2話の谷を克服した 『ドラゴン桜』が秘める爆発的ヒットの可能性
3話以降、さらなるプラスのスパイラルを起こせるか?
阿部寛主演『ドラゴン桜』が、初回の個人視聴率8.8%に続き、2話は8.4%を記録した。
多くの連続ドラマは初回が高くても、2話で数字を落とすことが多い。いわゆる“2話の谷”だ。
下落幅は初回の1~2割となることが多い。初回を試しに見た結果、2話以降の視聴を辞める人、あるいはタイムシフトにまわる人が出るからだ。
こうした平均的なパターンと比べると、『ドラゴン桜』2話の下落率は5%未満。かなり健闘した。
“2話の谷”を大過なく克服した同ドラマの可能性を考える。
険しい“2話の谷”
この春クールで、初回の世帯視聴率が二桁となったドラマは、『ドラゴン桜』以外に4作あった。
ところが4作とも、2話で視聴率が下落した。“2話の谷”にハマってしまったのである。
フジ月9の『イチケイのカラス』(竹野内豊主演)は、初回の個人視聴率が7.8%だったが、2話は20.5㌽失い6.2%となってしまった。
テレ朝『桜の塔』(玉木宏主演)も、初回7.3%と好調だったが、2話で23.3㌽失い5.6%。日テレ『ネメシス』(広瀬すず・櫻井翔のW主演)も、6.2%から5.1%と下落率は17.7㌽となった。石原さとみと綾野剛が主演の『恋はDeepに』も、5.7%から4.8%と16.8㌽失った。
いずれも良く言われる“1~2割の法則”通りだ。
このうち『イチケイのカラス』以外は、3話以降も下がり続け、世帯視聴率は二桁から脱落したまま。
これらと比べ初回視聴率がトップだった『ドラゴン桜』の下落率は4.5㌽にとどまった。
険しい“2話の谷”を何とか克服している。
実は、高視聴率を連発するTBS日曜劇場といえども、“2話の谷”で躓く作品は少なくない。
この1年を振り返っても、『半沢直樹』(堺雅人主演)は別格として、前期『天国と地獄』(綾瀬はるか主演)と前々期『危険なビーナス』(妻夫木聡主演)は2話で1割以上数字を失っている。
やはり“1~2割の法則”通りだが、その意味で『ドラゴン桜』2話は、大健闘をしたのである。
初回と2話の差
では初回と2話で、見られ方はどう異なっていただろうか。
全国約262万台のテレビ視聴状況を調べるインテージ「Media Gauge」によれば、まず番組冒頭に特徴がある。2話では始まって最初の2分間、流出者より流入者が上回り、接触率が0.6%跳ね上がった。2話を見ようという熱意ある視聴者がかなりいたと考えられる。
ところが直後の2分間、今度は流出者が上回るようになる。
初回放送時、今回の第2シリーズが『ドラゴン桜』第1シリーズと違う点を否定的にみる視聴者の声が、ネット上にかなり出た。演出陣が去年の『半沢直樹』と同じだったが、その“半沢風”な演出を拒否していたのである。
「前作踏み台に別のものやってるだけ(中略)続編と銘打ってやるならテイスト引き継いでよ」
「誰も傷つかないパート1の設定がよかった。恨みとか人を傷つける描写とかは避けてほしかった」
「学園ものにドロドロした学生は要らないよ(中略)真面目すぎて疲れる」
「ドラゴン桜今回つまらない、途中で他局の番組に切り替えた」
確かに初回では、龍海学園を立て直そうとする水野弁護士(長澤まさみ)を陥れた二人(西山潤・西垣匠)を、主人公の桜木(阿部寛)がバイクで追いかけた以降の激しいシーンで流出率が上昇していた。
9時50分台のザッピングで流入する人も多かったので、接触率自体は急伸していた。それでも初回と異なる“半沢テイスト”を拒否する人は一定程度いたようだ。
ところが2話では、CM以外の物語が展開する部分では、流出者は初回より少なくなっている。
