コロナ感染爆発インド「報道で見えない真実」を在住ライターに聞く | FRIDAYデジタル

コロナ感染爆発インド「報道で見えない真実」を在住ライターに聞く

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センセーショナルに偏るインドからの新型コロナ報道

新型コロナウイルスに関する「インド」の報道が、日本でも連日報じられている。1日40万人ペースで感染して死者が1日に4000人超(取材当時)、火葬が追いつかずに路上に遺体が並び、コロナ感染死と見られる遺体がガンジス河に相次ぎ漂着するなど、センセーショナルな記事や画像・動画も多い。

新型コロナ感染者が急増するインド。街にはコロナと戦う女性を描いた壁も(画像:アフロ)
新型コロナ感染者が急増するインド。街にはコロナと戦う女性を描いた壁も(画像:アフロ)

特に、インド型変異株の日本国内での感染例も増え、その感染力が非常に強いことから、日本でのインドに対する見方にその悲惨さが加わって強調されている。その最中で、インドで人気の日本人YouTuberによるインドをモチーフにした動画が問題視されて“炎上”し、在インド日本国大使館が謝罪する一件も起こった。

欧米諸国と異なる、「ダブルスタンダード」の報道倫理

一連の報道などに「ちょっと違う」との見方を持つ日本人女性に今回、話を聞いた。インド在住16年、それ以前の米国と合わせて海外に25年間住み、現在はインドのバンガロールから新型コロナを含むインドの情報を積極的に発信するライター/NGO主宰者の坂田マルハン美穂さんは「日本の、インドに関する報道が悲惨の誇張に偏りすぎている」と話す。

医療用酸素ボンベを軍のトラックに積み込む様子(画像:アフロ)
医療用酸素ボンベを軍のトラックに積み込む様子(画像:アフロ)

日本ではインド=新興国のまま、負の側面を強調して報道する傾向

先進国と新興国、この定義は、あくまで経済や生活水準における上下によるものにもかかわらず、先進国に住む人々は、新興国に対して国家全体を下に見る傾向があると、坂田さんは指摘する。新興国の歴史や文化、そこに生きる人々への敬意が払われないケースにたびたび遭遇し、報道に関しても、先進国では従来から新興国の奇習や社会問題など「負」の側面を大きく取り上げがちという。

「現在、インドから報道されている画像や動画などは紛れもなく事実です。しかし、それが『9割』ではありません。近年、SNSなどの普及で誰でも情報を発信しやすくなったことから、日本では、ジャーナリストではない一般人の発信を、大手含むメディアがそのまま採用していることもある。報道の“質”がさらに落ちている印象を受けます」 

また、欧米の通信社が発信する写真や映像を、日本の報道機関が二次使用するケースも目立つ。病院にズカズカと入り込んで苦しむ人を撮る、聖なる弔いの場である火葬場を上空から映し、涙に暮れる遺族を報道しているとのこと。

「自分が米国在住時に遭遇した2001年9月11日の米国同時多発テロのとき、あっという間に報道規制が敷かれました。一方、インドの悲劇はセンセーショナルに伝える。完全なダブルスタンダードです」

インドの新型コロナ、一連の流れと対策。自給自足作戦も迅速に実行

ここで、インドでの新型コロナにおける一連の流れを紹介する。

2020年2月1日、インドで初めて感染者が確認され、翌3月に日本を含む入国ビザを制限。3月22日に外出禁止令、3月25日に3週間のロックダウンが始まった。

ニューデリーの礼拝堂に作られた、250台ものベッドが並ぶ新型コロナ対応のケアセンター(画像:アフロ)
ニューデリーの礼拝堂に作られた、250台ものベッドが並ぶ新型コロナ対応のケアセンター(画像:アフロ)
長距離鉄道での到着後、乗客から鼻腔スワブによるPCR検査を実施(画像:アフロ)
長距離鉄道での到着後、乗客から鼻腔スワブによるPCR検査を実施(画像:アフロ)

インドの人口は約13億人で、日本のおよそ10倍。しかも、数多くの言語や人種、宗教などが共存する多民族国家であり、貧富の差も著しい。コロナ「第1波」の際、全国規模で医療機関や医療用品の深刻な不足、巨大国家ゆえの危機管理不足、不衛生で密なスラム問題、さらに国内外を行き来する海外在住者も多く、感染が広がった。また、従来からマラリヤやデング熱などの感染症問題もあり、「もともと感染症が流行しやすい国」でもあった。

