55億円詐欺の背景にあった「積水ハウスクーデター」の真相 | FRIDAYデジタル

55億円詐欺の背景にあった「積水ハウスクーデター」の真相

「五反田・地面師事件」 舞台となった旅館は取り壊され、30階建てのタワマンに……

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東京・五反田にある古びた旅館が舞台となった「地面師事件」をご記憶だろうか。’17年6月、他人の土地を持ち主に成りすまして勝手に売却する「地面師」のグループが、旅館『海喜館(うみきかん)』の所有者を装い、積水ハウスから約55億円を騙(だま)し取ったことが発覚した。

現在の海喜館跡地。右手に見えるのが桜田通りで、まっすぐ進むと五反田駅がある。建物の完成は’24年3月の予定だという
現在の海喜館跡地。右手に見えるのが桜田通りで、まっすぐ進むと五反田駅がある。建物の完成は’24年3月の予定だという

「世間では、大胆で狡猾(こうかつ)な地面師たちによって積水ハウスという大会社でも騙されてしまう恐ろしい事件と捉えられているかもしれませんが、実態はまったく異なります。海喜館事件は『騙されるはずがなかった事件』です。調査対策委員会の資料などにより、積水ハウスには引き返すタイミングが少なくとも9回はあったことがわかっている。にもかかわらず、まんまと莫大なカネを奪われたのです」

そう語るのは、5月28日に『保身 積水ハウス、クーデターの深層』を上梓(じょうし)した藤岡雅(ただし)氏。『保身』では、積水ハウスがなぜ騙されたのか、そしてその背後で起きていた積水ハウス社内のクーデターの真相が初めて明らかにされている。

まず、海喜館の取引をめぐる積水の対応は杜撰(ずさん)すぎるものだった。所有者だと言い張る偽物の地主の写真を持って海喜館の近隣住民に本人確認をすれば、すぐに見破れたはずが、まったくしようとしなかった。さらに司法書士と本人確認証明を作成する際、地主に扮(ふん)した偽者が、記入する誕生日を間違えたこともあった。それでも取引をストップしようとしなかったのだ。このような、地面師たちのたくらみを見破れるチャンスが都合9回あったのだという。では、なぜ積水は見抜くことができなかったのか。藤岡氏が語る。

「積水が性急に取引を進めてしまったのは、海喜館が都心のど真ん中の600坪の土地という不動産業を生業(なりわい)にする者にとって垂涎(すいぜん)の的であり、購入したいと考えるライバル業者が多数存在していたという背景があります。ただ、何より大きかったのは、取引を進めている最中に、積水ハウスの社長(当時)の阿部俊則氏が海喜館の現地視察を行ってしまったこと。

これにより積水社内では海喜館は『社長案件』となってしまった。当時、積水ハウスでは、社長案件は速やかに対応するという圧力が高まっていた。そのため、担当者たちは、地面師らの不可解な行動を何度も目撃しても、目をつむり、成約に向けて暴走してしまったのです」

そうして杜撰な取引を強行し、55億円というカネが闇へと消えてしまった。

海喜館の事件が発生してから半年あまりが経った’18年1月、積水ハウスで「クーデター」が起きた。会長(当時)の和田勇氏が、阿部氏の出した解任動議により、会社を追い出されたのだ。これも実は海喜館事件が発端となっていた。

「会長だった和田氏は海喜館事件の調査報告書を受けて、阿部氏の責任が大きいことを確信し、彼を退任させようと考えていた。それで’18年1月に和田氏は取締役会で阿部氏の社長解任の動議を諮(はか)ったところ、これを否決される。返す刀で、阿部氏が会長解任の動議を出し、和田氏は辞任に追い込まれたのです。

’17年11月に海喜館事件の調査対策委員会の中間報告書が出され、責任が追及されることを察知した阿部氏は危機感を持った。それでクーデターを決意したと考えられます」(藤岡氏)

阿部氏の解任動議に反対し、さらに和田氏を追い出した取締役の大半は、海喜館事件の際の「不動産稟議書」に賛成していた。自身らも責任を追及されることを恐れ、クーデターに加担したのだ。

和田氏は会社を追われたが、阿部氏はいまも「特別顧問」として積水に残り続けている。’20年12月に出した総括検証報告書の中で、積水は海喜館事件における阿部氏の責任を認めていない。

すべての発端となった海喜館は、後に旭化成不動産レジデンスが購入した。

「海喜館は取り壊され、昨年6月頃に更地になりました。地上30階建てのタワーマンションになるようです」(近隣住民)

前出・藤岡氏が語る。

「この事件は、まさに日本型組織の欠陥を象徴していると思います。第二、第三の海喜館事件が起きる可能性は十分にあるでしょう」

地面師たちはすでに動き始めている。

事件が発覚した頃の海喜館。敷地には樹木が鬱蒼と生い茂り、まるで森のようになっていた
事件が発覚した頃の海喜館。敷地には樹木が鬱蒼と生い茂り、まるで森のようになっていた
積水の阿部元社長(右)と和田元会長。二人はかつて親子のような関係だったが、たもとを分かつこととなった
積水の阿部元社長(右)と和田元会長。二人はかつて親子のような関係だったが、たもとを分かつこととなった

「FRIDAY」2021年6月25日号より

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