ブルーライトカット眼鏡は「眼精疲労を軽減する効果ナシ」の大波紋
メガネ業界に大打撃! コロナ禍でテレワークが急増し、さらに売り上げはアップしていたが…… 日本眼科学会など6団体が「エビデンスに乏しい」と意見書を発表
「ブルーライトカット眼鏡に対して、オフィスワーカーの皆さんは眼精疲労を軽減することを期待していると思います。ただ、残念ながらブルーライトは電球や太陽光に含まれている、普通に存在する光です。たしかに眼に問題を起こすという学説はありますが、専門家のコンセンサスが得られているわけではないんです」
そう語るのは、日本眼科医会常任理事の加藤圭一氏である。同会をはじめとする眼科医らが所属する6団体が4月にブルーライトに関する意見書を発表した。これが大きな反響を呼んでいる。
その主な内容は、以下のようなものだ。
●デジタル端末の液晶画面から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光よりも少なく、網膜に障害を生じることはないレベルである
●小児は十分に太陽光を浴びない場合、近視進行のリスクが高まる。ブルーライトカット眼鏡をかけることは、浴びることよりも有害である可能性が否定できない
●最新の米国一流科学誌に掲載された報告によれば、ブルーライトカット眼鏡には眼精疲労を軽減する効果がまったくない
ブルーライトカット眼鏡は今や100均ショップでも買える大ヒット商品だ。
メガネチェーン店『Zoff』が昨年12月に発表したリリースによれば、テレワーク需要の影響で、直近1ヵ月のブルーライトカットレンズ・眼鏡の合計販売数は毎週前年比約500%。また、同じく人気チェーン店『JINS』では、’20年1月末時点でブルーライトカットレンズ・眼鏡の累計販売数は1100万本だという。
今さら「目の疲れ」には関係ないと言われてもユーザーは困惑するばかりだろう。
なぜ意見書をこのタイミングで発表したのか? 前出の加藤氏はこう語る。
「今まさに、国が進める構想により小中学校の教科書がタブレットに変わろうとしている真っ最中です。そんな状況の中、お子さんが眼鏡を作る際には、正しい知識を持ったうえで選んでほしい。たとえばブルーライトカット眼鏡をかけていれば、長時間タブレットを見ても大丈夫だということは決してないんです」
今年3月には、米国で最も権威のある眼科医の団体「米国眼科アカデミー」も見解を発表している。日本小児眼科学会理事長の東範行氏が解説する。
「同アカデミーは、『ブルーライトが目に悪いという科学的根拠はないので、ブルーライトカット眼鏡を推奨しません』と断言しています。ブルーライトカットはエビデンスがないまま広く知られてしまった。またブルーライトが目に良くないという根拠は、ネズミを使った動物実験でのもの。色覚がなく夜行性のネズミに昼の強い光を当てたデータを人間に当てはめるのはおかしな話です。
これからの時代は、子供たちもタブレットやパソコンを使う機会が増えていきます。しかし、そこから発せられるブルーライトは自然光より弱いので、眼を適切に休め、画面と適度な距離を保ち、夜はナイトモードを利用すればカットする必要ありません」
もちろんこれは子供だけでなく大人にも言えることだという。
『JINS』は4月から渋谷区の公立小中学校に通う生徒9000人にブルーライトカット眼鏡を寄贈する予定だった。しかし、これも見直されることになった。
「延期ではなく、配布自体を中止するという方向で調整しています。東京都眼科医会の先生方ともやりとりし、ブルーライトカット眼鏡は有用性がないものというお話でした」(渋谷区教育委員会担当者)
一方、『Zoff』の担当者はこう語る。
「6団体が出された発表に関しては、あくまでもお子様に関して、という受け止めをしております。どちらかと言うと夜間にデジタルデバイスを使用するときに利用していただく、ということを想定しております。ブルーライトは本来昼間に浴びるべき光ですから、それを夜間に浴びると睡眠の質が落ちるという研究結果もありますから。また、目が疲れなくなった、というお話も伺っております」
『JINS』の広報担当者の回答は以下だ。
「今回の件を踏まえ、今まで以上にお客様にあわせた丁寧な接客を心がけるとともに、特にお子さまに対しましては専門医の処方をお勧めすることや、使用方法についてより啓発していきながら、社会に役立つ企業として精進してまいります」
画面を見る際にブルーライトカット眼鏡をかけること自体は有害ではない。
「画面が見えやすくなる中高年の方はいると思います。一定の波長の光をカットする眼鏡は以前からあって、それにより見え方が良くなる人もいます」(加藤氏)
過度な期待をしないこと。結局、これが妥当な理解と言えるだろう。

『FRIDAY』2021年5月28日号より