1ヵ月後は完全解除!英国人が度重なるロックダウンに耐えられた訳
英国の「明確すぎるロードマップ」
ロックダウン緩和が順調に進むロンドンから、英国在住30年の三浦マイナリ順子さんのレポートです。
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ロンドンは今穏やかだ。
春になり太陽が顔をみせる日が増え、そして夏時間となり日に日に日照時間が長くなっている。その青空のせいか、コロナ禍は遠い昔の話!? そんな錯覚を感じるほどだ。
5月10日イングランドでは、コロナウイルスによる死亡者がゼロだった。今年1月から感染者数、入院数、死亡率ともすべてが減少、そしてワクチンが効果を発揮されているとの判断から、5月17日に予定されていたロックダウン(都市封鎖)の緩和「ステップ3」が実施された。
17日は月曜日だった。もしかしたら休み明けだし、道が混んでいるかもしれないと想い、筆者はいつもより早めに家を出発した。しかし、渋滞もなく、なんだか拍子抜けで予定よりずいぶん早く到着地についてしまった。コロナ禍前のような朝夕のラッシュアワーの渋滞は、ロンドンと郊外を結ぶ一部の高速道路以外ではまだ聞かない。
その理由の一つは、皆がまだオフィスに戻っていないからだろう。リモートワークで自宅のパソコンの前に座って仕事をしている人が圧倒的に多いからだ。私の知っている限り、会社勤めだった友人達は今も家で働いている。何人かはいつもと同じくらい忙しいと漏らしていた。緩和が進めば6月から週に2度くらいオフィスにもどる人もいる。また、9月まではオフィスが閉鎖されているので、それまでは在宅勤務は止むを得ないという人も聞く。

さて、政府が掲げたロックダウン緩和に向けたロードマップ(行動計画)は、今年2月22日に公表された。イギリスは去年3月から3度にわたるロックダウンや多くの死者を出したというという苦い経験から、紆余曲折を経てこのコロナ収束への具体的な「ロードマップ」を国民に提示した。ほんの3ヵ月前のことだ。
ロードマップは1〜4のステップからなり、次のステップに進むには、少なくとも5週間の間隔を開け、その都度4つの条件が検討され、これらがすべて満たされる必要がある。
- 1 ワクチンの接種プログラムが成功し順調に継続していること
- 2 ワクチンが摂取を受けた人たちの入院と死亡率が一貫して減少していというエビデンス(科学的根拠)があること
- 3 国営医療サービス(NHS) に過度の負担をかけることなく、入院患者数、感染者数が抑えられていること
- 4 変異ウイルスによってリスク評価が根本的に変わらないこと
現在のところ、英国のロックダウン緩和に向けたロードマップのステップは予定通り進んでいる。


