「せくすぃ~野菜」の粘土作家に聞くハンドメイドマーケットの魅力
「大根の粘土細工を作りながらテレビを見ていたら、間違って真ん中にハサミを入れて切ってしまったんです。それが足に見えたので、そこから『せくすぃ~シリーズ』が誕生しました」
というのは、ユニークなセクシーポーズをとる野菜の粘土細工が話題の音波屋の相澤美和さん。
コロナ禍前は、ビックサイトで行われるような大型イベントをメインに活動しつつ、有名企業とコラボした作品を作ったりしていましたが、コロナ以降は駅前などで開催されるハンドメイドマーケットが主戦場になったといいます。
面白作品の紹介や変遷、コロナで知ったハンドメイドマーケットの世界について伺いました。

はじめて作った作品は墓場のジオラマ!?
――見ているだけで楽しくなるようなユニークな粘土細工ですが、何がきっかけで作りはじめたのでしょうか?
「きっかけは2011年の妹の他界です。ものすごくショックで、抱えきれない悲しみや絶望を紛らわすために、ジオラマ作りをはじめました。なので、最初に作ったのは墓場(笑)。
そのうち、『ほしいパーツがないな』、『全部自分で作った方がいいな』と思うようになって、自由度の高い粘土細工にシフトしました。
昔から怖い話やグロテスクなものは大嫌いだったんですが、『嫌いは好きの裏返し』と言われたのもあって、この頃は、妖怪や虫などのグロテスクな作品ばかりを作っていました(笑)」

――その次はどんな作品を作ったのですか?
「少しずつ幅を広げていってフード系を作るようになりました。代表作の『せくすぃ~大根』が誕生したのは、2013年くらいです。その頃からデザインフェスタに出はじめたのですが、それが大きな転機でしたね。東急ハンズの方に声をかけていただき、店内イベントに出店するようになりました。あと、同人誌系のイベントにもいろいろと参加しはじめた頃、当時のヴィレッジヴァンガード新宿店の店長さんにお声をかけていただき店内にも作品を置かせていただけるようになりました」


順調だったけど…
―――好調に粘土細工作家の道を歩まれていますね。
「海外での発売についての問い合わせもあったりして、けっこう順調でした。でも、そんな調子に乗っている時に、思わぬ所に落とし穴が現れるんですよね……。
いろいろな夢を見はじめたときに、パリで行われる『ジャパンエキスポ20』に参加しないかと打診されました。諸々含めて結構かかるということで、はじめは乗り気じゃなかったんですが、お話を聞くうちに乗り気になってしまって、『ひとまず行ってみよう!』と参加しました。緊張しつつも期待を持ってパリの会場に行き、4日間がんばってどうにか売り上げはとれましたが、税金や手数料などがかかり、あまり多くは手元に残りませんでした。まだ海外に出ていくには準備不足だったかもしれません」
――そこからの巻き返しは大変だったでしょうね……。
「その頃は、中長期にわたって開催される比較的大きなイベントがメインだったのでなんとかなりましたが、昨年に入ってからコロナが流行したせいでイベントが軒並み中止になって、3~5月は一度もイベントに参加できませんでした」
――その間は何をしていたんですか?
「新作作りや通販サイトのリニューアル準備に専念していました。あと、『博物ふぇすてぃばる!』というイベントに向けて粘土とジオラマのコラボ作品を作りました。これは初めての試みで、新境地に足を踏み入れられたのは、ある意味コロナのおかげですね」

ハンドメイドマーケットをメインに巻き返し!
――ハンドメイドマーケットに出店したきっかけは?
「イベントでよくご一緒する作家さんから教えてもらいました。ジオラマ時代に、一度だけフリーマーケットに出ましたが、手ごたえがなかったので、それからは小規模イベントに出ることはあきらめていました。でもやはり、イベントには出たかったので、6月にハンドメイドマーケットデビューしました。場所は御徒町の松坂屋さんの横で、小規模でもコンセプトがとてもしっかりしている素晴らしいイベントでした」
――ハンドメイドマーケットに出店してみた感想は?
「外出自粛などもあって『厳しい』と聞いていたので、はじめは出店料を稼げたらありがたいくらいの軽い気持ちだったんですが、意外にもたくさんのお客さまに来ていただきました。でも、それより嬉しかったのは、客層がぐっと広がったことですね! 大きなイベントでは男性のお客さんが多かったんですが、ハンドメイドマーケットでは、多くがお買い物途中の主婦や学校帰りの学生さん。
お客さんとじっくりお話しできるのも嬉しかったですね。大きなイベントだと、一度にたくさんの方の接客をしないといけないので、お話しできなくて申し訳ないと思っていました。そして、お客さんへの感謝の気持ちが大きくなったのも、いい変化だったと思います」

――今後の展望はありますか?
「今年から、オリジナルアイテムを作って販売できる『SUZURI』というサイトで、自分の作品の写真を印刷したグッズの販売をはじめました。Tシャツやトートバッグにポーチ、ファイルなど、けっこう好調です。現在展開している「ヴィレッジヴァンガードオンラインストア」「メロンブックス」の通販サイトもイベントと並行しつつ、さらに充実させたいですね。
でも、本当は、何にも縛られずに作品作りに没頭できる時間がほしいです。そして、モアイ像に続くような新作をたくさん作って、見てくださる方・手に取ってくださる方たちに喜んでいただきたいですね」
取材・文:安倍川モチ子
WEBを中心にフリーライターとして活動。現在は、「withnews(ウィズニュース)」「Business Jounal(ビジネスジャーナル)」などで執筆中。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。
撮影:北川博基