池袋暴走事故 遺族が語る飯塚被告の「理解できない態度」 | FRIDAYデジタル

池袋暴走事故 遺族が語る飯塚被告の「理解できない態度」

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初公判が行われた昨年10月8日、東京地裁に出廷する飯塚幸三被告(89)
初公判が行われた昨年10月8日、東京地裁に出廷する飯塚幸三被告(89)

2019年4月、東京・池袋で乗用車が暴走し、2名を死亡させた「池袋暴走死傷事故」で、過失運転致死傷罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三被告(89)の公判が東京地裁(下津健司裁判長)で開かれている。

被告は事故当日、多数の通行人を巻き込みながら暴走を続けた結果、9人に重軽傷を負わせ、自転車に乗っていた松永真菜さん(31=当時)と娘の莉子ちゃん(3=同)を死亡させた。

初公判の罪状認否で飯塚被告は「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶しており、車に何らかの異常があって暴走したと思っています」と起訴事実を否認。4月27日の第7回公判(被告人質問)でもその主張を崩すことなく「自分はアクセルペダルではなくブレーキペダルを踏んだ」と証言した。

真菜さんの夫で莉子ちゃんの父親である松永拓也氏は、被害者参加制度を使い、毎回裁判に参加している。事故ののち、関東交通犯罪遺族の会(あいの会)のスポークスマンとしても活動を行う。

あいの会代表の小沢樹里氏は、埼玉県熊谷市で2008年2月に飲酒運転中の乗用車が起こした『熊谷9人致死傷事故』の遺族だ。今回の公判は支援員という立場で毎回法廷に入り、被害者らを見守る。第7回公判後のいま、松永氏と小沢氏に話を聞いた。

ーー松永さんは当日の会見でも「荒唐無稽な主張をされ続け、事故後で一番絶望した」とコメントされていましたが、改めて、飯塚被告の姿、態度を見て感じたことを教えてください。(高橋ユキ氏 以下同)

松永氏 「主観ですが、他人ごとであるかのように感じました。真菜や莉子に対して『ご冥福をお祈りしたい』と述べた時は申し訳なさそうな声でしたが、それ以外の時は淡々と、時々鼻で笑っているように感じられるところもあった。そんな態度であるならば、簡単に『申し訳ない』とか『ご冥福を祈る』とか言わないでほしいんです。

被告人の権利はもちろん理解し尊重もしています。ただ、ドライブレコーダー(以下 ドラレコ)の映像をはじめ、目撃者の証言など、客観的な証拠が多く出ている中での無罪主張は、無理があるように思います。その上であの態度は、僕としては理解できない。人として理解できないです。

一瞬の出来事でしたから、ドラレコの映像と記憶が違うのは当然だと思います。しかし映像を見て記憶と違うところがあると認識した上で、記録でなく、自身の記憶に基づいて証言を進めることに、果たして何の意味があるのだろうという思いがあります。より自分自身の記憶の不確かさを証明しているようにしか見えず、これまでの裁判で一番絶望しました。

会見でも話しましたが、なぜ2人が殺されなければいけなかったのかと残念。『憤り』という言葉だけでは表せないです」

小沢氏 「被告自身が、この罪に向き合うというよりは、自分の主張に対して頑固になっているという印象がすごく強かったです。私は他の被害者の方々と一緒に傍聴席にいましたが、彼らも非常に憤りを感じたようで、被告の証言を受けて、時折ざわついていました。

基本的にはドラレコがついている裁判って、そんなに争わないんですよね。でも今回ドラレコがある上での無罪主張ですからそもそも無理がありますし、聞いている被害者家族の方々も強い苛立ちや憤りが生じて、声が出てしまったのではないかと感じています。

『覚えてない』という主張について、被害者の家族又は遺族が非常にもどかしく苦しい思いをすることは、飲酒運転での事故の裁判と非常に似ていると思いました。ただ彼の場合は意識もはっきりしていて3回も車線変更していることからも、自分の意志で車を動かしていたのは明白なわけですよね。ですので余計憤りが募ったのだろうと思います。

また被告は、『パニックになった』と言いながらも、ブレーキペダルを踏んでいるか『冷静に確認した』と言う。矛盾していることに自分自身気づいていないのは、高齢者事案の特徴のようにも思います」