ロックダウン緩和は「ステップ3」に、オフィスの再開は6月以降か
■ステップ1
まずは最初のステップとして、3月8日に学校が再開し、3月29日には自宅待機義務が解除された。
- 【3月8日】
- ・児童、生徒が学校に戻り、一部の大学も再開
- ・介護施設の入居者は、一人の定期的な訪問者が認められるように
- ・同じ世帯、サポートバブル(介護者)、別世帯一人と屋外で会うことが可能に
- 【3月29日】
- ・屋外で6人または2世帯までの社交が可能に
- ・テニス、バスケット、サッカーなどの屋外スポーツの再開
- ・「Stay home (家にいなさい)」から「Stay local (地元にとどまりなさい)」に
3月8日から学校が再開したが、その前のロックダウンで、去年の6月にあるはずのGCSE(義務教育終了試験)やAレベル(大学試験)の試験が一切なくなり、学校側が生徒を評価して、それぞれ決められるという前代未聞の試みになったのは忘れられない。そして今年のGCSEとAレベルの試験も、1月早々にキャンセルと発表された。
子供たちは、長い間学校へ行けずにオンラインのみで授業を強いられた。パソコンを持っていない、WiFiが家にない子供たちの多くがロックダウンにより打撃を受けたのは間違いない。
現在11歳以上の学生は、自宅でPCRテストが出来る検査キットが配布されている。付属の綿棒で鼻と喉奥粘液を採取し、液を入れた容器に綿棒を挿入して浸し、その液を検査デバイスに滴下して、陽性か陰性の結果を読み取るというもの。これを週2回行う。果たしてこのキットに正確性があるのか疑問に思っている人も多いが、とりあえず今学校ではこの方法が用いられている。ステップ3になってからも、この週2回の自主検査は続けて行うことになっている。
■ステップ2
- 【4月12日】
- ・生活必需品(食料品店、薬局)以外の、美容院やネールサロン、図書館など公共施設が再開される。
- ・ジム、プールなど、屋内レジャー施設が再開、ただし個人または家族のみ
- ・動物園、テーマパークなどの屋外アトラクション施設が再開
- ・車に乗ったままの映画上映が可能に
- ・パブやレストランなど屋外営業が開始。ただし家族6人または介護者のみ
- ・キャンプ、自炊ホリデーホームが開始
- ・葬儀は30人まで、結婚式などのイベント15人まで可能に
美容院が再開して、やっと伸び放題の髪の毛をさっぱりしてもらった人、白髪染めをしてもらい若返った人が急増したのは、笑い話しではない。
■ステップ3(現在)
- 【5月17日】
- ・屋外でのあらゆる行動の規制が解除(ただし30人まで)。屋内では6人、2世帯まで
- ・屋外のスポーツなどのイベントへの参加が可能に
- ・屋内でのパブやレストランの再開
- ・屋内での映画館、幼児向け施設、宿泊施設、運動施設が再開
- ・葬儀、結婚式など30人まで参加可能に
- ・親しい人とのハグ(抱擁)をしていいのかは検討中のようだ
チェルシー、マンチェスター、リバプールなどサッカーが盛んなイギリス。いつもなら何万人も集まる観客が無観客で、選手のみが試合をするのをテレビやビデオのライブで家から見るという異常な光景が続いた。しかし緩和となり、もうすぐ観客がスタジアムへ戻り自分のチームの応援に熱が入るのは、選手にとっても張り合いがあるに違いないだろう。

■ステップ4(予定)
- 【6月21日】
- ・すべての制限が解除
- ・ナイトクラブや大型イベントが再開
そして解除になった後も、誰もが次のことをするように政府は推薦している。
- ・手を洗う
- ・洗っていない手で顔を触らない
- ・2mほど人との距離を保つ
- ・窓をあげ、新鮮な空気を入れる
- ・ワクチン検査を受ける
- ・可能なら予防接種をする
これって日本人にとっては当たり前のことなのでは、と思ったりもするのだが、改めて見えないウイルスに対処する方法を把握するのは大切だ。

13ヵ国語に翻訳され発信された「ロードマップ」。大きな文字バージョンも!
もうひとつ、ははぁー、やっぱりロンドンだなと思ったのが、政府がPDFで掲載しているロードマップ情報が、小さい字が読みにくい人のために大きな文字で書かれているもの、アラビア語、ベンガル語、グジャラート語、ペルシャ語、ヒンズー語、ポーランド語、パンジャーブ語、スロバキア語、ソマリ語、 ウルドゥ語、ウエールズ語に訳されて発信されているということだ。
これは、イギリスがいかに他人種の集まりであることを顕著に表している。
特にロンドンは、多言語、多国籍、多文化が混合して暮らしている場であり、だからこそ融合しながら皆それぞれが自分の意見を持って暮らしている。コロナに関しても、もちろんそうだ。
言いたいことがあれば、ちゃんと表明するのが当たり前の国。例えば、前回少し書いたが、コロナワクチンをしたという証明書をパスポートに貼ることについて反対する人たちが、日曜のハイドパークに集まりデモが行われた。一方、反対側ではパレスチナ問題で多くの人が集まり通行できないほどだった、と友人が言っていた。

