「張本勲の喝!」に喝! 筒香嘉智の挑戦を見届けるべき理由 | FRIDAYデジタル

「張本勲の喝!」に喝! 筒香嘉智の挑戦を見届けるべき理由

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5月5日のエンゼルス戦で投手・大谷翔平と対戦し、レフトフライに倒れた筒香嘉智

日曜朝の例の番組で、喝!でおなじみの張本勲がMLB挑戦2年目の今季も調子が上がらないタンパベイ・レイズの筒香嘉智について「もうアメリカ旅行は十分じゃないか。帰ってきたらもう40本、3割3分は打てるから。俺が直すから。早く日本に帰ってくるように言ってくれ」と言ったことが話題になっている。

オールドファンは承知だろうが、張本勲は、NPB最多の3085安打を記録したレジェンドだ。この記録は王貞治の868本塁打、金田正一の400勝とともに「アンタッチャブル(更新不可能)」な大記録だとされる。

張本勲は7回の首位打者を獲得、後にイチローに並ばれたがいまだにNPB史上最多だ。それだけでなく504本塁打は史上7位、1676打点は史上4位、同時期のパ・リーグに野村克也がいたために首位打者以外の主要タイトルは取っていないが、本塁打2位を3回(2位タイが1回)、打点2位を4回記録している。パ・リーグ最強打者だったと言ってよい。

1976年、36歳で巨人に移籍してからも同い年の王貞治と中軸を組み打率2位を2回、3割を3回マークしている。ノーステップで最短距離からバットを振り下ろす独特の打法は、巨人移籍後はナイター中継で広く知られるようになり、草野球で子どもたちが真似をしたものだ。

同じ左打者として、筒香嘉智にアドバイスをしたくなる気持ちはわからないではない。

しかし張本勲がプロ野球を引退したのは1981年、今から40年も前だ。ソフトバンクの和田毅、ロッテの鳥谷敬、阪神の糸井嘉男など現役の長老世代がこの年に生まれている。

張本が活躍したころと、現在ではNPBもMLBも大きく変化しているのだ。

まずNPBでは、球場の大きさが変わった。張本の時代の巨人の本拠地、後楽園球場は両翼90m中堅120m、その後継のスタジアムとして1988年に開場した東京ドームは両翼100m、中堅122m。東京ドーム以降、12球団の本拠地はすべて大型化した。張本の時代はライナーでフェンス際に飛び込む100m以下の本塁打があったが、その後の世代ではこうした本塁打は絶滅した。

そして投手が違う。プロ野球で初めて150㎞/hの速球を投げたのは、張本が引退間際にデビューした中日の小松辰雄だと言われるが、今ではドラフト上位にかかるような投手なら高校生でも150㎞/h超を当たり前に投げる。2019年のドラフトの目玉だった大船渡高校の佐々木朗希は、高校時代に163km/hを記録している。

さらに変化球も多彩になった。多くの投手はスライダー、カーブ、フォーク、カッターに加えてチェンジアップ、サークルチェンジ、2シームなどの球種でストライクを取ることができる。

打者はスピードも変化も昭和時代からはるかに進化した投手を相手に戦っているのだ。

球場が大きくなったが、打者の体格も大型化した。王貞治は177㎝、長嶋茂雄は178㎝、張本勲は181㎝、それ以前の選手の多くは170㎝そこそこだったので、彼らは「新時代の大型選手」と呼ばれたが、今のNPB選手の平均身長は180.8㎝、筒香は185㎝、柳田悠岐は188㎝。スケールが違っている。

そしてMLBの変化も半端ではない

1978年のロサンゼルスオリンピックを成功させたピーター・ユベロスがコミッショナーに就任後、MLBのビジネスは飛躍的に拡大、エキスパンションによって球団数は26から30に拡大。FA権を取得した選手が巨額の年俸を手にするようになったこともあり、世界中から選手が集まるようになった。現在はドミニカ共和国、ベネズエラなどのヒスパニック系、日本、韓国、台湾などのアジア系、さらにはヨーロッパからも能力の高い選手が集まっている。

MLB拡張の波に乗って日本人選手もMLBを目指すようになる。投手は1995年の野茂英雄、野手は2001年のイチローと新庄剛志がパイオニアとなった。

イチローはMLBで3000本安打を記録するなど殿堂入り間違いなしと言われる活躍をしたが、実はMLBは、2010年頃からさらに劇的な進化を遂げている。

MLB球団は「情報化」が進んだ。統計学に基づくセイバーメトリクスで選手起用や作戦が大きく変化した。各チームは各打者の打球の方向を分析して、あらかじめ打球が飛びそうな場所に守備シフトを敷くようになった。またレーダー技術を活用したトラッキングシステムの導入で、投手も野手も自分の投球やスイングをデータで把握するようになった。昨年のサイ・ヤング賞投手、トレバー・バウアーはデータで理想とする球筋、回転のボールを想定し、それに合わせて練習をして新しい球種を“デザイン”している。

また、守備シフトで安打が出なくなった打者は、本塁打を狙うために「バレル」と言われる本塁打の出やすい角度にスイングすることを意識するようになった。いわゆる「フライボール革命」だ。

2010年以降、日本の野手がMLBで活躍するのが厳しくなったのは、こうした変化についていけなくなったからだ。対照的に日本人投手が通用するのは、MLBで野球を学びなおし、進化することができたからだ。

筒香嘉智や秋山翔吾は、10年前とは大きく変化したMLBで、厳しい挑戦を続けている。

筒香は中学時代からMLBを夢見ていた。2015年にはドミニカのウィンターリーグに挑戦し、MLBの野球に触れて、その思いをより強くした。NPBで実績を残し、球団の理解も得てMLBに挑戦した。今のところ結果は出ていないが、筒香は、NPBでの安定したポジションを捨てて勇気ある挑戦をしているのだ。

プレイヤーズファーストという言葉がある。努力し、挑戦を続ける競技者、選手をリスペクトし、最優先すべきだという考えだ。プレイヤーズファーストは指導者や選手OBにも求められる。

張本勲はメディアのニーズに応えてサービストークをしていると言われる。そうだとしても現役選手を軽んじるような上から目線での発言は、自らが打ち込んできた野球というスポーツをも貶める。「プレイヤーズファースト」という言葉をもう一度かみしめるべきだろう。

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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