黒木華『イチケイのカラス』で演劇の女神に愛された「不思議な縁」 | FRIDAYデジタル

黒木華『イチケイのカラス』で演劇の女神に愛された「不思議な縁」

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『イチケイのカラス』の撮影現場で凛としたパンツスーツ姿を見せた黒木華

春期の月9ドラマ「イチケイのカラス」(フジテレビ系)に女優・黒木華が出演することを知り、期待する反面、なぜ今更”月9”なのか。”黒木華の無駄遣い”などと揶揄されなければいいがと思ったのは私だけではあるまい。

しかし回を重ねるごとに、そんな心配は吹き飛んだ。やはり、黒木華は魅せてくれる。

「このドラマは、刑事裁判官を主人公とする民放初の連続ドラマ。黒木が演じる坂間千鶴は、髭を生やし法廷の法壇から降りて被告や証人に話しかける型破りな裁判官・入間みちお(竹野内豊)の暴走にやきもきする堅物のエリート裁判官。

プロデューサーから『”堅い人”と言う形だけじゃなくて、悩みや入間さんと出会ったことで揺れる心を表現して欲しい』と言われ、『それなら面白く演じることができそうだ』と黒木自身も手応えを感じていたようです」(ワイドショー関係者)

そんな黒木演じる坂間千鶴の見せ場が、第4話にやってくる。遊園地の売上金5000万円を盗んで17歳の被告人が逃走。警官に追われ、赤羽駅前のビルの非常階段から盗んだ現金をばらまく。

「法律なんてクソだ」

と言い放つ少年に対して坂間は、”職権を発動”。事件の捜査を裁判所主導でもう一度やり直すと、見えなかった真実が白日の下に晒される。

法廷で「お前に何がわかるんだ」と暴れる少年に対して、坂間は法壇から降り

「許さなくていい。あなたの苦しみ、憤り受け止めます」

と静かに諭すと

「辛い経験があるからこそ今がある…と思える日が来ることを心から願っている」

と静かにエールを送る。これに対して

「自分を裁くことに、これだけ苦しんでくれる人がいる。それが少年にとって救いになったはず。坂間さんにしかできない裁判だった」

と語りかける入間。すると、誰もいなくなった法廷から、唇を噛み締め嗚咽する坂間の声が聞こえる。この場面こそ、坂間の”揺れる心”を演じきった黒木華の神回ではなかったか。

このシーンを観ながら、私は山田洋次監督の映画『小さなおうち』を思い浮かべていた。

「それは、出征する不倫相手・板倉(吉岡秀隆)に逢いに行こうとする時子(松たか子)を、黒木演じる女中のタキが、玄関先で必死に止めようとするクライマックスシーン。

そこにはタキの板倉へのほのかな恋心も含めた複雑な思いと、女優・黒木自身が名匠・山田洋次監督に挑む思いが見事に溶け合い、観る者の心を揺さぶる素晴らしいシーンが生まれました。この作品で黒木はベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を若干23歳の若さで受賞しています」(制作会社プロデューサー)

黒木華の女優としてのキャリアは、華々しい。日本アカデミー賞に限っても、最優秀助演女優賞を『小さいおうち』『母と暮せば』『浅田家!』で三度受賞。初めて単独主演を務めた『リップヴァンウィンクルの花嫁』で優秀主演女優賞に輝く。

しかし黒木は元々、映画やテレビドラマ出身の女優ではない。舞台女優としてキャリアをスタートさせている。

「黒木は大学在学中に大阪で行われた『野田秀樹のワークショップ』への参加をきっかけに、‘10年NODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』のオーディションを経て野田秀樹、中村勘三郎の三人芝居に出演。

当時の黒木について『ワークショップの時から、台詞に非常に間とか、幅があって』『10代だったんですけど、”この子は、伸びしろが大きいんじゃないかな?”と思っていたら、やはりどんどん伸びていきましたね』と野田は話しています。その後も阿佐ヶ谷スパイダースや蜷川幸雄などの舞台で存在感を示し、演劇界期待の新人として注目を集めていました」(前出・ワイドショー関係者)

コミュニケーションをとることがあまり得意ではなかった黒木は母の影響もあって、演じることが好きになった。彼女はインタビューなどで

「自己表現が苦手で、お芝居だと素直に感情表現ができる」
「いつか、出演作を見て”ああ、見たことのない自分が引き出せた!”という体験をしてみたい」

と演劇への思いを口にしている。目立たない物静かな子が、女優として役を演じることで輝くミューズに変身する。黒木は、演じることで自分の居場所を見つけ、新しい自分を発見する喜びに目覚めたのかもしれない。

「黒木はそんな思いを胸に、演劇の大会で全国優勝を遂げたこともある名門高に進学。平日は勿論、土日も練習漬けの高校生活を送り、気がつけば1年から卒業まで全公演で主役を演じてきました」(前出・制作会社プロデューサー)

そんな黒木を、劇作家であり気鋭の演出家でもある野田秀樹が発見する。そこに”不思議な縁”を感じてしまう。

黒木は取材などで”尊敬している女優”として松たか子の名前をあげているが、そのきっかけとなったのが高校生の時に観た野田秀樹脚本・演出の舞台『贋作・罪と罰』。この時ヒロインを演じていた松の演技に心打たれたことが、黒木の女優人生の原点だ。

そんな黒木が野田秀樹の抜擢で舞台デビューを飾り、映画『小さなおうち』のオーディションでタキ役を勝ち取り、憧れの女優・松たか子と共演。女優として大きな飛躍を遂げるのだから、女神のいたずらなのか不思議な縁を感じざるを得ない。

そして、もう一つ。

「『イチケイのカラス』の第9話では、坂間が判決を下した事件の被告人から逆恨みされ、裁判所の階段から突き落とされ、間一髪のところを入間に助けられるという場面が登場します。このシーンが大ヒットドラマ『HERO』(フジテレビ系)の第1期の第9話、松たか子演じる雨宮が何者かに狙われたことがきっかけで、久利生(木村拓哉)と急接近する場面を思い起こさせるといった声がネット民から上がっています」(放送作家)

これも”不思議な縁”のなせる技なのか。それは、「演劇のミューズ」だけが知っているのかもしれない――。

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

  • PHOTO近藤 裕介

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