ーー事故直後と現在、気持ちの変化はありましたか。

松永氏 「僕は真菜に出会い、そして莉子に出会って、人を愛することや優しさ、全てを教えてもらいました。彼女たちに会わなければ、そういうことを知ることができなかった。相手に対する憎しみはもちろんあります。でも、そういう感情を表に出す僕の姿を見たら2人が悲しむかな、苦しむかな、と思って、事故から裁判までずっと、そういう心にとらわれないよう、なるべく2人への愛や感謝で心を満たしていようと思っていました。ですが、現実がそれを許してくれない。

僕はもともと争いごとは好きじゃないし、そんな気持ちにはなりたくないんだけど、公判で被告の言い分を聞くと、気持ちを抑えることができない。その点で先日の公判後の記者会見では、生まれて初めての感情になってしまった。僕にとっては非常に大きな出来事でした。

僕は決めたんです。裁判のときだけは心を鬼にしようと。そして裁判以外の時は、2人が僕に教えてくれた優しい気持ちで心を満たしていようと、そういうふうに割り切りました。でも先日は自分でも、自分の気持ちに動揺しました。心のどこかで彼の良心に期待していたんでしょうね」

ーー今回の裁判では、松永さんと、真菜さんの父・上原義教さんは被害者参加人としてバーの内側で傍聴しておられましたが、傍聴席にも被害者参加人の方々が多くいらっしゃいます。裁判が続く中で、困りごとなどはありますか。

小沢氏 「本当は傍聴したいご家族がもっといらっしゃったんですが、その方々は自分たちで並んで傍聴券を取るしかない状況です。また、今回の裁判では、バーの内側や優先傍聴席では遺影の持ち込みはできません。

さらに細かなところでは、被害者参加しているみなさんはかなり緊張状態にありますが、水を飲むこともできません。被害者参加制度が導入され、少しずつ変化を感じていますが、まだ十分ではない。

被害者やご遺族の数が多い裁判は、今回に限りません。法廷に入りきれない被害者たちには別室で、映像で裁判の様子を観られるようにするなど、今後考えていかなければならない時期にあるのではないかと思います」

ーー裁判員制度がはじまるにあたり、各地の裁判所で法廷を改装し、裁判員の席が作られましたが、たしかに被害者参加人を想定した法廷にはなっていませんよね。いまも検察官席の後ろにテーブルを置いて、衝立を立てたり……。他の裁判を傍聴していても、その点、不便そうに見えます。松永さんの困りごとはありますか。

松永氏 「裁判員裁判の特別休暇が認められている企業はありますが、被害者参加制度については現状、休暇制度がないので、裁判に出るときは有休を使っています。実際、有休も4月の段階ですでに残り少ないので、おそらく今後は欠勤ということになっていきます。

自分の会社に文句を言っているのではありません。すごく感謝しています。ほとんどの企業で犯罪被害者休暇制度が導入されていない現実があり、それを変えるためにも法制度を整えてほしいと思っているんです。

裁判に出るときだけでなく、役所での手続きなど物理的にやらなきゃいけないことをやるために、また、愛する人の死と向き合う期間として、休暇制度があればと思っています。休める時間があることで、完全には無理だけど、少しでも回復に向かえる、それも犯罪被害者支援のひとつなのではないかと思うんです。

私にとっては仕事ももちろん大事ですが、家族を失った原因となった事故の裁判を見届けることも大事ですから」

小沢氏 「上原さんは裁判のたびに沖縄から東京までいらっしゃっています。これについては被害者参加旅費等支給制度があり、日当や交通費など必要な金額を請求すると戻ってきます。ただ、事前に支払われるものではなく、一度補填しないといけないこと自体が被害者にとっては非常に負担となっています。

例えばタクシーチケットのように、被害者の方がチケットを渡したことで航空会社が国に請求するようなシステムに、ゆくゆくなってほしいと思っています。

また、被害者や家族が実名を公表するにしても、せめてお葬式や四十九日が終わるまでなど、その時期を選べるように、安全を確保した段階で社会に名前を出せるようにしてほしいなと思うんです」

−−松永さんは比較的早い段階でお名前を公表されましたが、出してから嫌がらせなどありましたか?

