竹宮惠子先生と萩尾望都先生が…「少女まんが館」に行くべき理由
20世紀の「少女マンガ」には女の子の夢と欲望、全部があった
少女マンガが、ぎっしり詰まった館があった。息が詰まるようなめくるめく世界。幻の作品、巨匠たちのリアタイ掲載誌…。本物の雑誌を手にとったときの感動は言葉にできない…!「少女まんが館」に行ってみた。
20世紀のニッポンで「少女マンガ」が生まれた
「少女マンガ」が最初の黄金期を迎えたのは、1970年初頭。多くの女性マンガ家が誕生し、少女たちの心をガッツリ掴む「名作」が次々と生まれた。
東京・あきる野市にたたずむ、少女マンガに特化した図書館「少女まんが館」。主に2000年までの少女マンガと少女マンガ雑誌を扱っている。そのノスタルジックな蔵書にふさわしく、自然豊かな緑の中にある。
「まんが図書館」は、全国にいくつもあるけれど、少女マンガに特化したのはここと、姉妹館のみ。蔵書はなんと6万冊というから、間違いなく日本一の規模だ。館内は、少女マンガまみれの幸せな空間なのだ。ご想像いただきたい。
蔵書は「雑誌」と「単行本」。現在、多くの古典的作品が電子化されているので、とりあえず「単行本」は後回しだ。
「本物の雑誌」がもつオーラにやられる
なんといっても興奮するのは雑誌。なんてったって……。
山岸凉子先生が瞳キラッキラの女の子を描いてた60年代の「りぼんコミック」とか、単行本に収録されてない池田さとみ先生の『ふたつめのティーカップ』が載った「ちゃお」とか、現役で活躍している先生がたの投稿時代の「まんがスクール」受賞掲載号とか、「まんが専門誌 ぱふ」とか、「ASUKA」の創刊号とか!!
あるわあるわ、お宝が!!
『ハートに一本!』って剣道マンガ、読んでた~。
あれ、電子化されてない『舞子の詩』の続編が掲載されてるぞ⁉︎
それにしても、表紙で「竹宮惠子」「萩尾望都」と連名になっている雑誌がめちゃくちゃいっぱいあった。
萩尾先生の自伝本『一度きりの大泉の話』が発売され、話題となった。大泉で共同生活までしていた萩尾先生と竹宮先生がどのように決別したかが書かれていて、多くのファンの胸をついた。萩尾先生は「竹宮先生の作品は読んでいません」とかなり強い意志を持って竹宮先生を遠ざけていたようなので、正直、名前を目にするのも辛かったのではないかと思う。なのに、当時はこうしてふたりが同じ雑誌に掲載されていたのか。彼女のことを目にしない、考えないようにするにはどれだけ大変だっただろう。
ああっ! 坂井久仁江先生の鳩の森シリーズは電子化されてないので読まなければ!! 私は坂井先生の高校漫研時代の作品から知っているので、思い入れがとても強いのだ。
自分史上「幻」の、あの作品を発見!
ふう……。ひと通り雑誌を堪能したら、次なる目的に移ろう。
子どもの頃、従姉妹から借りた少女マンガがとても面白かった。その作品を探すのも、「女ま館」でのもうひとつの目的だ。
インターネットで、たいていのことは検索すれば答えが出る。以前、SNSで「野焼きで大人が焼かれて死ぬ話があって怖かった」となんとなく書いたら、「それは庄司陽子先生の『草原に愛は燃え』ではないでしょうか」などと教えてもらったことがある。
だがしかし、今回探したい作品は、作家名も忘れちゃったし、タイトルもさっぱりだし、お姫さまが出てくる以外話の内容すらよく覚えていない。あまりにボンヤリしすぎていて全くもって検索のための言語化ができないのだ。覚えているのは、
・講談社の単行本
・男性作家だったような
・主人公はたれ髪で、はちまきみたいな形の冠をつけてるお姫さま
・国を離れる悲しいお話
以上。なんでたれ髪の姫が国を離れるのかはまったく記憶にございません。
講談社のコミックスの棚は3本。けっこうな量で、全部目を通したがピンとこない。
とりあえず同じ年代に発売されたであろう単行本の巻末にあるコミック紹介欄を調査することにした。すると原ちえこ先生の『フォスティーヌ』の巻末に、こんなタイトルがあった。
牧村ジュン『エリュクスの白い花』
あやしい。
「ジュン」という名前から、男性作家だと思いこんだ可能性もある。エリュクスがなんなのかわからないけど、学園ものじゃなさそうな匂いはする。棚から単行本を探してみると……あった!
これだーーー!!!
そうそう、確かにお姫さまが悲しい感じで国を離れている!!
調べてみたら、なんと電子化されていることが判明。即買いした。大人でよかった。
記憶の通り、国を離れる悲しいお話でした。
そんなこんなで、あっという間に閉館時間。ああ楽しかった……。
少女マンガには、研究すべき多くの問がある
少女マンガについて語るのは至福だ。筆者は、大学の卒業論文として「少女マンガの女性像」を研究、その後、少女マンガ研究家になってしまった。
「女ま館」は、新しい作品を探しに行くというよりも、昔懐かしい「あれ」を探しに行く場所。20世紀に生み出され、今や世界に誇る日本の文化「マンガ」。その源泉をたどるインナートリップだ。
雑誌が元気だったころ。少女マンガ雑誌には、女の子の夢とか欲望とか、いろんなものが詰まっていた。そのことがはっきりわかる。
「少女まんが館」は、姉妹館が三重県と佐賀県にある。お近くの館に足を運んでみてほしい。なにって、とにかく、楽しいから。
少女まんが館:東京都あきる野市網代155番5
開館:4月~10月 毎週土曜 13時~18時(要予約・入館無料)
https://www.nerimadors.or.jp/~jomakan/
少女まんが館 TAKI 1735:三重県多気郡多気町丹生1735
https://m.facebook.com/jomakantaki1735/posts/?__nodl&ref=m.facebook.com&mt_nav=0&_rdr
唐津ゲストハウス 少女まんが館Saga:佐賀県唐津市大名小路5-2
- 取材・文・撮影:和久井香菜子