放送1000回を超えた『ザ・ノンフィクション』が向かう先 | FRIDAYデジタル

放送1000回を超えた『ザ・ノンフィクション』が向かう先

開始から26年の長寿番組、6代目チーフプロデューサーに聞く!

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客を見送る菜々江ママ(詳しくは本文で)

日曜の午後2時、ゆるりとした幸せそうな時間帯に一石を投じるテレビ番組がある。それが『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系・関東ローカルにて放送中)だ。借金、夜の街、闘病、生活苦……とても一言では言い尽くせないが、いわゆる“普通”の生活とは一線を画する、一般の人たちの生活に密着するドキュメント番組である。

26年間も続く長寿番組が先日放送1000回を迎えた。この先、番組はどんな人たちに寄り添っていくのだろうか? その真相を知るために番組6代目のチーフプロデューサー・西村陽次郎さんに直接話を聞きにいくことにした。

「取材対象探しにFRIDAYさんを参考にしていることも」

おそらく関東圏に住む人であれば『ザ・ノンフィクション』を一度は見たことがあるはず。実は番組をモノマネしている芸人もいるほど、認知されている番組でもある。印象に残っているということは、時にハードボイルドな内容であることも多々。一体、どんな人が番組を作っているのだろうかとドキドキしながら対面を待つ。

と、そこに現れたのは、予想に反して(?)温和な雰囲気を漂わせた男性であった。インタビュー中、終始、おだやかな話し口調の西村さん。ドキュメント制作に魅せられたテレビマンの思いとは……?

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――『ザ・ノンフィクション』はイチ視聴者として考えても、制作が大変そうであるとお見受けしますが、まずはこの番組に惹かれた理由を教えてください。

「学生の頃から見ていて、自分とはまったく違う価値観で生きている人たちに興味を持ったことが始まりです。人生一度きりであれば、いろいろな世界を知りたい。20代の私はそう志して、フジテレビに入社をしました。当初から『ザ・ノンフィクション』を制作したいと公言していたほど熱量はありましたよ。テレビドキュメンタリーを熱くしたい、盛り上げたいと」

――そして1999年からアシスタントディレクターとして、番組に関わって、6代目のチーフプロデューサーに就任されました。厳しかったことも……ありますよね?

「テレビ制作はほぼ厳しいことだらけなのですが(笑)でも楽しいんです。知らない世界を知ることができるのが一番楽しい。でも現実はのしかかってくる時があります。6年前に制作費が大幅に削られたり……。

ドキュメント制作は一年近く、取材対象者につきっきりになることもあります。タレントさんに番組への出演をお願いするように、ギャランティを支払うことはありません。出演してくださる人に“メリット”はないかも知れません。すべてをさらけ出してもらうのに、いい反響ばかりではないですからね。だからこそ大事なのが信頼関係。取材する側が連絡を取って、対象者の信頼を得て、制作がゆっくりと進んでいくのです。それだけに費用対効果が悪い。そうすると市場がだんだん狭まってしまって、肩身の狭い思いをしたこともあります」

――制作費は元に戻ったのでしょうか?

「いいえ、そのままです。その結果どうなるかというと優秀な制作者さんたちが、番組を離れてしまうんですよ。そうなると番組が弱くなってしまうし、なんとかしてスタッフを取り戻したいと思っていました。その状況に変化をもたらしたのが、サブスクですね。ドキュメンタリーが優良ソフトであると認知してくれていますから、商業価値を取り戻しつつあります」

――その現れとして、このコロナ禍でも人気をキープされています。でも少なからず、制作に影響はありますよね。

「コロナ禍は歴史上における大きな有事です。今まで国内でも自然災害は多数起きていますが、地域によって受け止め方には、どうしても温度差が生まれてしまいますよね。でも今回は世界中が同じ状況下に立たされてしまった。人の価値観はもちろん、生き方を変えています。そんな状況ですから、正直なところ取材はしづらいです。密着取材は……コロナ禍には一番適さないですから。例えば闘病に関する取材は難しいですしね。

それでも新作がずっと続くのは、この状況で起きているゲームチェンジのような状況を追いかけているからだと思うんです。視聴者からは『またコロナかよ!』と揶揄されることもありますが、それは当たり前なんですよ。世界中、皆、状況は同じですから。その中で、テレビを通して伝わる生き方を見せていきたいんですよね」

「日曜午後2時になるとめちゃくちゃSNSを見ます(笑)」

――おっしゃる“視聴者の声”は、SNSを通して制作側へ身近に届くようになりました。西村さんはチェックされていますか?

