「爪の形で、姉だとわかりました」入管法「廃案」で終わらない嘆き | FRIDAYデジタル

「爪の形で、姉だとわかりました」入管法「廃案」で終わらない嘆き

人を人として扱わないこの国の「仕組み」に、世論が「NO」を突きつけた

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「入管法、取り下げ」

18日午前、参議院法務委員会に出席していた上川陽子法務大臣がこのことを知ったのは、野党議員の質問中だった。大臣自身、この決定を知らされていなかったようだ。

この1ヶ月、世論の大きなうねりを受けて議論が高まっていた「入管法改正案」の事実上の「廃案」が決まった。

反対の声が高まり「入管法改正案」がついに事実上の廃案になった。名古屋の施設で亡くなったウイシュマさんの遺族はこの日、国会を傍聴したが、遺影の持ち込みは禁じられたという 撮影:tenhana
反対の声が高まり「入管法改正案」がついに事実上の廃案になった。名古屋の施設で亡くなったウイシュマさんの遺族はこの日、国会を傍聴したが、遺影の持ち込みは禁じられたという 撮影:tenhana

3月、名古屋の入管施設内で、収容されていたスリランカ人のウイシュマさんが亡くなった。当初「死因は不明」とされたが、その後、支援者らの尽力でいくつかのデータが公開され「避けられた死」であることが明らかになっていった。彼女になにが起きたのか、健康な33歳が、収容中の7ヶ月のうちに10キロ以上体重が減り、衰弱して命を落とすまでになにがあったのか、詳細はわからない。

5月16日、ウイシュマさんの葬儀が名古屋で行われた。スリランカから来日した2人の妹が、変わり果てた姉・ウイシュマさんの亡骸と対面をした。

「棺に眠る顔は、知っている姉の顔ではありませんでした。別の人のよう。80歳、90歳くらいのおばあさんのような顔でした。腕も細くて、痩せていました。髪がなくて、かつらを被せられていました。どうしてかと聞くと『すこしでもいい状態に見せたいと思った』と。

ここに寝ているのが姉とは思えなかった。けれども、爪の形で姉だとわかりました。爪だけが、わたしたちが知っている姉のかたちだったんです」

妹たちは、棺のなかのウイシュマさんと対面したときのことをこう語った。

姉の死を受けて急遽来日し、2週間の自主隔離を経て、ようやく対面を果たした。スリランカから同行した上の妹・ワヨミさんの夫、チャナカさんはこう言う。

「義姉のウイシュマさんは、明るくて、家族のガイドのような、みんなをリードする存在でした。いつも一緒に過ごしていました。日本に行くと決まったとき、家族みんなさびしかったけれど、日本で学ぶことが彼女の夢だったので応援していました。

お母さんは、ショックで具合が悪くなって眠れない、食べられない。ずっと考え込んでいます。混乱してしまい、鬱のような状態です」

名古屋での葬儀のあと、スリランカ寺院がある岐阜で「プージャ」が行われた。シンハラ語でお経があげられ、プージャ式にのっとって、白い花を活けた花瓶が参列者に回された。心を込めた花瓶の花を供えることで、亡くなった人の供養をする儀式だという。

「仏教では、魂は回ると考えます。彼女の魂は今、まだ日本にいると思う。生まれ変わるまで時間がかかるかもしれない。でも今度生まれるときは…もっと『いいところに生まれて』と祈りました。別の運命のもとに生まれて、と。でも、同じお母さんのところに生まれてほしい」(チャナカさん)

スリランカから来日した妹たちに同行のチャナカさん(右)と、幼馴染で日本在住のマンジャリさんは、ウイシュマさんの遺影を大切に掲げて話してくれた
スリランカから来日した妹たちに同行のチャナカさん(右)と、幼馴染で日本在住のマンジャリさんは、ウイシュマさんの遺影を大切に掲げて話してくれた

国際的にも大きな批判を浴びている日本の「入管法」のさらなる「改悪」が、世論の高まりによって取り下げられた。これは、選挙を目前に控え、支持率が激しく下がっている政権にとって、当然の判断だったといえる。声を上げ続けた支援者たちからは安堵の声も聞こえる。

しかし、亡くなったウイシュマさんの命は戻らない。そして今も、国内の入管施設には多くの人が劣悪な状態で留め置かれている。母国に帰ったら「殺される」という難民たちの申請はほとんど通らない。

法務大臣が管轄する施設のなかで人が死んだ。このことに対して、公の捜査、聴取もないという現状は、法治国家として機能不全ではないか。

上川法務大臣は、今日の委員会でも繰り返しこう述べた。

「わたしも人の親として、お悔やみを伝えたい」

「親として」ではなく、法務大臣として。このことの責任をとるべきなのは、だれだろうか。

16日の葬儀には、日本人の僧侶も数人、参列に訪れた。

「日本人として恥ずかしい。責任を感じています」と語り、ウイシュマさんの遺骨の永代供養を申し出たお寺があった。

「おねえさんは、日本が大好きだったから」と、ウイシュマさんの骨はそのお寺に眠ることになった。

スリランカで待つ母には、ウイシュマさんの写真を送らなかった。

「お母さんには、見せられない」と、姉妹で相談したという。ふたりは、歩くときも記者の質問に答えるときも、ずっと手を握りあっていた。

ひとりの「人が死んだ」ことに対してその原因も責任も問わない。外国人も日本人も同じ「人」だ。これが、この国の「現実」なのだ。「廃案」は、ゴールではない。

スリランカから急遽来日した妹のワヨミさん(左)と、ポールニマさん。元気なころのウイシュマさんとよく似た姉妹だ。ふたりはずっと、手を握り合っていた
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4月28日、国会前で。入管法改正の審議が始まってから、法務委員会が開催される日は必ず、静かな抗議の集まりがあった
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ウイシュマさんの代理人の指宿昭一弁護士も、国会前のシットインで語り続けていた。今日「廃案はゴールではない。亡くなった理由、責任の追求をしなければ」と言う
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手製のメッセージパッチワークを掲げてシットインに参加する人たちも
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