トーク怪獣・さんまとマツコの“サシ共演”が炙り出すテレビの不安 | FRIDAYデジタル

トーク怪獣・さんまとマツコの“サシ共演”が炙り出すテレビの不安

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4月から放送がスタートした『週刊さんまとマツコ』。大物ふたりのトークに視聴者のみならず業界からも熱い注目を集めているが……(写真:公式ホームページより)
4月から放送がスタートした『週刊さんまとマツコ』。大物ふたりのトークに視聴者のみならず業界からも熱い注目を集めているが……(写真:公式ホームページより)

初回放送は事実上の「エピソード0」

昨秋にマツコ・デラックスが『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)を卒業し、10年超にわたる明石家さんまとの共演は終了したが、そのわずか半年後の今春、『週刊さんまとマツコ』(TBS系)がスタート。

さんまとマツコは単独でMCをこなせるほか、大物から一般人まであらゆる人々と絡めるトーク力で「バラエティの2トップ」「トーク怪獣」と言われるだけに、サシでの共演に業界内の注目度は高かった。事実、ここまで3回が放送されたことで、早くも業界内外からさまざまな声がささやかれはじめている。しかも、それらの声はポジティブなものではなく、多分に不安を感じさせるものが含まれていた。

まず初回の内容が異例だった。「さんまとマツコそれぞれの楽屋トークを別々に撮り、交互に見せていく」という形を採用し、2人の共演シーンはなし。初回ではなく事実上の「エピソード0」というコンセプトの内容だったが、それでもトーク怪獣の2人は競い合うように笑いを交互に取り合っていた。

2回目でさんまとマツコの共演がようやく実現し、トークがスタート。本当に2人しかいないサシのトークショーであり、それだけでも他番組との差別化になっている。ただ、「大物2人の共演だからすべてOKか」と言えばそうではないのだ。

技術は高くても盛り上がらない理由

ここまでの放送を見た他局のテレビマン2人と、ある放送作家に番組の感想を聞くと、「2人でトークを成立させられるのはやっぱり凄い」という称賛と、「本当にこのスタイルを続けていけるのか」という疑問が共通していた。つまり、「トークの技術は凄いが、番組が盛り上がっていたとは思えない」という印象だったのだ。

実際、視聴率は、初回が個人2.3%、世帯4.4%、2回目が個人2.2%、世帯4.1%、3回目が個人2.3%、世帯4.3%に留まってしまった。裏番組の『真相報道バンキシャ!』(日本テレビ系)、『相場マナブ』(テレビ朝日系)、『サザエさん』(フジテレビ系)を大幅に下回ったほか、TBSの前番組『世界遺産』と後番組『坂上&指原のつぶれない店』よりも数%低く、『週刊さんまとマツコ』が足を引っ張った状態となっている。

では、「バラエティの2トップ」「トーク怪獣」の共演なのになぜ盛り上がらないのか。そもそも動きのないサシのトーク番組はすでにほぼ絶滅していて、さんまとマツコの技術を持ってしても難しいという前提がある。さらに3回目の「お弁当作り対決」では買い物ロケもあったが、やはり2人のトークのみで進行していく形は変わらず、視聴率やネット上の評判が上向くことはなかった。

また、トークの技術があっても、笑いにつなげるパターンが「いつものさんまとマツコ」であり、「この番組でなければ見られない」という新たなものがなかったことも気がかりだ。さんまは「細々とやっていけばいい」というニュアンスを何度か話し、ゆるいムードを醸し出そうとしていたが、それだけで現在の視聴者を集められるとは思えない。

重点ターゲットに合わない既存スター

TBSは今年4月に視聴者の重点ターゲットをこれまでのファミリーコア(13~59歳)から10歳若返らせた新ファミリーコア(4歳~49歳)に変更した。

今まさにファミリー層を狙った番組を次々に仕掛けている最中なのだが、『週刊さんまとマツコ』のさんまは65歳、マツコは48歳であり、2人の平均年齢は56.5歳と重点ターゲットを超えている。2人は年齢の枠を超えた人気者ではあるが、それでも「若年層への訴求力が高いか」「親子そろって見る番組なのか」と言えば疑わしい。

これは「長きにわたってニュースターを生み出せていない」というテレビ業界の不安そのものでもあり、「YouTubeや動画配信サービスなどに視聴者を奪われ続けている」という苦境の原因とも言えるだろう。他局のあるテレビマンは、「さんまさんと若い女性のスターとか、マツコさんと若いカリスマとかの組み合わせができたら一番いいけど、そういう人がいない」と言っていた。

裏を返せば、「サシのトーク番組」「高年齢の既存スター」という不安があったからこそ、『週刊さんまとマツコ』は、“日曜夕方の30分枠”という小さなスケールの番組に留めたのではないか。

また、初回放送が4月18日で、翌週の25日は『バナナマンのせっかくグルメ2時間30分SP』で放送なし。2回目が5月2日で、翌週の9日は『東京2020オリンピックテスト大会』で再び放送なしと、序盤から隔週放送に留まったことも見逃せない。本来、新番組は毎週放送することで視聴習慣を定着させたいものだが、それができないところにも不安を感じてしまう。

このところ弱気な発言が目立つ2人

このところマツコは健康を不安視するコメントや、引退をにおわせる発言を繰り返し、何度か業界内外をさわがしている。一方のさんまも時折、引退や加齢について語ることがあるほか、相変わらずYouTubeなどのネットから距離を置いたままだ。2人はテレビでの活動にこだわっているが、以前ほどのパワーを感じず、それが新番組の元気のなさにつながっている気がしてならない。

ただそれでも、『週刊さんまとマツコ』でのさんまとマツコは、互いに「負けじ」と競い合うように笑いを取り合っていくだろう。回を追うごとに2人の熱が帯びてパワーが戻ってきたら、笑いのバリエーションが増えて、毎週SNSやネットニュースを賑わせる番組になるかもしれない。

その意味では、ここまでの放送回で見せたゆるさよりも、大物同士ゆえの緊張感あるトークのほうがいいのではないか。ときには「生放送で失言ギリギリを攻めまくる」などの思い切った演出でトーク怪獣の凄みを見せてほしい。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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