「めちゃくちゃ見ていますよ。(笑)日曜午後2時になったら家族からも冷ややかに見られるくらい、ずーっと見ています。でもただ見ているわけでもなくて、取材対象者を守るためでもあるんですね。今は番組放送中に、取材対象者の経歴や家族構成が掲載されたまとめサイトができてしまうんです。それからSNSで誹謗中傷も飛び交う。それが簡単に目に入ってしまうようになりましたから」

――あの個性的な生活をしている取材対象者の方たちは、どこで発掘をしてくるんでしょうか?

「そのことは本当によく聞かれるんですけど、制作会社からネタを提案してもらうことが多いですが、きっかけは、例えばFRIDAYさんで読んだ、SNSで見た、飲み屋で知り合った、新聞記事で見かけたとかさまざまです」

――毎週放送されているわけですから、かなりのネタストックがないと不安になりませんか?

「どんな作品も制作に半年以上かかってしまうんです。だから常に40本くらいは走らせて(制作している)います。35本を切ってしまうことはないようにしています。あとは僕がストックしてあるネタがあって、番組を作りたいと申し出てくれた若手スタッフに渡して、リサーチしてもらうとか。今は……都心の繁華街に夜だけ営業している薬局があって、そこで何が起きているか、取材をしています。常に放送する内容のことは考えていますね」

――『ザ・ノンフィクション』は、そういうアンダーグラウンドな雰囲気がすごく強いんですよね。周囲でもこの番組のどこかが好きかと問うと「暗さ」だという意見が多いです。

「実際はそんなに暗い話ばかりでもないんですよ。実は、前向きな話も多いんです。

例えば『銀座のママ・唐沢菜々江さん』の回はコロナ禍の影響で、赤字が膨れ上がっていく話。でも菜々江ママ、ずーっと明るいんですよね。どん底のはずなのに絶対に下を向かない。

4月に放送した『上京物語』シリーズでは、北海道から上京した青年がたったの1日で仕事を辞めたいと言い出したこともありました。このときは色々な意見が飛び交いましたけど、若い子の間では『気持ち分かる』と共感ツイートが多く発信されていて、それを見て僕も若者たちの価値観に気付かされたというか」

――なるほど。そういった銀座のママや、上京してくる若者たちなど、今までカウントし切れないほどの人物を取り上げてこられたと思います。西村さんがお気に入りの放送回はなんでしょうか?

「一番って本当に難しいんですよ。(苦笑)強いてあげるとしたら……『われら百姓家族』という、僕が番組を担当する前のシリーズで、父親が会社を辞めて家族ごと兵庫県の山奥で暮らしている様子を追っかける内容でした。子どもが6人いて、2〜3歳の子どもが鶏を絞めて食べるような自給自足の生活でした。まさに自分の知らない世界がテレビで放送されていたんです。この企画、18年も取材が続きました」

西村さんが最も印象に残っている1本『われら百姓家族』(2000年)

――18年! 子どもが生まれて高校卒業するペースですね(笑)。

「26年間も番組が続いて、トータルすると今が一番、視聴率はいいんですよ。横並びの番組もないですし、トップなんです。チーフプロデューサーになったとき、僕は”口の端に上る番組にしよう”と決めたのですが、少しずつ、理想に近づいているのかなと思います」

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西村さんの話を聞いて、ハッとさせられたのは“熱量”だった。インタビュー中、彼はおそらく今までの放送回の資料がまとめられた紙資料を常にチェックしていた。スタート前には「これまでのことをぜんぶ思い出したいので、少し時間をください」と資料を読み込み、途中何度も「忘れてしまうんですよ」と言いながら、質問に答える。そこに自分の思いを乗せる。大事に育てた番組の面白さと“熱量”を、少しでも我々に理解してほしいという気持ちであったと思う。

コロナ禍でまだ試練の日々は続く。でも“熱量”は自分を裏切ることはない。『ザ・ノンフィクション』は、そんなゆるぎない真実が感じられる作品なのだ。

●西村陽次郎
1974年生まれ。青山学院大学卒業後、富士銀行を経て、99年にフジテレビジョン入社。19年より『ザ・ノンフィクション』チーフプロデューサーを務める。現在は『逮捕の瞬間!警察24時』『目撃!超逆転スクープ』や、『ワイドナショー』『まつもtoなかい』といったバラエティー番組も担当。

5月30日放送の『酒と涙と女たちの歌 〜塙山キャバレー物語〜』(前編)より
5月30日放送の『酒と涙と女たちの歌 〜塙山キャバレー物語〜』(前編)より
6月6日放送の『酒と涙と女たちの歌 〜塙山キャバレー物語〜』(後編)より
6月6日放送の『酒と涙と女たちの歌 〜塙山キャバレー物語〜』(後編)より

『酒と涙と女たちの歌 〜塙山キャバレー物語〜』
前編 5月30日(日)午後1時40分から放送
後編 6月6日(日) 午後2時から放送

  • 取材・文小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

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