タイBLドラマ『2gether』快進撃に元祖・腐女子が思うこと | FRIDAYデジタル

タイBLドラマ『2gether』快進撃に元祖・腐女子が思うこと

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タイ発BLドラマ『2gether』 写真:アフロ
タイ発BLドラマ『2gether』 写真:アフロ

世界中がコロナ禍に見舞われ、自粛生活へと突入した2020年2月。BLドラマ『2gether』がツイッター世界トレンド1位を獲得し、13週連続で「#2gethertheSeries」が世界トレンド入り。

女子にモテモテの大学生活を夢見ていたのに、オードリー・春日似の強引男子から迫られる主人公のタインを演じたウィン(Win / Metawin Opas-iamkajorn)と、そんなタインから“ニセ彼氏”役を頼まれる硬派でクールなイケメン、サラワットを演じたブライト(Bright / Wachirawit Chivaaree)は、共に数週間でインスタグラムのフォロワー数が100万人以上増えたというほどの熱狂ぶりだった。

日本でもSNSを中心に話題を呼び、それまでYouTubeでファンが字幕を自作して布教していた本編ドラマが、WOWOWやCSのアジアドラマチックTVチャンネルで放送された。さらにNHKの「あさイチ」でも話題として取り上げられ、一大ブームに。

6月4日公開予定の映画に合わせ、5月30日からテレ朝で地上波放送が決定している。なぜここまで『2gether』が人気を得たのか、その理由を考察してみよう。

『2gether』ヒットの裏に日本の“YAOI”文化がある


「やおい」と聞いてピンと来るのは、おそらく40代後半〜50代の人だろう。

超人気少年漫画のアニパロ(アニメの人気キャラクターを模したパロディ作品)や同人誌が盛んに制作され、1980〜90年代にかけて同人誌即売会「コミックマーケット」の発展に大きく貢献した一大ジャンルであり、男性の熱い友情を“恋愛関係”に変換し、乙女の妄想をこれでもかと膨らませた作品群のことである。

この時期に「やおい」同人界での活躍で注目を集めメジャーデビューを果たし、現在も現役で活躍している漫画家も多数いる。

現在の日本では「やおい」ではなく、90年代半ばに登場した「ボーイズラブ(BL)」の呼称のほうが一般的になった。これは、「やおい」ブームの加熱に伴い同人誌即売会での利益が莫大なものになったことから、無許可で作品・キャラクターを使用することが問題視され、著作権問題へと発展したことが一番の要因だ。

また、ちょうど2000年に差しかかるころに人気同人誌作家が商業誌デビューしたことでブームが沈静化し、「BL」を冠したオリジナルキャラクターによる作品群が人気を得始めたことから、徐々に「やおい」という言葉は消えていった。

そして、一部の界隈で熱い支持を得ていたBLをより一般化したのが、2002年に漫画連載が始まり、2008、2015年と3度に渡ってテレビアニメ化された中村春菊の『純情ロマンチカ』だろう。現30代から“バイブル”と称されるこの作品は、関連書籍500万部以上の累計発行部数を誇る、BL漫画の金字塔だ。

この作品がアニメ化されたことにより、それまでBLというジャンルに触れたことのない女性層が衝撃を受け、BLの魅力にハマっただけでなく、なんと男性ファンまで作ってしまったのだ。

性別を超えて人気を得た理由は、主に次の3つであると推察できる。

1 まだまだ大人になりきれない発展途上で多感なお年頃の主人公が、学業・社会・恋愛・自己確立に悩み、葛藤しながら成長していく物語に共感できる。

2 主役カップルがとにかく美形。そして脇役の男性も、かわいいからかっこいいまでバリエーション豊か。それぞれのバックボーンも細やかに語られていて、感情移入しやすい。

3 ラブシーンがとにかく美麗で、憧れのシチュエーションがこれでもかと詰まっている。愛を深めるシーンは登場するが、むしろ大切なのはそこに至るまでのやりとりと心の交流。「恋愛至上主義」ともいえる世界観の中で描かれる究極の純愛であること。

