福島第一原発に今も「中国製巨大ポンプ車」がスタンバイする理由 | FRIDAYデジタル

福島第一原発に今も「中国製巨大ポンプ車」がスタンバイする理由

原発事故の被害拡大から日本を救った中国製巨大ポンプ車「大キリン」は今も駐在

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原発冷却のために日本中からポンプ車が集められたが……

4月13日、政府は福島第一原発の放射性物質を含む処理水の海洋放出を決定した。この処理水はトリチウムなど放射性物質を合計約860兆ベクレル含んでいるが、国やWHOの基準を大幅に下回る濃度に薄められて年間最大22兆ベクレルが海洋放出される予定だ。

最近の例では韓国の古里原発では50兆ベクレル(2018年)、中国・福清原発では52兆ベクレル(2020年)を液体として放出。福島の2倍以上の濃度の処理水を放出した両国から猛反発を受けている。

このような状況において、福島第一原発の敷地内には今も原発の冷却で大活躍をした中国製のコンクリートポンプ車が置かれていることをご存知だろうか?62Mもの長いブームを持つその風貌から『大キリン』なる愛称が付けられている。名付け親は当時の経済産業大臣、海江田万里氏だ。

東京電力ホールディングス株式会社福島本部福島広報部はこう明かす。

「当該コンクリートポンプ車は、現在も福島第一原子力発電所構内に保管されています。保管の目的は緊急時に活用するためです。動作確認により現在も使用できることを確認しています」

製造元の中国・長沙市に拠点を置く三⼀重⼯(SANY)の⽇本正規代理店WWB㈱によると、『大キリン』は、東京電力が運営する福島第一原子力発電所に隣接したメンテナンスセンターに設置されています。 毎月、東京電力のスタッフは、ポンプ車に問題がないことを確認するために、腕(ブーム)を伸ばし、脚を上げ、動かして走らせるなどしてメンテナンスとオーバーホールを行っていて良好な状態を保っている。

しかもこのメンテナンスへの協力はWWB代表である龍潤生氏の意思によって無償で行われているのだ。

処理水の海洋放出で猛反発を受けている中国の製品を、原発事故から10年経った今でも福島第一原発の敷地内に「即応態勢」で置いておく…。一見矛盾する現象の背景には、「大キリン」が日本を救った実績があるからだ。

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震や津波によって、東京電力福島第一原子力発電所では深刻な原子力事故が発生した。被害を拡大させないためには早急に原子炉を冷やす必要があったのだが、その冷却方法として、限られた時間の中、東京電力や日本政府は様々な方法を模索した。

消防車やはしご車、ヘリコプターからの放水はすべて失敗に終わっており、絶望的な状況の中、提案されたのが「長いブームを持つ、コンクリートポンプ車による注水」という方法であった。政府や東京電力は当時、日本国内にあるコンクリートポンプ車を「金に糸目をつけず」手あたり次第集めようとした。中には5000万円の中古コンクリートポンプ車を2億円で販売しようとした会社もあったという。

国内の様々なメーカーのポンプ車が集まったが…結局どれも使い物にならなかった。日本では道路運送車両法などでブームの長さが最大33mに制限されており、原発の注水作業を可能とする60m級のポンプ車は皆無だったのだ。

1か月に1度の割合で、メンテナンス目的で行っている「大キリン」の注水作業訓練(提供:東京電力)

超法規的措置で…

関係者が血眼になって世界中のメーカーを探した結果、条件を満たすポンプ車が見つかった。中国・三一重工(SANY HEAVY INDUSTRY CO.,Ltd.)の『SY5502THB62B』という型番を持つ62mブームのポンプ車である。

当時の様子を中国南部に位置する長沙市に位置する三一重工本社に聞いてみた。

「60m級のブームを持つポンプ車は日本にはもちろんなく、全世界を調べた結果、唯一、弊社だけが作っていることが分かりました。日本政府(東電)は外交ルートで三一重工に62mコンクリートポンプ車の購入したい、できるだけ早い出荷をお願いしたいと依頼してきたのです。

その時、三一重工業の梁(りょう)会長は会議に出席するため浙江省湖州にいたのですが、日本の原発事故のニュースや日本政府からの販売要請を聞いたあとすぐに断言しました。

『日本へは絶対にポンプ車を売ってはいけません。売るのではなく寄贈します。無償で62mブームのポンプ車1台を寄付し、完全な技術サポートを提供します』」

そのポンプ車の値段は輸送費など含めてなんと100万ドル!(当時の邦貨換算で1億5000万円)。機械だけを送るのではなく、操作方法などを教えるため3人の熟練したエンジニアまでつけた。

幸運なことに、たまたまドイツに向けてすでに船積みを完了し、出発する直前だった62mポンプ車が上海の港にあった。送り先のドイツ企業の快諾も得て、そのポンプ車を急遽、福島向けに送り出したのだ。

同社の日本法人『三一日本』の代表取締役(当時)川添智弘氏によると、「日本の道路では通常、走行ができないサイズ、重量であったので通過予定の道路状況、道路の幅、トンネルなどの高さ制限、橋の重量制限などもをすべて詳細に調査して通行可能なルートを決めました」

三一重工の担当者は続ける。

「このポンプ車を最短時間で届けるために中国外務省、上海警察、そして中国税関は日本政府が通関手続きを免除し、一刻も早く福島で稼働できるようできることはすべて行いました。日本に上陸したあとは日本のパトカーが護衛するルートを走りました。

ポンプ車には三一重工が開発した遠隔操作装置をつけて、原発から2km離れた場所で操作を行い、現場では無人で運転することになったのです。ポンプ車の上部にはカメラと感温装置のデバイスを取り付け、リアルタイムで最新情報を中継することも可能でした」

最初の水注入後、原子炉の温度は著しく低下し良好な結果を示した。三一重工のポンプ車は優れた性能で原発事故の被害拡大をくいとめることに成功したのである。

日本人の中には、「中国製」という言葉を耳にした途端、ネガティブなイメージを持つ人は少なからずいると思われるが、私が先日紹介したBYD製の電気バスが日本製に比べて格段に安い価格で性能のよいものが作れる土壌ができあがっていて、世界でもトップシェアを誇る存在になっている。分野によっては中国に完全に置き去りにされている。少なくとも10年前、東日本大震災で、福島第一原発が窮地に立たされたときに中国の企業による好意で結果的に日本が救われた事実は忘れてはならないだろう。

福島第一原発が非常事態に陥った後、中国の三一重工から無償提供された巨大ポンプ車が千葉に到着。そこで三一重工の社員(右から2人目)から操作方法の説明がされた(写真提供:三一重工)
ポンプ車の操作方法の説明が終わると、千葉県警のパトカーの先導で福島まで運ばれた(提供:三一重工)
福島第一原発に到着すると、破格のアームの長さで原子炉冷却で活躍した(提供:三一重工)
  • 取材・文加藤久美子

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