そんな中、インド政府のコロナ対策が次々と実施されていった。

新型コロナ関連のポータルサイトやアプリをいち早く開設し、情報提供を開始したのをはじめ、リアルタイムで国全体や州ごとの感染者数、死者数がすぐスマホなどで確認でき、必要な情報にすぐアクセスできる使いやすさも重視。それでも人口の多さで対応しきれない部分は、国民同士がSNS「WhatsApp」によって口コミでの情報交換が、今も積極的に行われている。

Ministry of Health and Family Welfare, Government of Indiaのトップページ。感染者数や死者数、ワクチン接種者数のリアルタイム更新、アプリへのリンクもある
Ministry of Health and Family Welfare, Government of Indiaのトップページ。感染者数や死者数、ワクチン接種者数のリアルタイム更新、アプリへのリンクもある

また、人工呼吸器などの医療機器の整備、防護服やN95マスクなどの1日20万セット製造、寝台車を隔離施設にするといった、いわゆる「インド自給自足作戦」も、瞬く間に実践されていった。

厳しいロックダウン、オンラインビジネスの急速な普及、「AYUSH省」も発信 

インドでのロックダウンは、生活必需品のみ条件付きで購入できる以外は外出禁止、違反すると罰則と厳しい。その間、オンラインでの買い物やデリバリーサービス、ビジネスではオンラインでのミーティングやセミナーなどが、これもあっという間に普及した。

インド政府に、インド古来の医学で知られるアーユルヴェーダやヨガなど西洋医学以外を研究する部門「AYUSH省」がある。この公式サイトなどで「アーユルヴェーダによる免疫アップ処置法」「自宅でできるヨガ」「プラナーヤマ(呼吸法)」などを随時発信。英語とヒンディー語、日本語でも一部見られる。

インド政府のAYUSH省が提供するアーユルヴェーダの情報(日本語)
インド政府のAYUSH省が提供するアーユルヴェーダの情報(日本語)

一方、ワクチンの接種は、2回のワクチン接種完了者は約3700万人(人口比2.7%)、1回のみは約1億3700万人(同10%)で、接種スピードは日本よりも早い(Our World in Data、2021年5月11日現在)

接種対象年齢が2021年4月以降に45歳以上、5月以降に18歳以上まで引き下げられ、人口の多さに加え、感染者数の急増で都市によってはワクチン不足が起きているものの、接種は急ピッチで進められている。インド国内生産を含めて数種類のワクチンが承認され、ワクチンを含む新型コロナ情報はすべて「Aarogya Setu」というアプリで管理されている。

インドでは新型コロナのワクチンを接種が進む。一時は世界をリードする接種ペースだった(画像:アフロ)
インドでは新型コロナのワクチンを接種が進む。一時は世界をリードする接種ペースだった(画像:アフロ)

インド人は「困ったら、助け合う」精神、正確で的確な情報交換 

インドでは、2020年9月に新規感染者数が1日10万人近くに達した「第1波」のピーク後はいったん減少した。だが、2021年3月以降は以前を上回るペースで急増して「第2波」となり、現在まで続く。

インドの医療機関による自宅療養プログラムの一例(坂田さんのブログより)
インドの医療機関による自宅療養プログラムの一例(坂田さんのブログより)

第1波と第2波、その時、インド在住者として感じる大きな“違い”の1つとして、坂田さんは「昨年のロックダウン当初に錯そうした、根拠が不確かな情報は激減し、第2波では的確で実践的な情報が届くようになった」と話す。

「酸素不足に対応すべく、民間団体や企業が瞬く間にネットワークを構築、情報を共有して供給し始めました。1週間足らずで、自動車の製造ラインを医療機器向けに作り替えた企業もあります。必要なアプリもすぐに開発され、インド政府のアプリと紐づけされて使えるようになるまで、わずか数日。この国はとにかく早い」

坂田さんの友人が経営する「HealthifyMe」が開発したワクチン接種のアプリ。情報を登録しておくと接種可能な場所と時間帯を知らせてくれるという
坂田さんの友人が経営する「HealthifyMe」が開発したワクチン接種のアプリ。情報を登録しておくと接種可能な場所と時間帯を知らせてくれるという

困った人に対する民間のサポートも手厚く、ベッドや医療用酸素がすぐに集まったり、高級ホテルが隔離者用のベッドを積極的に提供したり、宗教団体や一般市民グループが感染者の家族に無償の食事を提供したりと、協調の例は多々。世界各地に散らばる海外在住インド人 (NRI/ Non Resident Indians)の支援力も絶大だという。