失敗と反省を重ねてきた政府、「二度とごめんだ!」と一丸になった英国民
多種な人種が集まれば、考えも様々で意見が違って当たり前なのだ。ことによれば文句や反発や暴動があってもおかしくない。しかし、今回のコロナの状況に関しては違った。ロックダウンは順調にステップ3まで進み、着々と日常を取り戻せるステップ4に向かっている。なぜ?
それは、英国に暮らす皆それぞれが一丸になったからだと思う。
英国には歴史的なパブがあるのはご存知だろう。犬も歩けば…というように必ずパブが数百メートルごとに存在する。
パブとは仕事の後に一杯飲むところ、同僚や友人や恋人と集う社交の場所だ。英国ではこの儀式は欠かせない。英国人はこのパブも含め、レストラン、パーティー、仲間同士で集まるスポーツ観戦など社交が大好きな人種である。
その人種にとって、コロナというロックダウンは非常に残酷なことだった。目に見えないものだからこそよけいに皆怖がった。そして今はおとなしく政府に従うしかないと思ったのだ。そして、「この状況から早くなんとか脱出したい!」という一心で、ワクチンに希望をかけた。
実際、コロナに罹るのが怖い、重篤になるのはいやだと、自分自信のためにワクチンを打った友人はほとんどいない。「この状況からなんとかして抜け出したい」という気持ちでワクチンを接種したと話す。皆が集団免疫に期待していた。もちろんそこには海外に行くのを制限されずに自由に動き回りたいという、ちょっと自分勝手な気持ちもあったようだけど…。
英国に暮らす人は誰もが言うだろう、「もうロックダウンは二度とごめんだ!」と。去年3月、初めてのロックダウンの時にスーパーの棚から小麦粉、砂糖、トイレットロールなど生活必需品が全て消えて棚が空っぽになったという経験を、もう一度したいと思う人はいないはずだ。
そして去年のクリスマス12月25日。日本のお正月のように、英国では年に一度家族が集まる特別な日だ。政府はクリスマス期間の5日間は3家族ならば会うことが可能と約束していたが、急遽12月21日にコロナ感染が厳しい状況と判断。故郷に帰れず、愛する家族に会うことができなかった多くの人たちのニュースは記憶に新しい。この時のクリスマスの体験は英国民にとって衝撃的だったのだ。
国民は状況を把握し耐えた。
一方、英国政府は、昨年3月から3回にわたり強行的にロックダウンを実施しながら、失敗と反省を重ねてきた。そして約3ヵ月前、ロードマップを提示した。国民にしてみれば、1年でころころ変わるシステムを把握するのは大変だった。でもそのころころ変わるというシステムに国民が従い、それが結果として現れ、今、英国人がほっとしているのは事実だ。
「ステップ4」のロックダウン緩和は、6月21日に予定されている。
6月21日と一応日にちは決まっているが、「日にち(DATES)よりもデーター(DATA)だ」と、英国人特有の駄洒落のようにボリス・ジョンソン首相が言う。
確かにすべてが元どおりに解除されるには、死亡率、感染率、病院の状態などのデーターを毎日熟考する必要がある。後戻りをしないよう、慎重に、慎重にコロナに取り組んでいる政府、そして国民も調子に乗りすぎないよう、再度基本に戻ってコロナウイルスに罹らない、移さないようにしなくてはいけない。
1ヶ月先には完全解除が待っているのだから。
取材・文・写真:三浦-マイナリ順子(Junko Miura-Mainali)
英国在住30年。ロンドンを拠点にテレビ、雑誌、広告など日本のメディアでエネルギッシュに外への発信を10年ほど行ってきたが、ヨーガを先祖代々行う夫との結婚を境に180度方向転換。今はヨーガ講師とドゥーラ(産前〜お産〜産後の妊婦さんを継続してサポートをする女性)として人の内面へと目を向け、各人がその時の最大を引き出す道案内の役目をしている。
写真:アフロ