実はこの理由、『2gether』の魅力とまったく同じ。

「やおい」は、日本で最盛期だった80年代から台湾や香港などのアジア圏に拡まっていたという説があり、タイでもBLは小説として一部の書店で販売もされていたらしい。

そんな中、2014年に放送されたBLドラマ『Love Sick』が人気を得たことで、次々とBLドラマが誕生。2016年に公開された映画『SOTUS』でブームが加速し、2020年に放送された『2gether』で世界的な人気になったのだ。

つまり『2gether』は、日本の女性が生み出した「やおい」文化が世界へ拡がり、美しい純愛ストーリーの魅力を現地のファンに浸透させたからこそ生まれた作品なのかもしれない。


恋愛矢印が行き交いまくる、複雑な恋愛相関図がおもしろい!

異性、同性どちらの恋愛もアリという世界観が話題の『2gether』では、恋愛相関図も複雑だ。

主人公のタイン(Win)は、基本的に女の子が好き。「シックなオレは特別!」という自意識高めの勘違い系男子だが、本人が思っているほど女子には人気がないうえ、周囲の目を気にしてブレブレな行動をしてしまう。そんなところが見ていて微笑ましいし、なにより素直な性格で、良いものは良いときちんと口に出すところに好感が持てる。

そのタインを狙ってグイグイ迫る、恋する乙女・オネエ系男子のグリーン(Gun)の行動もいちいちかわいくて、おもしろい。いざというときは腕力の強さを発揮し、男女両面の魅力でもってタインに迫るも、毎回ツレなくされている姿を見ていると、なんとなく応援したくなる、憎めないキャラクターだ。

シリーズ前半はこのグリーンとタインの親友3人組のコミカルな演技のおかげで、テンポ良くストーリーが楽しめるところに、ドラマづくりのうまさを感じる。

そして、グリーンの猛攻を避けるためにタインが目をつけたのが、軽音部のステージで注目を浴びたイケメン、サラワット(Bright)。絵に描いたようなクール系ツンデレ男子で、女子にキャーキャー騒がれても完全無視。「偽カレ」になれという無茶なお願いをしてくるタインに対して、話も聞かない塩対応ぶりは完全にS男なのだが、いちいちセリフに破壊力がある。



ところが、そんな破壊力あるセリフを吐きながらの甘々行為は、タインが一番して欲しいグリーンの前ではなかなか発揮されない。「女子にやるように俺を口説け!」と業を煮やしたタインに言われ、思わず黙ってしまうサラワットのほうが “恋する乙女”に見えてくるという不思議な倒錯感こそ、『2gether』最大の魅力だろう。

『2gether』大ヒットに往年の腐女子が持つ「感慨」

それにしても、「やおい」が「BL」となり、そして今や男性同士の“友人以上、恋人未満”の熱い友情を指す「ブロマンス」へと発展、映画の製作陣が積極的にその要素を取り入れ、世界的大ヒットへと結びついた作品を生み出す土壌を作っていたのだから、往年の腐女子(その頃はこの呼称もなく、単に“おたく”だったが)にはちょっぴり感慨深いものがある。

私事で恐縮だが、『2gether』もそんな“おたく”時代を共に過ごした友人との間で話題となり、子育てで遠ざかっていた交流がSNSを通じて再び復活した。好きな作品を好きな仲間と語り、一緒に楽しめること。配信サービスの充実やSNSの利用が、物理的なハードルを取り除いてくれたこともヒットの要因のひとつであると思う。

また、個性的なキャラクターを演じる脇役陣のコミカルな演技がおもしろいし、恋のいざこざは起きても根本的に意地悪な人がいない平和な世界なので、見ていて心が癒される。「楽しさ」と「癒し」は、BTSの2020年の大ヒット曲「Dynamite」にも通じるキーワードだ。

コロナ禍に見舞われた人々が求めていたものが込められた作品だからこそ、世界中で人気を得ることができたに違いない。

  • 取材・文中村美奈子

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