初回で離脱した一部を除けば、2話ではシン・ドラゴン桜に馴染んだ人々が、それなりに楽しんでいたと思われる。
新たな視聴者を吸い寄せる『ドラゴン桜』
視聴データは、より詳細な視聴動向も明らかにしてくれる。
関東で約64万台を調べる東芝の視聴データによれば、去年の『半沢直樹』最終回を視聴したテレビは約6万4千台。ところがその8割弱は、『ドラゴン桜』の初回をリアルタイムで視聴していない。
ただし「離脱」や「完全離脱」の合計5万弱も、録画再生で視聴している可能性がある。
実際5千台ほどが、2話でリアルタイムにまわっている。視聴者は自分の都合にあわせて、タイムシフトとリアルタイムを上手に使い分けている。
ここで筆者が重視したいデータが2つある。
1つは『半沢直樹』最終回と『ドラゴン桜』初回を共にリアルタイムで見た人と同じ数ほど、「新規」の視聴者がいることだ。
そもそも過去1年のTBS日曜劇場の、『テセウスの船』『半沢直樹』『危険なビーナス』『天国と地獄』を振り返ると、各作品の最終回と『ドラゴン桜』の初回を共にリアルタイムで見た人の数では、『半沢直樹』が他3作を圧倒し、特に『危険なビーナス』からは倍増していた。
両作品を手掛ける「伊與田P・福澤D」への期待の大きさがわかるが、それでも「新規」という『半沢直樹』に関係なく見に来る人がたくさんいる。
『ドラゴン桜』という物語そのものの魅力の大きさを感じる。
次に気になるデータは、初回から2話での流出・流入の数字。
初回をリアルタイムで視聴した約2万8千台のうち、半数強が2話で「離脱」している。しかし実際には、その半分前後はタイムシフトにまわっているだろうから、初回で完全に脱落した人は7千前後と推定される。
16年前の名作を大幅にテコ入れしたことの、大きな代償と言えよう。
ところが2話からの「新規」も7千強いる。
『半沢直樹』は見てなく、『ドラゴン桜』初回をタイムシフトで見ていたが、2話はリアルタイム視聴した人がいる。加えて『ドラゴン桜』の評判を聞いて、初めて見始めた人も少なくない。
ちなみに7千強の「新規」は、『半沢直樹』2話の時より倍増している。「予想より面白かった!」「見て勇気が湧いた」「こんなにスカッとさせてくれるドラマ久しぶり」など、SNS上では初回を肯定的にとらえた意見がネガティブより倍以上あった。
明らかにプラスのスパイラルが効いている。
『半沢直樹』は権力を持つ上層部の巨悪と闘う物語だった。
一方『ドラゴン桜』は、落ちこぼれの劣等生や彼らを導かない大人たちを相手にしている。普通の庶民の中にある、小さいが放置すると許しがたい問題となる悪と向き合う物語だ。
さらに2話で見られたのは、桜木(阿部寛)が生徒と向き合う際の情熱と温かさだった。
万引きに加え放火騒動を起こした楓(平手友梨奈)をかばうことで、彼女は初めて自分の足で立ち上がり始めた。
「子供の自由を尊重することと、甘やかすことは違う」
「自由にかこつけて、守っているのは生徒ではなく自分の立場だ」
「責任と問題から目を背けているだけだ」
初回で桜木は子供を取り巻く大人をこう批判した。
2話では、大人のあるべき姿勢を見せ始めた。
情熱と温かさが新たな魅力として加わり、恐らく3話ではさらなる「新規」視聴者が出現するだろう。
しかも3話では、SNSを活用した勉強法が登場するという。16年前の『ドラゴン桜』の魅力を、今風の魅力に替える挑戦も始まる。
新たな武器を次々に加えるシン・ドラゴン桜。“2話の谷”を克服し、3話以降でプラスのスパイラルがどう起こって行くのか、楽しみにしたい。
文:鈴木祐司(すずきゆうじ)
メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。
写真:つのだよしお/アフロ