浦和レッズの宇賀神友弥が「社会奉仕」に財産を投じる理由
片親家庭への食事提供、水没したグラウンドの再建など 活動に費やした金額は4年間で6000万円以上
「『偽善者』なんて飽きるほど言われましたよ。僕だって昔はコンビニの募金とか疑っていたので気持ちはわかります。でも始めるとたくさん発見があって楽しいんですよ。今後も続けていくつもりです」
社会奉仕へ並々ならぬ情熱を燃やすのは、J1『浦和レッズ』に所属する元日本代表・宇賀神(うがじん)友弥選手(33)だ。’19年10月に台風19号が関東地方を襲った際には、水没した『レッズランド』(さいたま市)と『彩湖・道満グリーンパーク』(戸田市)のグラウンド再建プロジェクトを発足。
1000万円以上を寄付した。コロナ禍では医療施設などへマスク3万枚の配布や片親家庭への食料品の提供などを実施。貯金を1500万円も切り崩し、4年間で費やした活動費は6000万円以上になるという。妻を説得し、身を削って社会奉仕に励む『慈善Jリーガー』は、自身の活動を飄々(ひょうひょう)と振り返る。
「キッカケは’16年10月9日のルヴァンカップ準決勝FC東京戦です。中学から浦和レッズに所属していますが、初めてキャプテンマークを巻いて出場した試合でした。入場の瞬間『観客全員をワクワクさせるプレーをしないと』という責任感が自然と湧いてきました。
今までは自分が選手として生き残ることだけで必死でしたが、初めて他人中心でサッカーを考えることができて。『サッカーを通じて誰かのためにできることは、他にもあるんじゃないか』と思ったんです」
’18年には3000万円を借金して地元・戸田市にフットサルコートを建設した。しかし、当時は地元民から非難の声が上がったという。
「最初は『小銭稼ぎを始めた』『サッカーしかしたことないのに、興味本位で出すぎたマネをするな』といった声を何度も聞きました。そのたびに子供たちがサッカーに触れる場所を作りたいという熱意と、どれだけ儲からない活動なのか説明して回りました。『なんで汗かいて貧乏話をしてるんだ』って辟易(へきえき)しましたよ。
ただ一番大変だったのは妻を説得することでした。施設建設費を3000万円と見積もっていたのですが、アッという間に予算を越えてしまって。『いいプレーをしてもっと稼ぐから!』と強引に説得(笑)。貯金から追加で1500万円を出してもらい、何とか建てることができました」
聞けば聞くほど出てくる批判や苦労話の数々。それでも足を止めなかったのはなぜなのか。
「批判されすぎて、逆に燃えてきちゃったんですよね(笑)。それに実際やってみるとたくさん発見があったんですよ。ライバル関係にある鹿島アントラーズやガンバ大阪、大宮アルディージャのファンから『レッズのことは大っ嫌いだけど、宇賀神さんの活動は応援します』という声をたくさんいただいて。絶対に出会わなかった人たちとどんどんつながっていく過程がすごく嬉しかったんです。
あとは未経験だった社会人活動がどれも楽しかった。たとえばプレゼン用にパワポを使ったのですが、何のアニメーションもない、文字だけの紙芝居になってしまって。社会人の友達に見せたら『絶対に読まない』と一蹴されました。でも勉強してキチンと資料ができたときは嬉しかった。社会人0年生だからこそ、当たり前のことがイチイチ新鮮でした」
新しい選手像を作りたい
開幕を約2週間後に控えた2月10日、所属する浦和レッズに衝撃が走った。規律を破り、柏木陽介(33)と杉本健勇(28)の二人がコロナ禍に外食。のちに柏木はJ3FC岐阜への移籍が発表された。
「正直、厳しい対応だと思います。とくに柏木選手は実績もありますし、同級生としてずっと見てきたので残念。ただ柏木選手も反省していましたし、何よりチームに、サッカー界全体に緩んだ空気があったことも事実です。僕自身、行動を省みるきっかけになりました」
一方で、社会奉仕を通じて選手自体のイメージを変えたいと語る。
「サッカー選手の一般的なイメージって『チャラい』『お金持ってる』の二つだと思っています。でもサッカーの母国であるイギリスでは違う。選手が当たり前に何億円という額を寄付しています。だからサッカーは紳士のスポーツと呼ばれる。そういうところに本当のカッコよさがあると思っています。
日本でもサッカー選手が心から『かっこいい!』と言ってもらえるように、力になれたら嬉しいです」
夢は活動を通じて知り合った人たちで満員となった埼玉スタジアムで、プレーを見てもらうことだという。実現に向け、今日も走り続ける。






『FRIDAY』2021年5月21日号より
撮影:結束武郎プレー写真:アフロ