民放ドラマ対決「世帯視聴率」では見えないシビアな戦い | FRIDAYデジタル

民放ドラマ対決「世帯視聴率」では見えないシビアな戦い

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テレビ朝日をはじめ、各テレビ局が今期もしのぎを削っている
テレビ朝日をはじめ、各テレビ局が今期もしのぎを削っている

いよいよ終盤戦へ

春クールも2か月が経ち、各局ドラマは終盤戦に突入した。

ここまでのドラマ対決を振り返ると、テレビ朝日が頭一つ抜け出ている。次に『ドラゴン桜』が絶好調のTBS、『イチケイのカラス』で気を吐くフジと続き、日テレが右肩下がり続きで5月には最下位に転落した。

ただし以上は世帯視聴率での話。

実はテレビ業界では既にその数字は指標として使われていない。「個人視聴率」が基本であり、局によってはスポンサーへの営業で49歳以下の指標を前面に出したり、29歳以下でアピールしたりという場合もある。

日ごろネット記事で見かけることの多い「世帯視聴率」という表の舞台と異なり、広告収入というシビアな裏の世界では、新たな戦い方が始まっている。

たとえば『半沢直樹』に代表される日曜劇場が、似たテイストながら『ドラゴン桜』という学園ものにしてきた例が典型だ。新たな枠組みとなった今期、ドラマ対決がどうなっているのかを垣間見てみよう。

世帯視聴率という表舞台

まずは従来通りの世帯視聴率で4~5月のドラマ対決を振り返える。2か月間のGP帯(夜7~11時)3作平均は、テレ朝が12%でトップ。次に10.2%のTBSが続く。その差は2%近い。さらに2%ほど水をあけられたフジと日テレが、8%強でせめぎ合っている。

テレ朝は、4/7スタートの『特捜9』の平均が13.3%。翌4/8に始まった『警視庁・捜査一課長』が12.0%。4/15開始の『桜の塔』が10.3%と、3作とも二桁で善戦している。いずれも刑事モノで、中高年の視聴者に支えられている。

平均10.2%で2位を行くTBSは、日曜劇場『ドラゴン桜』が大黒柱だ。4月下旬スタートでまだ6話しか放送されていないが、平均13.9%は全ドラマの中で首位。ただし恋愛モノとなった他2本は、『リコカツ』9.0%・『着飾る恋には理由があって』8.0%と今ひとつだった。

3位は平均が8.23%のフジ。最下位日テレとは、今のところ0.03%の僅差だ。ここ数年ドラマが低迷していた同局は、今期は『イチケイのカラス』が12.3%と絶好調。久々の大ヒットと言えよう。

ただし6.2%の『大豆田とわ子と三人の元夫』と5.4%の『レンアイ漫画家』が大ブレーキとなった。3作平均では普段と変わらない低迷ぶりだ。

そしてフジにわずかに後れを取ったのが日テレ。初回11.4%と10.5%と、『ネメシス』も『恋はDeepに』も順調なスタートを切った。ところが両作品とも回を追うごとに数字を落とし、共に7%台になってしまった。さらに8.9%で始まった『コントが始まる』に至っては、6%台まで下がっている。

世帯視聴率に基づく評価

民放ドラマに対するネット記事の評価は、世帯視聴率と連動するものが多い。たとえば『特捜9』『警視庁・捜査一課長』『ドラゴン桜』などは、「初回から9話連続2桁で好調」「7話連続2ケタ台キープ」「第6回は14.0% 0.2ポイント増と好調キープ」など、二桁の数字をもって好調とする記事が目立つ。

真逆なのが、平均が5.4%で4%台に落ちたこともある『レンアイ漫画家』。初回6.5%、2話目で5.1%となった途端に、「早くもピンチ」とか「赤信号が点灯」と書かれた。その後も、「脚本の修正」とか「打ち切り」という言葉が記事中に飛び出す始末だった。

他にも、初回と比べ2~4%数字を落とした日テレの3作は、ボロクソな言われようだ。

石原さとみと綾野剛の『恋はDeepに』、菅田将暉と有村架純の『コントが始まる』、広瀬すずと櫻井翔の『ネメシス』。豪華なキャスティングだったにもかかわらず、全作品が右肩下がりとなった。

すると「2桁割れの危険水域」に始まり、「脚本家と主演俳優の方向性がズレまくり」「(せっかくの俳優が)実力を出し切れてない」など言いたい放題だ。

日テレ3ドラマを個別にもう少し見ておこう。

『コントが始まる』は、「コントが致命的に面白くない」とやられている。コメディどころか、リアルでシリアスなため、ドラマに求めるものが違うという人たちから切り捨てられた。

