東京五輪開催の命運を握る小池百合子都知事の「最後の手」
オリンピックまであと7週間 国民の過半数は「中止」してほしい
関係者全員が「女帝」の一挙手一投足を、固唾(かたず)を呑(の)んで見守っている。東京オリンピック開会まであと7週間。小池百合子・東京都知事(68)は6月1日、都議会の所信表明で「五輪開催に向けた総仕上げを着実に行う」と発言したが、この言葉を鵜呑(うの)みにはできない。
各社の世論調査を総合すれば、国民の過半数は五輪開催に否定的だ。小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会は「延期も含めたあらゆる選択肢を視野に入れるべき」との談話を発表。一方、菅政権は五輪開催に向けて突き進む。
「あくまでも開催するのであれば、選手やスタッフにクラスターが発生した場合はどうするのか、どれだけの人数が感染したら競技を取りやめるのか、といった誰もがわかる明確な基準を設けないといけない時期なのに何も決まっていない。のんびりしたものですよね。
一連の騒動で、オリンピックがIOC(国際オリンピック委員会)の金儲け主義のために開催されるのが明らかになっているわけで、私は本来、今大会は中止すべきだと考えます」(スポーツ文化評論家・玉木正之氏)
多くの人も同感だろう。そして、こうした民意をあえて「政争の具」にするのが、小池知事の得意技である。
元都庁幹部の嘆き
思い出してほしい。4年前の都議選の頃、東京は築地市場の豊洲移転問題で大きく揺れていた。東京都の中央卸売市場次長として小池知事の言動を間近で見ていた元都庁幹部の澤章(さわあきら)氏が振り返る。
「都議選の告示3日前、小池知事は突然、『築地は守る、豊洲は活かす』というスローガンを発表。築地か豊洲かで真っ二つに割れていた東京都民の心を掴んで、『小池旋風』につなげて大勝しましたが、築地市場は跡形も残っていません。
市場移転は東京都だけで責任を取れる問題ですが、五輪の中止は国際的な問題になりますので、さすがに今回は小池知事もおいそれとは決められない。ただ、6月25日の都議選告示日までまだ3週間あります。ワクチン接種の状況を見極めて、五輪開催をひっくり返す可能性はまだ残っている。感染状況次第では、『一旦、立ち止まって考えましょう』とか、『安全安心が保たれなければ開催すべきではない』などと言い出すのではないか。曖昧(あいまい)な言葉で不安な都民の心を刺激する戦術を考えているでしょう」
小池知事は頻繁に記者会見を行う一方で、都庁内では沈黙を貫いているという。ジャーナリスト・鈴木哲夫氏の話。
「都知事選の出馬や豊洲への移転延期、希望の党の旗揚げなど、小池知事が大胆な行動に出る前には必ず沈黙の期間があります。今も五輪に向けて安心安全の大会へ準備を進めるとは言うものの、『自分の責任において絶対にやる』とまでは言いません。都庁幹部らへの言葉はまだまだ最小限で、いろいろなケースを沈思黙考しているのではないでしょうか。緊急事態宣言の期限となる6月20日あたりが最後の決断のタイミングだと思います」
最終的に小池知事の「決断」が東京五輪の命運を左右することになりそうだ。前出の元都庁幹部・澤氏が嘆息する。
「小池知事にとっては東京五輪が開催されようが中止になろうが、実はどうでもいいのだと思います。開催か中止かのシンプルな二者択一を都議選にぶつけて都民感情を煽(あお)り、政治状況に揺さぶりをかけて自らの存在感を高める。その手段として東京五輪がある。結局、小池知事による五輪の政治利用にすぎないのです」
「FRIDAY」2021年6月18日号より
- 撮影:鬼怒川 毅