またもや先進国最下位…どうなる?出遅れ日本のワクチンパスポート | FRIDAYデジタル

またもや先進国最下位…どうなる?出遅れ日本のワクチンパスポート

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ぬぐえない日本政府の場当たり感…

EU主要国では昨年12月27日に開始された新型コロナウイルスのワクチン接種。日本で始まったのは2月17日だから出遅れ感は否めないが、またしても出遅れそうなのが「ワクチンパスポート(ワクチン接種証明書)」だ。

渡航のみではなく、経済を回すためにもデジタル証明書は即刻必要だと思うのだが、何かにつけて後手後手、さらには不具合だらけで役に立たない接触確認アプリCOCOAの例などを鑑みると「まさかこの時代に、…紙?」と不安になってくる。今の日本のITリテラシーでワクチンパスポートなんて作れるのだろうか。そのあたりのモヤモヤを、ITジャーナリストの篠原修司さんとともに考察する。

5月28日の会見で、香港の記者による「日本のワクチンパスポート実施の時期」についての質問に、「国内外の議論や各国の状況を収集しながら検討を進めていきたい」と答える菅総理。「今は体勢を整えている段階」と言われれば、ああまたか、と思うしかない(写真:アフロ)
5月28日の会見で、香港の記者による「日本のワクチンパスポート実施の時期」についての質問に、「国内外の議論や各国の状況を収集しながら検討を進めていきたい」と答える菅総理。「今は体勢を整えている段階」と言われれば、ああまたか、と思うしかない(写真:アフロ)

思わず「昭和か!」と叫んだ『成人用予防接種記録手帳』の存在 

ワクチンパスポートに関してあれこれ調べていたところ、「国立感染症研究所」のHPでひょっこり見つけてしまったのがこれだ。

なるほど、さすがは母子手帳の国、日本。こういうものも準備されていたのか…と発行年月日を見れば、なんと2021年2月とある。デジタル健康証明がグローバルスタンダードな時代に、あまりにも時代錯誤ではないか?

ワクチンの接種記録はもちろん大切だ。だが手帳は全6ページ。生涯で6ページ。毎年律儀にインフルエンザの予防接種をする人は、10年でいっぱいになってしまう。しかも最終ページには母子健康手帳予防接種欄のコピーを貼付けるためのスペースが。自分がこれまでに打ったワクチンの全記録を母子手帳にまで遡って完璧にコピー&書き写すことができる人は、かなりの激レアさんだと思う。

「昔の!?」と思ったら、発行は2021年2月…
「昔の!?」と思ったら、発行は2021年2月…
のっけから「基本的には、ご自身で接種記録を見ながら書き写していただき…」の一文。欧文が一切使われていないのも気になる。いつから日本は、こんなにIT後進国になったのか…
のっけから「基本的には、ご自身で接種記録を見ながら書き写していただき…」の一文。欧文が一切使われていないのも気になる。いつから日本は、こんなにIT後進国になったのか…

ここで使わずいつ使う? やっと来たかもマイナンバーカードの出番

例えばイギリスの場合は5月17日に、海外に出かける自国民向けのワクチンパスポートが国民保健サービス(NHS)のスマホやタブレット端末のアプリで表示されるようになった。ドイツでも6月中にはスマートフォン用のデジタル・ワクチン接種証明書「CovPass」が発行される予定だ。

「EUのワクチンパスポートについては今年の1月にはもう検討が始まっていました。6月に出るということは、約4ヵ月で開発されています。早いですね」(篠原修司さん 以下同)

元々ベースとなるデータがしっかりしているから、こんなに早い発行が可能なのだろうか。

「日本もデータはしっかりしていると思いますよ。データだけは各自治体ではなく、国で一元管理されているので。ワクチンの接種情報はワクチン接種記録システム“VRS”に記録されています。“VRS”のもつデータベースと紐づければ、日本でもワクチンパスポートを作成するのは問題ないと思われます」

なるほど! ではデジタルパスポートも案外スムーズに発行できるかも?

「ただ、システムに問題がなくても国民のほうには問題があります。それはマイナンバーカードの所有率です。“VRS”には氏名、生年月日、ワクチンの接種日、接種回数、ワクチンメーカーなどに加えてマイナンバーも登録されますが、カードがないと電子証明書による本人確認が行えません。

そうすると、ワクチンパスポートの発行は難しくなります。氏名や生年月日だけでは重複することがありますし、なりすましの可能性も考えられます。マイナンバーカードを適用した管理を国民に納得してもらえるかどうかが鍵となりそうです」 

6月リリース予定のドイツのCovPass。人々の活動制限を解除する鍵となるワクチンパスポートが発行されれば、冷え込んだ経済の回復が期待される
6月リリース予定のドイツのCovPass。人々の活動制限を解除する鍵となるワクチンパスポートが発行されれば、冷え込んだ経済の回復が期待される
5月17日にリリースされたイギリスのワクチン接種証明アプリ
5月17日にリリースされたイギリスのワクチン接種証明アプリ

日本は果たして「一事が万事の出遅れ」を取り戻せるのか?