『ネメシス』も「面白くない・つまらない」と否定された。「豪華なキャストで期待値が高すぎた」「コメディ要素がいまいち」などが要因だったようだ。

そして『恋はDeepに』に至っては、「“幼稚な脚本”に非難殺到!」「見たい俳優像と役柄にギャップがある」「ファンタジーすぎて引く人も・・・」と、散々酷評されている。

ターゲット層の個人視聴率

ではスポンサーが重視するターゲット層ではどうなるか。

日テレは以前から「コアターゲット」を重視して来た。フジは「キー特性」と言い出した。共に男女13~49歳が対象だ。TBSも「ファミリーコア」(男女4~59歳)を、今春から「新ファミリーコア」(男女4~49歳)へと年齢層を下げて来た(ただしテレ朝だけは、なぜかターゲットを明示していない)。

関東地区で5000人のテレビ視聴実態を調べるスイッチ・メディア・ラボで、男女10~49歳の個人視聴率がこの2か月でどう推移したかを見てみよう。

世帯視聴率ではテレ朝が断トツ首位だったが、この層では最下位に沈む。やはり中高年こそよく見ているが、スポンサーが求める若年層にはあまり見られていない。

TBSは世帯視聴率で2位だったが、この層では日テレと首位争いを演ずる。
若年層狙いの恋愛モノ2作が不発だったが、学園ものにしたために10~20代に訴求した『ドラゴン桜』のお陰で、「新ファミリーコア」で目標通りの数字を確保できていた。

フジも状況は似ている。『レンアイ漫画家』など2作は、「キー特性」で2%台に低迷したが、『イチケイのカラス』が4%近い数字をとったお陰で何とか格好がついている。

そして世帯視聴率が右肩下がりの日テレ3ドラマ。3週までの「コアターゲット」は4%以上の快走ぶりだった。ところが世帯視聴率を3割以上失った4話以降、ターゲット層も3%台に落ちていった。

それでも4~5月の平均にすると、10~40歳代で3.7%の同局がトップとなる。

リーチで比べると…

広告業界では、リーチとフリークエンシーが重視されている。リーチとは一定期間に広告がどのくらいの人に届いたかの指標。フリークエンシーは広告が届いた回数を指す。

視聴率が高くても、リーチが低ければ商品は多くの人に認知されていないことになる。同じような人がずっと見ているだけだと、CMが徒に繰り返し見られているだけで広告効果が少なくなる。

インテージのi-SSP TV 関東モニターで、各局3ドラマのリーチを調べてみた。
個人全体のリーチでは、世帯視聴率トップだったテレ朝が最下位だった。しかも若年層になるほど、リーチが急減する。視聴者の主体が中高年で、しかも刑事モノばかり。視聴者の広がりがないことがわかる。

個人リーチのトップはTBS。49歳以下でも29歳以下でもトップの座を守った。若者から中高年まで、もっと多くの人に見られていることがわかる。半沢直樹テイストの学園モノとなった『ドラゴン桜』が大きく寄与したことがわかる。

フジと日テレを比べると、戦略の差が浮き彫りになる。世帯視聴率8%強で接戦だった両局だが、個人全体のリーチも接戦で、しかも世帯で4%も高かったテレ朝を抜いている。視聴者の広がりを、両局とも一定程度保っていたことがわかる。

違いが出たのは若年層だ。49歳以下、29歳以下と層を絞るに従い、フジはリーチを下げていった。ところが日テレは下がらないどころか、29歳以下ではTBSと並んでトップに躍り出た。2作が不発だったフジは、『イチケイのカラス』で世帯視聴率を何とか底上げした。ところが月9を中高年対象に変えてきたために、「キー特性」にじゅうぶん訴求する展開にはならなかった。

 

そして評価が散々だった日テレ3ドラマ。世帯視聴率が右肩下がりで最下位になろうとも、広告営業的に大切なリーチはそん色なかった。しかも若年層でのリーチはトップクラスと、一定の成果を上げていたのである。

どうやら散々な評価は、大人や中高年の見方のようだ。若年層が注目する物語として、3ドラマは一定の役割を果たしていたようだ。

コロナ禍に苦しんだ2020年。テレビ広告費は総額で2000億円を失った。率にして11.3%の減収だ。しかも今後も、テレビ広告費は厳しい状況が続くとみられている。その中でテレビ局は、スポンサーのニーズに対応して生き残っていかなければならない。

従来のような世帯視聴率の多寡で一喜一憂している場合ではない。どんな視聴者をターゲットに、どう持続可能なドラマ制作をしていくのか。マネージメント能力が問われるようになった。

そんな時代の変化を感じさせる2021年度最初のドラマ対決だったのである。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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