日本一の凄腕「ペット探偵」に密着…わずか15分で迷い猫を発見!
緊迫の捜索現場に密着 自らの家出&野宿経験を活かして4000件もの失踪事件を解決
鋭い眼光の先には一匹の猫がいる。ハンディライトを右手に、左手にロープを持ち、静かに距離を詰める。俳優の吉川晃司を思わせるこのダンディな男の名は藤原博史(52)。「ペット探偵」である――。
藤原は動物専門の探偵として26年間のキャリアの中で、ペット失踪事件を全国で4000件以上、解決してきた。その発見率はなんと8割。日本一の凄腕と呼ばれる藤原の原点は中学時代にあった。
「親の期待や学校教育に嫌気が差して、中3で家出をしたんです。ホームセンターの売り場にある物置や犬小屋で夜間に勝手に寝たり、公園で犬や猫と野宿したりしていました。その中で、動物の行動や習性、個体による性格の違いが見極められるようになったんです」(藤原)
コロナ禍で在宅ワークが普及し、飼い主と過ごす時間が激増。ペットもストレスが溜(た)まっているのか、藤原のもとに一日20件以上の問い合わせが来るという。
「迷いペットの捜索において、ターゲットを擬人化してしまうと発見に繋(つな)がらないという考えが根底にあります。対象となる動物側に立った視点が大切です。ペットも人間と同じで、個体により性格や行動パターンが異なる。その個体差を見極め、捜しているペット一匹、一匹にチャンネルを合わせていくのが私の流儀ですね」(藤原)
依頼の7割は猫、2割は犬、残りの1割が鳥やミーアキャットなどのエキゾチックアニマルだ。藤原によると、今年5月に横浜市で逃げ出したアミメニシキヘビのように、迷いペットは身近な場所にいるケースが大半だという。
「大規模工事を行う家で飼い猫が消えた、という依頼があったんです。現場に着き、私はすぐに屋根裏にいるな、という直感が働いた。依頼主さんは、『こんな騒音がする屋根裏にいるわけがない。家の外に出ている』と言っていましたが、猫は屋根裏で血を吐いて横たわっているところを発見されました。あと数時間遅れていれば、命を失っていたかもしれません」(藤原)
声一つ出せない捜索現場
神業を検証すべく本誌は藤原の捜索現場に密着。冒頭はその一シーンである。
迷い猫の捜索が始まったのは15時。ターゲットは茶トラ猫の「マロン」だ。藤原がまず行ったのは飼い主へのヒアリングだった。いつからご飯を食べていないか、その猫がどんな性格なのかを把握することが捜索のキーとなるのだという。簡単な質疑応答が終わり、藤原は同行した本誌記者に向かってこう言った。
「たぶん、あの住宅街の一角にいますね」
あまりに早すぎる、と疑いを捨てきれないまま、狙いを定めた住宅を巡ること4~5軒。藤原は突然、手を上げる。捜索開始からわずか15分。「見つけた」と、声を上げた! 藤原は捕獲のため、一度現場を離れ、「罠」を組み立て始めた。
「マロンちゃんはケージが嫌いな猫。だから、ケージが見えないように罠を仕掛けます。捕獲するときは、少なくとも20mは離れててください。声も出してはいけません。敏感な猫はズボンが擦(す)れる音でも逃げ出してしまいますからね」
罠を組み立て終わり、いざ捕獲へ……と思いきや、マロンの姿がない。しかし、藤原は冷静だった。
「隣家に移動したんでしょう」
またもや予想は的中。マロンは隣家のクルマの下にいた。罠をセットし、ニラみ合うこと2時間半。飼い主がエサを手に呼びかけても反応はない。藤原をして「我慢強い」と言わしめたマロンは21時まで籠城(ろうじょう)を続け、この日の捜索は終了。翌日午前、マロンは無事に捕獲され、飼い主のもとへと帰っていった。
「やりがいについてよく聞かれますが、大義はとくにないんですよ(笑)。いままでも、これからも地味な活動の延長線上に、人と動物の幸せに繋がる何かを形として残していきたいですね」
孤高のペット探偵は、今日も依頼を受けて街を歩き続ける――。
『FRIDAY』2021年6月25日号より
- 撮影:濱﨑慎治