松永氏 「殺害予告もされましたし、YouTubeで動画を作られたりもしています。DMでもそういったものが送られてきますよ。つい最近も『あなたがもう数秒、奥さんと電話を長くしていたら、2人は死なずにすんだんだ』というDMがきました。

最初は一つ一つに傷ついていましたが、相手にしてもしょうがないと、いまは削除してブロックするようにしています。やっぱりそういう人は一定数いるんだなと思います」

小沢氏 「『相手にしてもしょうがない』と松永さんはおっしゃいましたが、経験として分かってきたから、そう言えるようになっただけであって、当時は『なんでそんなこと言われなきゃいけないんだ』とすごく傷ついて悩まれていました。

『あなたが裁判をしたところで家族が戻ってくるわけじゃない。活動していること自体、意味があるんですか』とか言われたこともあります。それは松永さんが決めることでその人が決めることではないですよね。また『いつまでも悲しんでいたら二人は浮かばれません』とか『天には召されません』とか……本当にいろんな連絡が来ますよ。

あいの会のほうにも『なんであなたたちが支援する必要があるんですか』という連絡があり、電話で数時間対応することもあります」

−−被害者遺族に対する周囲の目に疲れることはありますか?

松永氏 「もともと僕はよく笑うし喋るほうなんです。もちろん事故の後に自分のそんな面は損なわれました。笑う気にもなれなかったし、ご飯も食べれないし、眠れないし。でも、時間が経ってくると、面白い時は笑うこともあるし、お腹だって空く。一方、憎しみに満たされている時もある……。

遺族であろうがなかろうが、そこは変わらない。家族の前や『あいの会』の皆の前、友人の前では笑うこともあるんです。

ただ、カメラを向けられた時や街中にいる時、電車に乗っている時など、笑顔でいていいんだろうかと思ってしまう。思わなくていいことだと思うんですよ。でもどうしても思ってしまう……。そんなことを先日取材中にポロッと言ったんです。でも多くのご遺族は同じように感じているみたいです」

小沢氏 「洋服にしても、暗いものを着ていたほうがいいんじゃないかとか、喪に服しているべきなんじゃないかなどと言われたりすることがあります。もともと花柄が好きな人もいれば明るい色が好きな人もいる。持っていたから着ただけなのに『あなたは寂しくないのか』というようなことを言われたりもします。

スーパーでたまたま知り合いに会って会話していると別の人が来て『よかったわね、笑えるようになったんだ』と言われたり。

嬉しいこともあれば悲しいこともあるし、世の中の人と同じように過ごす、普通の生活の中に『非日常』の裁判がある。ニュースで同じような事故があったりするとすごく落ち込んだりして、何かわからないけど涙が出るということもある。

世間からの視線にすごく敏感になるというのは多くの被害者の方が言っています。笑ったりすることで『もう回復したんだね、よかったね、笑えるようになったんだね』と言われると、笑うこと自体が悪いのかなと悩んじゃうんですよね」

−−小沢さんや松永さんがあいの会として活動される中、先日、免許返納が6万人を超えたというニュースがありましたが、これをどう見ていますか?

松永氏 「活動と関連があるかといわれたら、自分たちにはわからないこと。免許返納という点で言えば、便利さを手放した方々の勇気やご家族の説得など、すごく感謝はしています。ですが地方の高齢者は返納後どう生きていったらいいのかと考えた時、行政側の課題が多く残っているように思います」

小沢氏 「法廷で飯塚被告も事故当日に公共交通機関を使わなかった理由について聞かれ、『乗り継ぎが不便だ』と述べていました。超高齢化社会になっていく中で、都市部もそうですがそれ以外の地域でも、根本的な解決のためには、政策の中で高齢者を支えるという軸が必要だと思っています」

松永氏 「幸せを追求する権利は誰にでもあるわけですから、ちょうどいいところを探していくことが必要だと思います。そのためにはどうしたらいいのか、免許返納も大事ですがそれにプラスして、国や自治体がサポートに力を入れるべきだと考えます。

生活の足として絶対必要なんだという方々に関しては、コンパクトカーを導入する補助も検討すべきですし、食材購入のために必要だという方々のニーズに対しては、宅配サービスにもう少し補助を出すなど。様々な解決策があるはずです」

松永さんは6月の次回公判で、飯塚被告に直接質問する。

あいの会HPはコチラ

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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