日本同様、マイナンバー制度に反対する国民の多いイギリスでは、保険証番号を流用している。医療記録や医師の予約、過去と同じ処方箋などをオンラインで出すために作られた既存のシステムにワクチンのデータを表示できるように、アプリを調整するだけで済むようだ。日本にも保険証番号があるが、それは使えないのだろうか。

「でも保険証番号って、例えば会社が変わったり辞めたりすると、その度に変更届を出さなければなりませんよね。だったらマイナンバーを使うほうがスムーズではないでしょうか」

そうはいっても現時点でカードの取得者は全国民の約3割。カードを持つことに抵抗のある7割の人を納得させるのは、容易ではない気がする。

それより何より、EUではワクチン接種が始まって1ヵ月後にはパスポートの検討が始まったのに対し、日本が検討に入ったのは5月19日だ。ワクチン接種開始から3ヵ月もあったのに、なぜパスポートの検討をしなかったのか。

「わかりません(笑)。出遅れの状況というのはひどいですよね。ただ、ここから新たにアプリを作ってまたインストールしてもらうとなると大変なので、例えばドイツのように今あるコロナ警告アプリ、日本ならCOCOAに機能を入れたらいいんじゃないかとも思うんです。この方がスムーズに行きやすそう。もちろん別のアプリを作ってそれを配布したほうが仕組み上では簡単なんですけど」

アプリを作るのには、どれくらいの日数がかかるのだろうか。

「仕様を整えるのにけっこう期間がかかってくると思います。一般的にはアプリ開発には半年ほどかかると言われています」

住基ネットでコケて、マイナンバーカードは浸透しない。COCOAも集団接種予約サイトも不具合満載…。そんな日本がきちんとしたデジタルパスポートを作れるような気が全然しないのだが。

「そこはデジタル庁に期待しましょう。といっても9月1日の創設を目指す、という段階ですが」

ということは、当面は接種証明書をもらうとしても紙しかないのだろうか。オリンピックの観戦時に証明書を提示する案も出ているようだが、到底間に合うとは思えない。

EUは5月、新型コロナ陰性やワクチン接種を証明する「コロナパスポート」の詳細な枠組みに関して合意。7月1日までに用意が整う見通し。写真は3月、COVID-19 ワクチン接種証明書に関する法律草案を紹介する欧州委員会の委員長
EUは5月、新型コロナ陰性やワクチン接種を証明する「コロナパスポート」の詳細な枠組みに関して合意。7月1日までに用意が整う見通し。写真は3月、COVID-19 ワクチン接種証明書に関する法律草案を紹介する欧州委員会の委員長

「来年の2月までには…」都内某区の回答に、思わず口をついて出た「ダメだこりゃ」

東京都在住で2回接種が終わったある高齢者(女性・87歳)に、「予防接種済証」なるものを見せてもらうと、そこには(臨時)と書かれていた。「予防接種済証」といっても、ワクチン接種券の片隅に2枚のシールを貼り付けただけのものなのだが。

気になって区のワクチン接種コールセンターに問い合わせてみたところ、「証明書に関しては現在調整中です。ワクチンの接種期間は来年2月までの予定なので、その頃までには何らかのガイドラインを区民の皆様にご紹介できると思っています」との回答が。自治体ごとに違いはあるのかもしれないが、彼女の住む区ではデジタルどころか、紙の証明書についても検討中なのだ。

ワクチンパスポ—トの仕様に関しては、現在各国で出している証明書を最終的には世界統一しなければならない問題もある。

「どうせ出遅れたなら、そこに乗っかるのもありですよね。COCOAや集団接種予約サイトではミスが目立ちましたが、前者は多重請負でコミュニケーションコストがかかったこと、後者は準備期間が少なかったことなどが原因とされています。いずれにしてもワクチンパスポートは感染を広げないためにもあったほうがよいでしょう。今回はCOCOAほどの失敗にはならないのではないでしょうか」

ネット民の間では「自国でできないなら台湾に発注すれば?」という声も出る始末だが、政府はオリパラに向けて訪日客向けのコロナウイルス対策アプリ「OCHA」を6月中に稼働させる予定らしい。当初73億円かけると言っていた予算を、ブーイングを受けて半額にしたようだ。

どうやらオリパラに中止の選択肢はなくなったらしい。OCHAは大会終了後、訪日客向けに利用拡大する予定だというが、国民置いてけぼり感は否めない。写真はぼったくり男爵ことバッハ会長の視察風景
どうやらオリパラに中止の選択肢はなくなったらしい。OCHAは大会終了後、訪日客向けに利用拡大する予定だというが、国民置いてけぼり感は否めない。写真はぼったくり男爵ことバッハ会長の視察風景

COCOAの場合、開発費自体は4億円弱だったが、委託料などで総額36億円ほどかかったといわれる。OCHAも同じ道を歩むのか?

血税を使って訪日客用アプリを作るより、国民のワクチンパスポート導入が先じゃないのか? パスポートがあれば、バタバタと閉店していく飲食店だって救われるかもしれないのに。いろんな意味で、なんともやるせない気持ちになってしまった。

『成人用予防接種記録手帳』(国立感染症研究所HPより)はコチラ

篠原修司 1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライター・ITジャーナリストとして活動中。スマホ、ネット、炎上などが専門。

  • 取材・文井出千昌

    フリーライター。ファッション誌・情報誌・ウェブなどジャンルはさまざま。冒頭で紹介した『成人用予防接種記録手帳』の存在を知ったときは、心底ビックリして思わず友人にLINEしまくった。返ってくるのは「驚愕」や「失望」を表すスタンプの数々。「へえ〜、こんなにいろんな種類があるんだ〜」と、妙なところで関心してしまった。

  • 写真アフロ

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