坂田さん曰く「インドでは『人々が互いに助け合う』暮らしが基本です。家族や親戚が支え合うのはもちろんのこと、困った人には自然に手を差し伸べます。富裕層が貧困層へ寄付する、社会奉仕するのも自然のこと。また、貧困層にも自助のコミュニティがあります」とのこと。未曾有の事態に国がガタガタになったからこそ、人々がよりいっそう助け合って生き抜こうとする、お互いに足を引っ張り合うことはしないのがインドの実態なのだ。

インドのYouTuber動画が炎上、大使館謝罪まで発展した根本的な問題 

インドで厳しい状況が続く5月初め、日本人YouTuberらによるインドをモチーフとした動画が拡散され、ネット上で炎上した。「普段は人に謝罪を要求する国民性ではない」というインド人が多数、この動画を見た直後から英語やヒンディー語で動画の削除や謝罪を求めるコメントを次々と発信したとのこと。動画は3日ほど後に削除された一方、インド人から通報を受けた日本大使館がFacebook上で謝罪文を発表するまでの事態となった。 

在インド日本国大使館公式Facebookに掲載された、問題となったYouTube動画に関する謝罪文
在インド日本国大使館公式Facebookに掲載された、問題となったYouTube動画に関する謝罪文

なぜここまで問題視されたのか。内容だけでなく、その動画に200万人以上のインド人フォロワーを持つ日本人YouTuberが出演、制作に関わっていたことも原因だろうと、坂田さんは語る。

「インドの食文化や宗教を面白おかしく取り上げたこの動画について、どの部分が悪かったのかわからないという日本人の声も多く目にしました。確かにその気持ちもわかります。しかし、日本国内では『無知』が許されても、国境を越えると国際問題に発展しかねません。影響力のある発信者は、責任を自覚して、ある程度の勉強をする必要があるでしょう」

インドは若者が活躍できる国、いま一度「異文化」への理解と敬意を

報道から連日伝わる、インドの悲惨な現状。そんな中でも悲観的なことばかりではない、と坂田さんはいう。その理由として「若さ」「助け合い」「スピード感」を挙げてくれた。

「インドは若者人口が多いこともあり、フレキシブルにチャレンジできる土壌があります。一方で、アーユルヴェーダのような五千年もの歴史を持つ伝統医療を取り入れ、年長者を敬い、家族や親戚を大切にする。新型コロナ禍においても、若者が最先端のテクノロジーを駆使して救済を実現しています。今は大変でも希望を持って、人々が協調しているのです」 

坂田さんは、自身の運営するNGOにおいて、困窮するインドへの寄付を希望する日本人を対象に、インドの支援先団体を紹介。 バンガロール郊外で貧困層を支援するOBLFという慈善団体に対し、わずか2週間あまりで国内外から数千万円の寄付が集まり、並行して感染者収容センターを構築。5月上旬に第1センターが稼働し、すでに多くの命を救っているという。第2センターも5月中旬に稼働予定で、迅速に救済活動が進んでいるとのこと。

NGO「ミューズ・クリエイション」が関わる慈善団体、OBLFのCOVID-19感染者向け第1ケアセンターの様子(坂田さん提供)
NGO「ミューズ・クリエイション」が関わる慈善団体、OBLFのCOVID-19感染者向け第1ケアセンターの様子(坂田さん提供)
OBLFの第2ケアセンターがオープン(坂田さん提供)
OBLFの第2ケアセンターがオープン(坂田さん提供)

「インドは圧倒的に人口が多いため、救済は追いついていませんが、この未曾有の状況下、国の各地で支援が展開されているのも事実なのです」 

報道から伝わる現実を直視しつつ、背景にある多様性も知る。その報道だけを鵜吞みにせず、自らの五感で体験しながら学ぶ。コロナ禍で制限があるものの、何事もさまざまな視点から見て考える大事さが、インドに関しても当てはまるのではないだろうか。

坂田マルハン美穂さんのホームページ

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■記事中の情報、データは2021年5月16日現在のものです。

  • 取材・文Aki Shikama / シカマアキ

    旅行ジャーナリスト&フォトグラファー。飛行機・空港を中心に旅行関連の取材、執筆、撮影などを行う。国内全都道府県、海外約40ヶ国・地域を歴訪。ニコンカレッジ講師。元全国紙記者。

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