「決算書分析」でわかった逆境コロナに強靭なテレビ局 | FRIDAYデジタル

「決算書分析」でわかった逆境コロナに強靭なテレビ局

各局の決算書を分析したら、未来のテレビ局の姿が見えてきた!

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番組の二次利用を積極的に展開するテレビ東京(写真は天王洲スタジオ)
番組の二次利用を積極的に展開するテレビ東京(写真は天王洲スタジオ)

新型コロナウイルスの影響で、2020年度のGDPはマイナス4.6%となった。

比較可能な1995年度以降で最大の下落だが、キー5局の広告収入の合計はマイナス11.1%で、GDPの2倍以上の落ち込みだった。

日本経済全体では飲食・旅行・旅客関連に激震が走ったが、実はテレビ業界も大きく痛んでいた。

その中でも局によって比較的強靭な局と、低迷した脆弱な局に分かれた。

テレビ局の明暗について考える。

GDPとテレビ広告費

15年前の2006年度第1四半期(1Q)の日本のGDPは130兆円強だった。

かたやキー5局の広告収入合計は2800億円弱。その後GDPは2年ほど横ばいで推移したが、08年のリーマン・ショックで5%強を失った。

一方テレビ広告費は、GDPが横ばいの間に5%ほど地盤沈下していた。

そしてリーマン・ショックで下落幅は25%にまで広がった(対06年度1Q比)。

ところがGDPはその後ジワジワ押し上げ、2015年前後で元の水準まで戻した。
さらに19年には、10%弱上昇させていた。日本経済はゆっくりだが堅実に前進を続けていたのである。

一方テレビ広告費は、GDPが大きく上昇したにもかかわらず足踏みが続いた。

そしてコロナ・ショック。GDPは10ポイントほどの下げだが、テレビ広告は15ポイント強も下げた。

テレビ広告費は日本経済の好不調に左右されると考えられてきた。

「営業収入見通し」を長年発表してきた民放連研究所も、予測の第一前提に日本経済を置いてきた。ところがGDPとテレビ広告の動向を俯瞰すると、この十年あまり、両者の連動性はかなり希薄になっていたことがわかる。

局別決算指標が示すもの

この一週間で出そろった民放キー5局の2020年度決算。

個別に数字の羅列を眺めてもストーリーが見えないので、1つのグラフに落とし込んでみた。縦軸は各項目を前年度実績との増減で表現した。

これで大雑把に判断すると、テレビ東京と日本テレビを首位グループとして、TBS・テレビ朝日・フジテレビの順での実績が良いように見える。

連結売上とは、中心のテレビ局以外の子会社などを含めた企業グループ全ての売上総額。

コロナ禍の中でもテレ東の落ち込みが最も少なく、日テレ・TBS・テレ朝がほぼ並び、フジの減少率が最も大きかった。

テレビ局自体の業績を示すのが単体売上

広告収入の落ち込みが最も少なかった日テレが、単体売上の減少率も一番少なかった。次いでテレ東・TBS・テレ朝・フジの順。各局の順位は広告収入の減り方と全く同じだった。

番組制作費は、全局が前年度より大幅に圧縮した。

ただし広告収入の落ち込みが大きかったテレ朝とフジは、それ以上の比率で番組コストをカットしていた。ところが日テレは、広告費減少率より番組制作費の圧縮率が少ない。テレビ番組についての戦略が、局によって異なり始めている可能性がある。

二次利用とは番組による広告収入以外に、映画・ネット展開などコンテンツ関連の収入

何をこの項目とするかにより値が変わるが、基本的に全局が広告収入より成績が良いテレビ局の未来はこの二次利用が鍵を握ると筆者は考えている。

各局の現在と今後

では各局の現在と今後の可能性を考察してみよう。

― 日テレの場合 ―
広告収入2268億円と、民放キー5局で最大の日本テレビ。

コロナ禍でも広告収入の落ち込みが最も少ないのは、早くから年齢13~49歳の視聴者をコアターゲットと定め、若者に見てもらえる番組制作に努めてきたためだ。この層での個人視聴率は9年連続「年度三冠」で、2位以下を大きく引き離している。

同局のタイム広告は、20年度も順調だった。

広告主のニーズに合致したコア層の視聴率が良いことによる。またこの層を取り込んでいることで、SVOD(定額制のインターネット動画配信サービス)やネット広告費が順調に成長し始めている。

