コロナ禍でこんなに激変していた日本の「タトゥー文化最前線」 | FRIDAYデジタル

コロナ禍でこんなに激変していた日本の「タトゥー文化最前線」

世界に発信する日本のタトゥー大会が復活した!

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ワンポイント部門優勝 Tattoo by Nanao
ワンポイント部門優勝 Tattoo by Nanao

コロナ禍において、世界的にファッション関係の需要は大きく落ち込んでいるという。だが、一方で、プライベートなファッションとでもいうべきタトゥーに対する欲求はさらに高まっていると聞く。

日本ではいまもタトゥーに対する根強い偏見は存在するが、東京オリンピック2020に向けての社会的変化のなかで、ポップカルチャーとして広く定着しているタトゥーをもっと柔軟に受け入れようという動きが進んでいる。ここ数年で日本のタトゥー文化にいったい何が起こったのか?

大阪タトゥー裁判、無罪確定!

’20年9月17日、「タトゥー裁判、無罪確定」という嬉しいニュースが駆け巡った。5年間に渡る大阪タトゥー裁判は、この日、晴れて無罪確定となった。長い裁判を闘い抜いたのは、彫師の増田太輝氏だ。

5年間にわたるタトゥー裁判を闘い抜いた彫師・増田太輝氏
5年間にわたるタトゥー裁判を闘い抜いた彫師・増田太輝氏

「このことで風穴をあけることができました。裁判を起こさなかったら、こんなにたくさんの人々と関わることはなかったと思います。新しい風が入ってくるといいですね」と彼は笑顔をみせた。この裁判がなければ、タトゥーについて興味を持ったり、話したりしなった人たちも多くいたことだろう。日本のタトゥー問題が公の場でしっかりと議論された意義は大きい。

大阪タトゥー裁判を簡単に振り返ろう。

大阪タトゥー裁判とは、’15年、「医師でなければ他人にタトゥーを入れてはいけない」として医師法違反の罪に問われた増田氏が、そのことを不服として法廷闘争を起こしたことから始まった。彼のために支援団体「SAVE TATTOOING」が立ち上げられ、東京、大阪、九州などでイベントを開催し、署名活動で約2万3千人分の直筆署名を集めて国会に提出している。日本でのタトゥー裁判のニュースは、海外メディアからも眼差しが注がれることとなった。

’17年、増田氏は、アメリカの人気テレビ番組『マイアミ・インク』の新企画『The Tattoo Shop』からのオファーで渡米、番組内で日本のタトゥー事情を説明し、タトゥー施術も受けている。

「厳しい裁判の最中でしたが、タトゥーの本場アメリカを訪れることができて、大いに励まされました」

そう語る彼の腕には、全米トップの人気彫師クリス・ガーバー氏によって彫られたイノシシとハイビスカスのタトゥーがある。そのデザインは、裁判中に亡くなった祖父の干支と故郷・沖縄にちなんでいた。

米テレビ出演の際に彫ってもらったイノシシとハイビスカス Tattoo by Chris Garver
米テレビ出演の際に彫ってもらったイノシシとハイビスカス Tattoo by Chris Garver
増田太輝氏のタトゥー作品
増田太輝氏のタトゥー作品

増田氏にとって、この渡米のタイミングは、同年9月、一審・大阪地裁で屈辱的な敗訴となり、控訴審での巻き返しを狙う時期でもあった。それだけにタトゥーに特化した人気テレビ番組に出演したことは大きかった。世界中のタトゥー愛好者たちから支持を得ることになったのだ。

’18年11月、大阪高裁での控訴審の逆転無罪で大きく流れは変わった。検察が上告して最高裁に持ち込まれたが、今回の上告棄却で完全勝利が確定した。

「最高裁から送られてきた判決文で、僕の職業欄には『彫り師』と書かれていました。彫り師という職業が認められたんです。5年前に石を投げたことは決して間違いじゃなかったと確信できました」と言って、彼は胸を張った。

