足りないはずの「ワクチン」が余る病院が出てきた残念な背景
2ヵ月近く、行き場のないまま眠っているワクチン
7月末までに高齢者への接種を終え、7月中には一般の人たちへの接種開始という政府の方針のもと、各地方自治体が対応に追われている。
ワクチン供給量が少なく、どの自治体でも予約があっという間にいっぱいになる状態が続いているが、実はワクチンが余っているところがあると、都内のある病院関係者は言う。
「3月上旬から医療従事者へのワクチン接種が始まり、それに伴って、基本型接種施設にワクチンが分配されましたが、その基本型接種施設にワクチンが余っているのです」
医療従事者に優先接種するために、東京都では基本型接種施設と連携型接種施設を選定した。基本型接種施設というのは、新型コロナウイルスワクチンを医療従事者に優先接種するため、超低温冷凍庫を設置し、1000人以上の医療従事者に接種を実施する施設のこと。連携型接種施設というのは、基本型接種施設からワクチンを分配してもらって、およそ100人以上の医療従事者に接種を実施する施設のことだ。
基本型接種施設は、自分の病院と連携型接種施設で必要なワクチンを東京都に申請し、送ってもらう。
必要な数だけ送られてくるなら問題はないが、そうはいかない。というのは、ファイザー製のワクチンは1箱に195バイアル入っていて、たとえば200バイアル必要ということになると、2箱送られてくるのだ。つまりこの場合、「使うあてのないワクチン」が190バイアル出てきてしまう。
「聞くところによると、300バイアル余っている病院もあるそうです」
1バイアルで6回接種できるから、300バイアルなら1800回分。
今、東京都には163の基本型接種施設がある(東京都1694報より)。仮に1施設100バイアル余っているとしたら、16300バイアル余っていることになり、これは9万7800回分になる。
ワクチンの在庫を国や自治体は把握できているのか
200バイアル必要なところに2箱(195バイアル×2)送ったら、余ることは、だれにでもわかる。
「だから、余った分をどうすればいいかを問い合わせているのですが何度問い合わせても、きちんとした返事が返ってこないのです」
余っているなら、不足しているところに譲ればいいと思うが、
「当初、基本型接種施設に届けられたワクチンは医療従事者以外の接種が認められず、東京都に問い合わせたところ、“4月末に向けて、医療従事者向けの予約システムを作成中なので、もう少し待って欲しい”との回答がありました。
うちの病院では、ワクチンを無駄にしてはいけないということで、余った分のワクチンのみ院外の医療従事者にも接種すること決めましたが、基本型接種施設になっているような大病院は、たいていコロナ患者を受け入れています。ワクチン接種に人を割くこともできないし、接種会場となるスペースを確保するのもむずかしい…」
結果、多くの基本型接種施設でワクチンが行き場を失っている可能性があるという。
国はワクチンの接種実績や在庫管理をするためにV-SYS(ワクチン接種円滑化システム)を構築した。このシステムの説明によると、ワクチン接種を行う医療機関などは接種実績やワクチン在庫等の登録をV-SYSに入力することになっているが、実際は、在庫を入力する項目がなく、接種回数のみを登録するようになっているという。しかし、1バイアルから、5回と6回接種する注射器が混在しているので、接種回数から残りの在庫数を割り出すのは不可能だ。
それでは、どうやって国や東京都は、各施設にある在庫を把握しているのだろうか。
「ファイザー社のワクチンは、“1箱に195バイアル”という単位で支給されることは最初から説明されていました。であれば当然、余りが生じるのもわかっていたのですから、それを無駄なく使うためには何が必要か考えられたはずです。
すべてが、行き当たりばったりで決められているので、そのたびに電話で確認しなければならない…。先を見越した運用がなぜできないのでしょう」
不具合多発の東京都の医療従事者用予約システム…
基本型接種施設と連携型接種施設以外の一般の医療従事者へのワクチン接種開始は3月上旬から予定されていたが、東京都の予約サイトが開設されたのは4月26日。しかも、翌日の27日には不具合が生じ、サイトでの受付が停止され電話だけの対応になり、5月11日に再開予定だ。
使用期限までに使い切らないと廃棄の恐れも
「もう一つ、キャンセルが出た場合、どうするかという問題もあります。東京都に問い合わせても、病院で代わりになる人を探してほしいと言われました。探せと言われても……」
ということで、この基本型接種施設では自力で近隣の調剤薬局などの医療関係者や消防署に声をかけているという。
河野大臣はキャンセルが出た場合、クーポンの有無にかかわらず、無駄にせず接種してほしいと言っているが、
「今回の新型コロナのワクチン接種は、接種を受けた人の住民票がある自治体から各医療機関に診療報酬が支払われます。記録を残せばいいということなら、予診票等をコピーしてクーポンの代わりにすることができますが、その集計はだれがどのようにするのか。クーポンを持っていない人にも接種していいということのなら、せめてそのときはどうすればいいのか、マニュアルを作ってほしいですね」
すべて自治体や医療機関に丸投げ。「地域の状況に合わせて」という言葉は耳ざわりがいいが、接種方法は自治体に任せたとしても、クーポンを持っていない人が接種する場合などのマニュアルは国が用意しても、地域の実情に合わないものになるとは思えない。
余ることはわかっているのに、コロナ対応で手いっぱいの病院に使い道を任せているのもわからない。
ファイザー製のワクチンは、超低温冷凍庫で保存していれば6ヵ月はもつといわれるが、作られてすぐ日本に届くわけではない。
「3月上旬に届いた最初のワクチンの使用期間は6月末まで、4月下旬に届いたものも7月末までです。この期限を過ぎたものは接種できません」
「無駄なく、無駄なく」とかけ声をかけるばかりでなく、無駄なく使うためのシステムを考えるのが国の仕事ではないのだろうか。
- 取材・文:中川いづみ
- 写真:アフロ
ライター
東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』(講談社)、『片付けが生んだ奇跡』(小学館)、『車いすのダンサー』(PHP研究所)など。