一本15万円…新型コロナ「闇ワクチン」のヤバい違法販売手口
中国『シノバック』製を謳うが、証拠は皆無
新型コロナの感染が急拡大し、第4波の真っ只中にあるいま、日本はワクチン接種率が2%と先進国で最低水準にとどまっている(4月29日現在)。遅々として接種が進まない状況につけ込み、密輸業者による「闇ワクチン」の違法販売が横行しているという。今年1月にも、日本に持ち込まれた未承認の中国製ワクチンを一部富裕層が接種していると全国紙で報じられたばかりだ。
「中国で現在認可されているワクチンは、『シノファーム』『シノバック』『カンシノ』社による計4種。とくに『シノバック』社製は東南アジアなど発展途上国を中心に大量輸出されている。こうした途上国向けのワクチンが、密輸業者用に横流しされている可能性は考えられます」(医療事情に詳しいジャーナリストの村上和巳氏)
実際、都内で複数店舗を展開するキャバクラグループの代表はこう語る。
「従業員を守るために闇営業中ですが、クラスターが発生すれば、店は潰れてしまう。何とかしなければと調べているうちに、同業者から『闇ワクチン』の存在を知りました。ロシア発のチャットツール『テレグラム』の掲示板で密輸業者と接触し、商談中です。『テレグラム』は運営側ですら通信内容を見ることができない秘匿性の高いツールですからね」
筆者も「闇ワクチン」流通の実態を探るため、「テレグラム」で掲示板を閲覧した。掲示板は、LINEでいう「グループライン」のような機能で、そこには、「冷え冷えの(覚醒剤)押します(売ります)」「野菜(大麻)、極上品あります」など、違法薬物の売り文句に混じり、「中国のコロナワクチン欲しい人、注射したい人、詳しい話しdmください」(原文ママ・写真参照)という投稿があった。
そこで筆者は会社経営者を装い、投稿者「N」にメッセージでワクチンの価格を尋ねた。すると、「200回分で200万円」「1回分で15万円」との返答がきた。ワクチンは『シノバック』社製で、手付け金を振り込めば1週間で納品するという。
ちなみに、日本で未承認の薬品を輸入するには「薬監証明」を取得しなければならない。薬監証明無しに商品を販売すると、薬機法違反に当たる。だがNは、「それ(薬監証明)はないです、これは密輸ものだから」と、あっけらかんと回答。密輸の方法は、「毒品(ドラッグ)と同様、船」を使用していると説明した。
対面取材を試みようと、筆者はNにワクチンの手渡しを申し入れた。すると、Nは港区内の公園を指定してきた。当日、筆者は約束の場所に到着したがそこは無人。数分後にNは公園から徒歩15分の距離にある別の場所に来るよう指示してきた。だが、そこにもNの姿はない。そのとき、Nからテレグラムで一枚の写真が送られてきた(4枚目写真)。
写真には、筆者がいる場所の一角が写し出されていた。そして、生い茂る雑草が赤い丸で囲まれており、「この草の後」というテキストが添えられていた。その言葉に従い草をかき分けてみると、レジ袋に包まれたずっしりと重い保冷バッグを発見(5枚目写真)。中には、保冷剤とともに小型のペンケースが入っており、ペンケースの蓋を開けると注射器が出てきた。シリンジには目盛りがあり、無色透明の液体が0.5㎖入っていた。
その間、Nからは再び複数のメッセージが届いていた。
「警察かもしれないので会えません」
「本物だとわかったら15万円を振り込んでください」
もちろん、自分で注射して有効性を確かめるなどという危険なことができるはずもない。Nにカネを振り込まず、後日、5つの民間研究所に液体の成分分析を依頼。しかし、いずれも「新型コロナワクチンと特定するための設備や知見がない」との理由で断られてしまった。
市販のpH測定器で調べたところ、液体はpH値約7.8の弱アルカリ性で、ワクチンの値と近かった。臭いはない。薬物検査キットにかけてみると、コカインなど主な違法薬物の成分についてはすべて陰性。結局、この透明の液体の正体を特定するには至らなかった。
もし、この「闇ワクチン」がニセモノであれば人命に関わる問題だ。
「闇ワクチン」の流通を防ぐためにも、政府はワクチン接種を迅速に進めるべきだろう。ジャーナリストの鈴木哲夫氏は日本の縦割り行政をこう批判する。
「仕入れなど管轄は厚労省、輸送は国交省、冷凍保管は経産省、地方自治体とのやり取りは総務省などと、ワクチン流通に関する行程が複数の省庁にまたがっていたため、接種が遅れてしまった。1月に河野太郎氏が新型コロナワクチン接種推進担当相に就任し、ようやく行政も事態の改善に向けて動き出したのです」
行政の統率が取れない限り「闇ワクチン」流通を止めることはできないだろう。
「FRIDAY」2021年5月21日号より
- 写真:共同通信社(1枚目)
- 取材・文:奥窪優木
フリーライター
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。 ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。20帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿。著書に『中国「 猛毒食品」に殺される』(扶桑社)など。