「保護猫カフェ」に通ってわかった、猫と里親の幸せな物語
「保護猫カフェ」と、その仕組みを描いたコミックエッセイ
コロナ禍が続き、外出もままならない日々が続いている昨今。家でペットを飼う人が増えているようだ。そんな中で最近、訪れる人が増えているのが里親募集型の保護猫カフェだ。
ここでは、様々な事情で保護団体などによって保護された猫たちが、健康チェック・医療処置・人慣れ期間などを終えた後に預けられ、店内で一時的に飼育されている。
多くの店が時間制で、料金を払えば店内で暮らす猫たちと触れ合うことができ、さらに気に入った猫がいれば、審査はあるものの、里親(新しい飼い主)となってその猫を引き取ることができるというものだ。
コミックエッセイ『いっしょに帰ろう -保護猫カフェで出会った新しい家族の話-』で、「保護猫と人」を描いた著者・蘭木流子さんに「保護猫カフェ」について語ってもらった。
性格は“猫それぞれ”なことがわかった
「私が保護猫カフェの存在を知ったのは、長年一緒に暮らした愛猫を亡くした後でした。
今すぐ『また猫を飼おう』という気にはなれないけど、猫とふれあいたいという気持ちがあって、近所に猫カフェがないかなあと探していた時に見つけたのが保護猫カフェでした」
そうして見つけた保護猫カフェは、行ってみると「保護猫」のイメージを覆すほど人懐っこくかわいい猫たちがたくさんいて居心地がよかったそう。通っているうちに、その店は“平日はフリータイムでコワーキングOK”だと知り、パソコンを持ち込んで仕事をするようにもなった。
「一年ほど通い続け、お店の猫の里親になる人たちを多く見てきました。本当にいろいろな猫がいて、いろいろな里親希望の方がいるんだなって。
よく『猫っぽい性格』なんて言いますけど、好奇心旺盛だったり、ビビりだったり、人間が大好きだったり、猫が苦手だったりと、猫によって本当に様々。里親になる人も大家族や夫婦、一人暮らしだったりして、環境も猫の好みもみんな違います。
ひと目で運命を感じて「この子!」と決める人もいれば、何ヶ月もお店に通い、悩みに悩んで迎える子を決める人もいました。ゆっくり悩んで決めたい人や初めて飼う人にとっては、何度も通って性格が合うかどうか確かめられるのが、保護猫カフェのいいところだと感じました。
私も現在、この保護猫カフェから引き取った2匹の猫と暮らしていますが、1年ほどお店に通ってようやくトライアルに申し込んだくらいです」
猫と人がお互いストレスなく生活するための“トライアル期間”
保護猫カフェは、基本的に里親となることを希望してもすぐに猫が譲渡されることはない。一定の審査や、里親希望者の家での生活が猫にとってストレスにならないかを判断する期間が設けられている。
「里親になるためには、審査のあとに約1~2週間程度のトライアル期間があります。
里親と猫との相性はお店である程度確認できても、環境が変わることでなかなか猫がなつかなかったり、不安感から夜鳴きが連日続いたりすることもあるそうです。また、里親希望者がもともと猫を飼っていた場合、新たな猫の存在が先住猫のストレスとなり、ご飯を食べなくなったり、体調を崩したりということもあります。
そういったことは徐々に環境に慣れていくうちに解決されることがほとんどですが、どうしても飼うことが困難な場合は、トライアル期間中に判断し、猫をお店に戻せるようになっています。
もちろんその逆で、退屈していた先住猫に新しい遊び相手ができて、より幸せに暮らせるケースもたくさんありました。トライアル期間があることで、そんな飼育環境との相性をみたり、想定外のトラブルを店員さんに相談できたりするので、よいシステムだなと思いました」
猫との家との相性は、実際に飼ってみないとわからないことが多い。猫の性格によっても環境の良し悪しが変わるので、トライアル期間は重要なポイントだ。さらに、猫を家に迎えてみると、保護猫カフェにいるときとは性格まで変わることもあるのだとか。
「人間は大好きだけど、ほかの猫が苦手で一匹狼な猫もいました。お店にいるときはほかの猫と一緒に遊ばずに、距離を保って険しい顔をしてずっと一匹でいるんですよ。
そんな子が一匹で引き取られて里親さんの愛情を独り占めしている様子をSNSで見ると、すごく穏やかでかわいらしい顔つきになっていたりするんです。猫って環境によって顔つきまで変わるんだなあと嬉しくなりました」
カフェの利用料金は保護猫の支援になっている
蘭木さんが保護猫カフェに通っていて気づいたことがほかにもある。
それは、お店と里親希望者との信頼関係の築き方だ。これは、何度でも足を運べる「カフェ」というスタイルだからこそのものなんだとか。
「里親募集サイトなどでは『単身者不可』という条件も少なくなく、特に男性の一人暮らしの方はハードルが高いと聞きます。
しかし、私が通っていた保護猫カフェでは『単身者だから』という理由だけで譲渡対象外ということはなく、店員さんとの信頼関係を築いて、お店から猫をお迎えした男性の単身者の方も何人かいらっしゃいました。
猫と何度も会えるだけではなく、店員さんとも何度も会って、お互いの人となりを理解し合った上でお迎えの相談ができるのも、保護猫カフェの魅了だと思いました」
単身者は仕事などで家を空ける機会も多く、さらには虐待目的で動物を引き取るケースも散見され、そのほとんどが男性の単身者だという。
里親募集サイトも保護した猫を幸せにしたいと願う思いは、ほかの施設と変わらない。
そのため、保護して譲渡する側も警戒を強める気持ちも理解できる部分が大きい。里親希望者と時間をかけてコミュニケーションを重ねることがなかなか難しく、単身者は保護猫を迎えることを諦めてペットショップなどから迎える男性も多い。
しかし、保護猫カフェでは『単身者だから』という理由だけで譲渡対象外ということはほぼないのだとか。これも、何度も通って店や猫とコミュニケーションをとれる保護猫カフェの大きな利点でもある。
そうやって保護猫の里親になる人がいる一方で、猫は好きだがさまざまな事情で飼えない人もいる。蘭木さんが通ったお店にも、そういう人たちが大勢訪れていて、常連になる人も多いのだとか。
「私も最初は、しばらく猫を飼う予定がなかったので、そういう人は歓迎されないのかなと思っていました。
でも、店長さんにお話を聞くと『お店に通ってくれるだけで、その利用料金が保護猫の支援になる』とのことでした。
なるほど、里親になったり、保護活動をしたりするだけじゃなくて、『保護猫カフェに通う』という保護猫支援もあるのかと、目から鱗が落ちました。それから“保護猫支援”の名目で、堂々と保護猫カフェに通うことになりました(笑)」
行くだけで保護猫やその活動の支援になる。猫を飼いたくても事情があって飼えない人も、通うだけで猫を助けになる保護猫カフェ。
気になる人は店の仕組みや譲渡までの流れも載っている蘭木さんの著書「いっしょに帰ろう」を読んで、店に行ってみてはいかがだろうか。
※保護猫カフェは現在、新型コロナウイルスの影響で休業や予約制、営業時間が変更になっている店もあります。事前にWEBサイトなどで営業時間などを確認することおすすめします。
蘭木流子(らんき・りゅうこ) 愛猫家で旅客機愛好家のイラストレーター、漫画家。「月刊エアライン」(イカロス出版)にて4コマ漫画コラム「ヒコーキ女子の生態学」を連載中。著者に『今日もヒコーキに会いに行く』(イースト・プレス)がある。