判決文では「タトゥーを身体に施すことは古来我が国の習俗として行われてきた」「他方において、タトゥーに美術的価値や一定の信条ないし情念を象徴する意義を認めるものもおり」とあり、タトゥーを医療行為ではなく、歴史あるひとつの文化として解釈していた。

大阪タトゥー裁判は、タトゥーを彫る行為は医師法違反かどうかが争われたものであったが、医療行為が病気や怪我の治療を意味するなら、タトゥーを彫る行為がそれに当たらないことは誰にでもわかることだろう。それでも、そんなことを裁判で争わねばならなかったところに、タトゥーを過度にタブー視してきた日本の特殊な事情があったのだ。

彫師の業界団体の発足、温泉問題の緩和も進む

タトゥー裁判をきっかけとして始まった議論から、日本のタトゥー事情にも様々な変化が起こっている。

まず重要かつ画期的な出来事として、プロの彫師の業界団体「一般社団法人 日本タトゥーイスト協会」の発足がある。この協会は、2018年、大阪タトゥー裁判の弁護団メンバーの吉田泉弁護士らが発起人となって動き出したものである。

「日本において、彫師という職業を社会に認めてもらうため、さらにタトゥーの法整備を国に求めていくためにも、彫師の業界団体の発足が必要です」と吉田弁護士は語り、団体の立ち上げに尽力してきた。タトゥーが盛んな海外主要国では、彫師に対する業界独自のルール作りが進んでおり、ライセンス制や届出制などの方法でプロとしての認定が行われている。

日本のタトゥー裁判は無罪確定となったが、将来的には海外に準じたルール作りや法整備が求められてくるだろう。そのため、日本にもプロ彫師を対象とした業界団体を作らなければならなかったのだ。

現在、日本タトゥーイスト協会は240名の会員(’20年12月末)を抱え、ホームページ上では、医師の監修を受けた「衛生管理ガイドライン」を一般公開するばかりでなく、それに基づく「衛生管理オンライン講習」と「講習修了書」の発行も行っている。

協会の活動としては、年次総会や協会員同士の様々な形での意見交換を反映させつつ、適切なルールを作りを進め、これからの業界のあり方を社会にアピールするとともに、将来的な法整備を含め、行政や立法とも話し合っていく。タトゥーを彫ってもらう側にとっても、彫師がしっかりとした業界団体に所属していることは大きな安心に繋がるものだろう。

吉田弁護士にトロフィーを渡すイベント主催者のKatsuta氏、キング・オブ・タトゥー2020にて
吉田弁護士にトロフィーを渡すイベント主催者のKatsuta氏、キング・オブ・タトゥー2020にて

一方、もうひとつの大きな変化に、タトゥーに関する「温泉問題」がある。こちらは東京オリンピックに絡み、タトゥーをした外国人旅行者の受け入れ問題も含めて議論されてきた。

’16年3月16日、観光庁は「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に際し留意すべきポイントと対応事例」を発表し、宿泊施設や温泉がタトゥーを理由に外国人旅行者の利用を拒否することは不適切であるとした。

これは、’13年、ニュージーランドのマオリ族の女性が顔のタトゥーを理由に温泉の利用を拒否されたことにも配慮したものだった。具体的には、タトゥーシールの使用、入浴時間帯の工夫、貸切風呂の利用などであったが、政府がタトゥーの温泉問題に対して、ひとつの見解を示したことは大きな前進だった。

’17年2月21日、その件について、国会で初鹿明博議員(当時)が質問している。政府側は、タトゥーの公衆浴場問題について、「入れ墨だけを理由に公衆浴場の利用を制限されない」と断言した。ただ、厚生労働省によれば、公衆浴場の営業者の判断で入浴を拒むことを禁止はしていない。

そのような状況を受けて、’18年5月、タトゥーがあっても利用できる温浴施設や海水浴場などをまとめたサイト「タトゥーフレンドリー(「https://tattoo-friendly.jp/ja/」)がスタートした。このサイトは、日本全国の個々の施設にひとつひとつ問い合わせることで、タトゥーOK、あるいは条件付きで利用可能な温泉、ジム、宿泊施設、プール、海水浴場など、1000点以上の情報を英語と日本語のバイリンガルで無償提供している。