番組制作費の圧縮率が少ないのは、ネットなどで回収できる投資と考えているからだ。

コロナ禍という逆境に強靭なのは、現状での柱・広告収入をコアターゲットで維持し、かつ二次利用で収入増をはかる展開が進んでいるからと言えよう。

― テレ東の場合 ―
日テレに負けず劣らずコロナ禍に強かったのがテレ東だ。

最大の強みは、民放キー局の最後発かつネットワーク数最少の同局は、早くから広告収入に依存する経営からの脱却に努めてきた点だ。

具体的にはアニメや深夜ドラマの大量制作がある。

ネット展開や海外に販売するライツビジネスとなっている。ポケモンやナルトなどのヒットアニメで、10年ほど前からライツビジネスからの収入は全体の15%近くを占めていた。

これが2015年頃から中国市場も開放され始め、一挙に拡大を始めた。日本での放送と同時に中国で配信できるように、深夜ドラマも早期に完成させると同時に本数を増やしてきた。結果としてライツビジネスは今や全体の3割近くを占め、しかもコロナ禍でも減収に陥らなかったのである。

リアルタイム視聴は今後減る一方となるだろう。

逆に同局のライツビジネスはまだ成長の余地がある。未来のテレビ局のあり方を最も先取りしていると言えそうだ。

― TBSの場合 ―
同局の決算指標は、二次利用を除きほとんどがマイナス10%前後。

広告収入については、13~59歳と定めたファミリーコアでの視聴率が上昇したために、コロナ禍による大きな下落を防いだ。今年度からは、ターゲットをさらに4~49歳に下げた新ファミリーコアとした。これが成果にどうつながるか注目される。

同局も二次利用関係が急展開し始めている。

もともとドラマに定評があるので、ネット展開などの可能性は高い。2020年度でも、無料見逃しサービスが急伸し、月間3200万回以上再生されている。

業界はネット広告の充実を目指している。

もし1再生につき40円の広告収入が発生すると、同局は年間で150億円以上の売上増を果たす。仮に10円としても、40億円以上となる。

同局はSVODのParaviにも傾注している。

これが目論見通りに成長し、見逃しサービスが一段と伸びれば、ドラマが好調なだけに、広告収入の減少を補うことも可能となるだろう。

― テレ朝の場合 ―
20年度の同局の広告収入は、マイナス12.4%と芳しくなかった。

世帯視聴率こそ2位と好調だが、視聴者層が中高年中心で、広告主のニーズと合致していない点がコロナ禍で響いた。

同局もインターネット展開を急いでいる。

無料の見逃しサービスに注力する他、SVODのプラットフォームを強化したり、ABEMAとの連携を図ったりしている。

ただし中核となるテレビの視聴者層が中高年である以上、効果的な連携がどこまで図れるかが疑問だ。

コロナ禍で脆弱な一面が露呈したが、コロナ後もネットへの傾斜が高まる中、ターゲット設定が問われることになりそうだ。

― フジの場合 ―
同局の特徴は、広告収入の落ち込み以上に単体売上が下がり、さらに連結売上が大きく痛んだ点だ。

都市開発・観光事業に注力してきたが、コロナ禍でこれが裏目に出た。同セグメントの売上高はマイナス31.3%、営業利益マイナス72.8%と、全体の足を大きく引っ張った。

21年度の業績予想では、同セグメントの大幅回復で全体をけん引するとしている。

ただしコロナウイルスの変異株のまん延や、ワクチン接種の進捗が不透明で、同局の予想通りに展開するとは限らない。

最近は月9が好調なように、ドラマが盛り返してきた。

バラエティも元気をとりもどしつつあるし、何より若年層には相変わらず強い。コロナ禍で最も脆かった同局は、もう一度原点に立ち返り、コンテンツを核に広告収入以外の収入増を図るべきではないだろうか。

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以上がコロナ禍での各局の実績だ。

新しい生活が定着する中で言えるのは、リアルタイム視聴に基づく広告収入だけに頼るわけにはいかなくなっている点。

本業のコンテンツと関係のない事業も、危うさを伴うことが見えて来た。

ところが変化の中で最も有効だったのは、コンテンツの二次利用。先を視野に入れた局は、そのゴールから逆算して本業の放送を変え始めている。

テレビ業界の背中を、コロナ禍は間違いなく進化へと押したと言えそうだ。

  • 鈴木祐司(すずきゆうじ)

    メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

  • 写真西村尚己/アフロ

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