した親子のニュースもあった。東京では所持金8円で路上にいた女性が殺される事件もあった。
あのとき、芸能人の家族の受給をとりあげて猛バッシングを展開した政治家は、その影響がここまで国民を追い詰めていることに気付いているだろうか。
「今日、食べるものがない人が大勢いる一方で、富裕層といわれる人たちはコロナ禍に金融資産を増やしている。二極化がどんどん進んでいます。貧富の差があることは、誰にとっても不幸な社会だと思います」(稲葉さん)
コロナ禍の長期化で仕事を失い、経済的な困窮だけでなく、精神的にも疲れ切ってしまった人たち。炊き出しには、若い男性女性や年配のご夫婦、そしてお母さんが子どもと一緒に並んでいた。
「流通の仕事をしていますが、シフトが減って収入が半分になってしまいました。中学で食べ盛りの子がいるので、食費がかかります。食料がいただけるのはほんとにありがたいです」
「勤めていた飲食店が閉店して、仕事がなくなった」という男性もいた。「警備の仕事を昨年11月に失い、貯金を切り崩して生活している」という男性は、「生活相談でいろいろわかったので、生活保護を受けることを考えます」と話していた。

政府は一体どこに…?
厚労委員会で稲葉さんはこうも言った。
「政府は一体、どこにあるのでしょうか。この国に政府が存在している、ということが現場からは見えないのです」
しかし、委員会で稲葉さんの発言に注目し、質問をしたのは野党議員だけ。政府与党の議員からはひとりとして、質問も意見もなかった。
「日本には政府がある。貧困に苦しむ人に、いのちと暮らしを守る政府があるということを行動で示してください」
そんな悲痛な声も、彼らには届かなかったのだろうか。
「オリンピックは即刻中止してほしい。貧困によって死に追いこまれる人がいる状況の、誰が責任をとるんでしょう。今は、国力の全てを感染症の対策と貧困対策にふりむける時だと思います」(稲葉さん)
「大人食堂」で生活相談にあたっていた弁護士の宇都宮健児さんは5日、「東京五輪開催中止」を求めるオンライン署名を呼びかけた。わずか2日半で、21万5000筆の署名(7日17時現在)が集まった。署名は増え続けている。これが、国民の「声」なのだろう。
7月に都議選、そして秋には衆院選が控えている。特別な資産をもたない「普通の」人…いつ困窮するかわからないわれわれの「声」を聞き取れる政治家はいるだろうか。