また、’19年3月30日には東京・新宿で学術研究者やジャーナリストを集めた「国際シンポジウム イレズミ・タトゥーと多文化共生――『温泉タトゥー問題』への取り組みを知る」も開催されている。「タトゥーをしていると温泉に入れない」とよく言われてきたが、今ではタトゥーをしていても、利用できる温泉施設を見つけることはできる。

国際化と多様化が急速に進むなかで、外国人旅行者を含め、タトゥーをしている人たちをもっと柔軟に受け入れていこうという変化の兆しが日本でも顕著になってきたと言えるだろう。

世界に発信するタトゥー大会「キング・オブ・タトゥー」復活!

過去のタトゥー大会から Tattoo by Niko / Naoki / Robert Hernandez
過去のタトゥー大会から Tattoo by Niko / Naoki / Robert Hernandez

’20年11月、タトゥー裁判無罪確定を受けて、伝説のタトゥー大会「キング・オブ・タトゥー」が復活を遂げた。キング・オブ・タトゥーは国際規模のタトゥーコンベンションとして世界的にもよく知られており、日本のタトゥーカルチャーを支えてきた存在である。

全盛期には、アメリカ、ヨーロッパ、メキシコ、台湾などから彫師たちが大挙来日し、日本勢と合わせて50名を超える彫師たちがブースを並べ、全日3日間のスケジュールで国内外から1000人規模の観客を集めていた。

ちなみに、タトゥーコンベンションとは、イベント会場で彫師たちがタトゥー実演を行い、その場で彫った作品や愛好者たちの自慢のタトゥーをコンテストで披露するものである。タトゥーが広く受け入れられている諸外国では、数万人規模の巨大な国際タトゥーコンベンションが大都市圏で定期的に行われ、彫師の技術や愛好者たちの観察眼が鍛えられ、タトゥーを愛する者たちの交流の場としてタトゥーカルチャーを大きく育んできた。

今回のキングは、ネットを通じて世界配信され、各種のアナウンスも日本語と英語のバイリンガルで行われた。彫師ブースには、唯一無比のカスタムワークで君臨するSABADO氏、ネオジャパニーズで国際的な人気を誇るSHIGE氏、リアリスティックな作風でカラーもブラック&グレイもこなすNOBU氏ら、日本を代表する人気彫師が揃った。

さらにステージには、タトゥー裁判の弁護団メンバーにして、日本タトゥーイスト協会の発起人である吉田弁護士が登壇、「これからも彫師の現場の声を政府に届けます」と訴え、キング主催者・KATSUTA★氏が「裁判に勝っていただき、ありがとうございます」と記念トロフィーを渡す一幕もあり、会場内には惜しげない拍手が響いた。

クライマックスとなるタトゥーコンテストは、オーバーオール(総身彫り)やワンポイント(拳大サイズのタトゥー)など部門別で競われ、女性彫師たちの活躍も目立っていた。「コロナ禍でタトゥーが増えちゃいました」と語る愛好者も多く、「コロナ後には海外のタトゥー愛好家とまた交流したい」という声も聞かれた。誰もが以前のような国際規模のタトゥー大会の再開を待ち望んでいるのだ。

バック部門第2位 Tattoo by NOBU
バック部門第2位 Tattoo by NOBU
彫師のSABADO氏のブースにて
彫師のSABADO氏のブースにて

コロナ禍にあって、世界全体であらゆる多様性への柔軟な対応が求められている。そんな大きな変化のなかで、日本のタトゥーカルチャーもまた新しい一歩を踏み出しているのである。

  • 取材・文ケロッピー前田

    身体改造ジャーナリスト、“カウンターカルチャーを追う男” 著書に『70年代オカルト』『クレイジートリップ』『クレイジーカルチャー紀行』、責任編集『バースト・ジェネレーション』、『縄文時代にタトゥーはあったのか』がなどある

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