一足先に「ワクチンパスポートを発行」したイタリアのいま
EU内は6月末スタート。夏の旅行に向けて、システム整備が急ピッチで進む
今、イタリア政府内では、イタリアへ入国する人への制限に関する新しいルール作りが議論されている。
マリオ・ドラギ首相は、コロナ禍でダメージを受けている観光業を救うため「観光を安全に再開させていきたい。イタリアで夏のヴァカンスを楽しんでもらいたい」と、他の欧州からの観光客を誘致したいと考えている。
このため、イタリア政府は、EUが6月末に開始予定の「デジタル・グリーン認証(ワクチンパスポート)」より一足早く、5月中旬から観光目的でイタリア入国する人への「グリーンパス」を独自に発行し、入国者に対する規制を縮小する措置を始めることになった。
今年は、各国でのワクチン接種が順調に進んでいることもあり、「ワクチンパスポート」のシステムと、そのルール作りを整備して欧州の観光業の復興を目指していくことになる。


「介護施設への訪問」のためのパスとしても活用
現在のところ、この「グリーンパス」はイタリアの国内旅行のみ有効で、その有効期限は、最後のワクチン接種から6ヵ月間とされている。また、この「グリーンパス」はコロナウイルスに感染し完治した人も対象となり、その場合は、回復し隔離が終了してから6ヵ月間となる。
そして同時に、この「グリーンパス」は、観光のためだけでなく、「介護施設への訪問」のためのパスとしても利用できることが法案で可決された。
長い間、パンデミックの影響で規制され、会うことができなかった介護施設にいる高齢の家族・親戚にこの「グリーンパス」を使って訪問、面会できるようになったのである。しかし、ハグなどの身体的接触が許されるのは、訪問先の人もワクチン接種が終了しているか、感染後に完治して6ヵ月以内の場合に限られる。

最初は混乱も…順調に進む、イタリアのワクチン接種
イタリアのワクチン接種は、それぞれの州ごとに管理され進められている。
1月から接種が開始された私が住むピエモンテ州(州都トリノ)では、現在、医療従事者、介護施設スタッフと入院者、60歳以上、16歳から59歳で病気を患っていて、免疫力が低下して重症化する危険性がある人の接種と接種予約がほぼ完了した。
現在は、一般の人の50歳~59歳の接種の予約と、その呼びかけが始まっている。その後、段階的に6月15日までには接種可能な16歳以上のすべての人の予約が開始されることが発表された。
また同時に、年齢区分とは別の優先カテゴリーとして学校・大学関係の職員全員と、イタリア国民保護局(自然災害、大災害から生じる損害または損害の危険性から生命、環境、財産を保護する機関)のボランティアスタッフに対してワクチン接種の呼びかけも行われている(イタリア国民保護局のスタッフとして、ラクイラの大地震の時、被災者のために食事を提供した料理班の知人もこれに含まれていた)。


最悪の状態からの1年を振り返って…
2020年3月8日に北イタリア(ロンバルディア州と周辺の14県)が封鎖され、2日後には、イタリア全土でロックダウンとなった日から、もう14ヵ月が経過した。
さて、昨年の夏のヴァカンス時期は、どうであったかというと、ロックダウンによって一時的に新規感染者数が減少していたため、行動制限が緩和され、欧州間の行き来ができるようになっていた。
EUは、最初からある程度の感染者数の増加を予測したうえで、ヴァカンスを楽しむ人々の移動を容認していたが、変異ウィルスの出現もあり、その後、各地で感染が急速に広がり秋には再度ロックダウンになった。
昨年の夏、私の住む北イタリアの地元のワイナリーでも、旅行の途中にワインを購入するために訪問するドイツ人、スイス人の姿があり、時々、彼らと一緒にワインのティスティングすることもあった。

ワイナリーでの話題の中心は、いつも、それぞれの国の状況についてだった。久しぶりに人に会って話すのが楽しいという言葉が印象に残っている。
昨年から人々のヴァカンス旅行のスタイルが変わってきている。
イタリアの新聞の経済欄に、フランスの保険会社Europ Assistance社が、イタリア、ドイツ、フランス、スペイン、ベルギー、ポルトガル、イギリス、アメリカで実施した、ある興味深い調査結果が掲載されていた。
その調査によると、イタリア人の88%が今年2021年の夏にヴァカンス旅行を予定していて、そのうちの77%の人が静けさ、快適さ、開放的な空間を保証する貸別荘で過ごす家族旅行を考えていると回答したという。混んでいる有名な観光地を避けて、人が少なくて安全だと思われる小さな村や田舎で、自然との触れ合いを目的とするヴァカンスをする人が多くなっているようだ。
まだロックダウン中だけど…明らかに変わった日常
現在、イタリアは、感染状況によって州ごとにホワイト、イエロー、オレンジ、レッドと色分けされ、そのゾーンごと行動制限が決められている。これは、感染状況に応じて変わっていく。
今年の春、ピエモンテ州がレッドゾーン(ロックダウン)であった時期、手続きの用事があり外出許可書にサインをしてノヴァーラ市内を歩いていた時のことだった。
市民公園には、犬の散歩をしている人々の姿(散歩は、運動であり、自宅付近に限り認められている)、ベンチで陽の光を受けて休憩している人々、飲食店でテイクアウトをしたパニーノでランチをするビジネスマンの姿があり、賑やかな鳥のさえずりが響く平和で穏やかな光景が広がっていた。
それは、一年前の緊迫したロックダウンの時とは異なっていた。
イタリアで暮らす人々は、この状況に慣れて、生活様式を変えてきている。まだ1、2年、この制限がある日々が続くだろうと予測する人も多い。
現在、ピエモンテ州は、「イエローゾーン」なので、飲食業が再開され屋外で着席であれば、こんな風にワインを楽しむこともできる。しかし、また感染者数が増え、オレンジゾーンやレッドゾーンに変わってしまえば、厳しい行動制限に切り替わっていく。この1年近く、その繰り返しを何度も経験してきた。
経済効果と安全性をみながら「慎重に、段階的に、安全に」進む緩和
昨日、14ヵ月以上閉店していた町のバールが、新しい経営者で営業を開始した。以前の経営者は、制限緩和後もお店を開けることなく、他の道を選んでいった。
久しぶりに出会う町の人々とバールでの再会を喜びあう。友人たちは、高齢のためほぼ全員、ワクチン接種2回終了していた。

イタリアにおけるコロナウイルス、2021年5月15日の速報値では、新規患者数6659名、死亡者数138名。イタリアをはじめ欧州の感染者数は、まだ高い数値であるが、これでもピーク時と比べると急激に減少してきている。
マリオ・ドラギ首相によると「経済が早く再開でき、人々が外に出て仕事をしたり、楽しんだり、一緒にいられるようにしたい。しかし、リスクを十分に計算した上で、慎重に、段階的に、安全に」とのこと。
現在の22時から5時までの夜間外出禁止令の緩和スケジュールは、科学技術委員会によるモニタリングを経て近く決定される。5月22日からは、ショッピングセンターの週末の営業が再開される予定だ。

取材・文:奥山 理恵/Rie Okuyama
イタリア・ピエモンテ州北部(アルトピエモンテ)ノヴァーラ県在住。イタリアソムリエ協会ソムリエ。イタリアソムリエ協会マスターディプロマ取得。日本に株式会社Wine・Artを設立し、ピエモンテワインやイタリア食材の直輸入販売の他ワイナリーをはじめ、酪農、稲作など北イタリアの農業視察や農業調査などイタリア現地コーディネートも行う。ねこが好き。