王者・京口紘人が語った「井上尚弥と同じ時代に生まれた幸運」 | FRIDAYデジタル

王者・京口紘人が語った「井上尚弥と同じ時代に生まれた幸運」

WBAライトフライ級スーパー王者・京口紘人スペシャルインタビュー 大阪の空手少年は辰吉丈一郎に導かれて世界へ

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得意の左アッパーを連続で叩き込む。アメリカでの防衛戦を経てバランスを改善。パンチの回転速度が格段に高まった
得意の左アッパーを連続で叩き込む。アメリカでの防衛戦を経てバランスを改善。パンチの回転速度が格段に高まった

代名詞とされる左アッパーをトレーナーの構えるミットに打ち込んでいく。

空手からボクシングに転向した中学1年生のころ、辰吉丈一郎(51)から直接教えを受け、磨いてきたパンチだ。

3月13日、米・ダラスで行われたWBAライトフライ級タイトルマッチでも、左アッパーを効果的に着弾させ、3度目の防衛に結びつけた。

京口紘人(きょうぐちひろと)(27)。IBFミニマム級、WBAライトフライ級と2階級を制覇中の世界王者である。5回TKO勝ちを収めた3月の防衛戦を京口が振り返る。

「日本では贔屓(ひいき)の選手を応援するためにお客さんがチケットを買って会場に足を運びますが、アメリカでは純粋にボクシング観戦が好きな人が試合を楽しんでいる。いい試合をすれば、無名選手だろうが、外国人だろうが認めてもらえる。やり甲斐がありますよね。現在(いま)はコンビネーションをワンセットで出すのではなく、何発ものパンチを組み合わせてテンポ良く、流れるように動けるように心がけて練習しています。バランスが悪いと重心がブレてしまい、次の動きができませんから、そこは常に意識していますね」

ボクシングの本場・アメリカに飛び出すキッカケとなったのは、新型コロナウイルスだった。昨年11月3日、京口は故郷・大阪でタイ人選手と防衛戦を行う予定だったが、前日の計量時に感染が判明。試合は急遽(きゅうきょ)キャンセルとなった。

その後、所属するワタナベボクシングジムが多方面に働きかけ、英国のプロモート会社『マッチルーム』と3試合の契約を締結。アメリカでの防衛戦が実現したのだ。

「感染経路はいまもってわかりません。試合が流れてしまったことで、離れていったスポンサーもいます。一方で、『リングで戦う姿が見たい』と激励してくれたファンの温かさが身に沁(し)みました。コロナはなかなか収束しませんから、海外の選手を連れてきて日本で世界戦を組むのは難しい。だから、逆転の発想で日本を飛び出すことにしたのです。

結果、世界チャンピオンとして本場アメリカのリングに立てたのですから、周囲の方々には感謝しかありません。世界的なプロモーターは、選手を完全に商品として見ています。負ければそこで終わりですが、勝てば大きな舞台が用意される」

『マッチルーム』はWBO同級王者、エルウィン・ソト(24)もプロモートしており、近く京口との2団体統一戦が実現しそうだ。

「ソトも5月8日に防衛しましたね。接近戦を制するという点で、僕と似たスタイル。嚙(か)み合うと思います。お互いの土俵でパンチの応酬が続く、面白い試合になるでしょう。技術で上回って、自分が勝つ自信はあります!」

日本人ボクサーが世界に進出して世界タイトルマッチを戦うと聞くと、まず思い浮かぶのがWBA/IBFバンタム級チャンピオンの井上尚弥(28)だ。

「彼と僕は同じ歳。自宅に遊びに行くような親しい友人であり、ライバルでもあり、目標でもあります。僕にとって一番、刺激になる人間ですね。自分は2階級を制しましたけど、今後、統一戦で勝ったとしても、井上尚弥はすでに先に進んでいる。もっと上のステージで強敵と戦い、勝ち続けている。彼がいる限り、僕がボクシングで達成感を得る日は来ないでしょう。

井上尚弥と比べたら、自分は全然大したことはない。彼にはレベルの高い相手でも的確にパンチを当てるテクニックも、スピードもパワーもある。僕が苦手なカウンターも巧みですし、相手に打たせないディフェンス力もある」

実際、先人・井上尚弥のアドバイスは世界の舞台で活きた。

「ダラスに出発する直前、アドバイスを求めたら、『体調管理のために、加湿器を持っていったほうがいい』という言葉と『リングに上がれば、日本もアメリカも一緒だよ』という助言をくれました。自身の経験に基づいての言葉ですから、説得力がありましたね。

試合前は『アメリカでいいところを見せてやるぞ!』と肩に力が入っていたんですけど、ゴングが鳴ったら、『場所は違っても目の前の男を倒すだけだ』と冷静でいられた。井上尚弥が言っていたのは、こういうことだったんだなと納得しました」

日本ボクシング史に残る怪物と同じ時代に生まれた運命を受け入れ、京口は「自分の色を出していくこと」に力を入れている。

「彼のようにボクシングだけを突き詰めていくスーパー王者もいますが、僕は違う。自分のやり方でブランディングしていかねば、世間に認知されません。YouTubeを始めたのはそのためです」

格闘家たちが次々とYouTubeに参入した少し前、’19年11月に始めたチャンネルの登録者数は15万人強を数える。

「おかげさまでチャンネルを開設してから、ファンの数が1000倍に増えました。波はありますが、同年代のサラリーマンの平均月収の倍くらいは稼げているんじゃないですかね。コミュニケーション能力も語彙(ごい)力も間違いなく上がっていると思います。常に視聴者、ファンのニーズを意識するようになりました。テレビのバラエティ番組を観ていても、タレントさんの口調や言葉の選び方を参考にしている自分がいますね」

街中で声を掛けられる機会もグンと増えた。当面の目標は統一王者だ。

「巨額のファイトマネーと言えばヘビー級やミドル級の専売特許ですが、軽量級であるライトフライでも、統一戦でファイトマネーが1億円を超えたことがあります。少しでもそこに近付けるよう、自分の価値を上げていきたいですね。やるからには、井上尚弥に匹敵するチャンピオンを目指します。”やり切った”と思えるところまで戦いたい」

プロ戦績は15戦全勝10KO。そのうち7度の世界戦にも、もちろん勝利した。

京口本人の言葉通り、井上尚弥の存在がなければ、もっともっと脚光を浴びていただろう。同い歳のライバルの背を追う、このチャンピオンにも注目だ。

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本誌未掲載カット WBAライトフライ級スーパー王者・京口紘人スペシャルインタビュー
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『FRIDAY』2021年6月18日号より

  • 取材・文林 壮一

    ノンフィクション作家

  • 撮影山口裕朗

    写真家

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