開けても閉めても地獄の飲食店…「要請に応えるのはもう限界!」 | FRIDAYデジタル

開けても閉めても地獄の飲食店…「要請に応えるのはもう限界!」

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「カフェ ラ・ボエム」が、“予約の取れないイタリアン”に!?

「モンスーンカフェ」や「カフェ ラ・ボエム」を運営する株式会社グローバルダイニングが好調だ。2021年4月度の全店合計の売上高は前年同月比で467.4%、5月度は230.4%となり、以前の勢いを取り戻しつつある。特に5月の既存店の客数は、コロナ禍前の2019年同月比と比較しても101.5%増となり、客単価も130.5%増加した。 

同社といえば、東京都を相手取った訴訟を起こした企業として知られている。2回目の緊急事態宣言時に通常営業を継続していた頃から、業界内ではグローバルダイニングに賛同する声は多くあった。しかし、大きく潮目が変わったのが、3回目の緊急事態宣言が延長された6月1日からだ。

当時、「入院者数」「重症者数」と「病床使用率」いった、緊急事態宣言発出の一つの基準となる医療圧迫を示す数字が低下していたり、国や都、分科会で見解が食い違ったり、東京オリンピックは断固として開催する姿勢が示されたりしていた。一方で、3回目の緊急事態宣言中は、「日本医師会会長・中川氏のパーティー参加」や、「代々木公園に五輪パブリックビューイング設置」 「東京五輪・パラ選手村の酒類持ち込み可能と判明」といった、自粛している飲食店を逆撫でするようなニュースも次々と起きた。

緊急事態宣言の意義とは何か。どんなエビデンスがあって続けられており、なぜ飲食店が自粛を求められているのか。そもそも入店率でなく、営業時間だけを制限する理由を、明確に説明できる人は少ないだろう。こうした状況を踏まえて、宣言が形骸化し、グローバルダイニングに追随するかのように通常営業を再開する飲食店が増え始めた。

その行動の裏には生半可ではない覚悟が隠されている。その背景を理解する前に、年明けからの飲食店が置かれた状況を、振り返っておこう。

板橋区でドミナント展開を行う、株式会社AIYOクリエーションの「中仙酒場 さぶろく」の店前。同社代表取締役社長の長岡雅也氏が、直筆で現状を記した貼り紙が張り出され、飲食店を取り巻く苦境が広く知れ渡った
板橋区でドミナント展開を行う、株式会社AIYOクリエーションの「中仙酒場 さぶろく」の店前。同社代表取締役社長の長岡雅也氏が、直筆で現状を記した貼り紙が張り出され、飲食店を取り巻く苦境が広く知れ渡った
時短要請に従わない同社に対し、施設使用制限命令を発出した東京都を被告として、訴訟を起こした株式会社グローバルダイニング長谷川耕造社長。写真は、日本外国特派員協会での記者会見(写真:アフロ)
時短要請に従わない同社に対し、施設使用制限命令を発出した東京都を被告として、訴訟を起こした株式会社グローバルダイニング長谷川耕造社長。写真は、日本外国特派員協会での記者会見(写真:アフロ)

まともな経営ができない飲食店の現状 

実は、東京都では年明けから緊急事態宣言が続く、“異常事態”となっている。1月8日から3月21日まで2回目の「緊急事態​宣言」(対象エリア/東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡、栃木、岐阜、愛知、京都)が発出された。その後、3回目の緊急事態宣言(対象エリア/東京、大阪、兵庫、​京都、福岡、愛知、北海道、岡山、広島、沖縄)が4月25日に発出され、現在もなお続いている。

しかも緊急事態宣言が解除されていた間も、東京都は4月12日から24日まで「まん延防止等重点措置」を適用していた。つまり、年明けから通常に営業できた期間は、3月22日から4月11日までの3週間あまりしかない。3回目の宣言が明ける予定の6月21日からは、再び「まん延防止等重点措置」に切り替わるので、状況に代わりはない。

なお、3月22日から31日の間も営業時間は21時までで、4月に入ってからも3回目の緊急事態宣言が出る24日まで21時までの営業の要請が続いた。それに加えて、席を間引きしているので、年明け以降、要請に従っている飲食店は店のポテンシャルをフルに活用して営業ができていないのだ。

東京都の飲食店が年明けから通常に営業できた期間は、3月22日から4月11日までの3週間あまり(写真:アフロ)
東京都の飲食店が年明けから通常に営業できた期間は、3月22日から4月11日までの3週間あまり(写真:アフロ)

協力金でも赤字! 飲食店経営の内幕 

とはいえ、協力金があるのではないかという声もありそうだ。確かに、東京都の場合、2回目の緊急事態宣言では要請に応じた飲食店に対して、1店舗あたり1日6万円、1月あたり最大180万円の協力金が支払われた。また、3回目の緊急事態宣言ではより実態に併せた支給が実現し、中小企業は売上高に応じて1店舗あたり1日4万~10万円、大企業は売上高減少額に応じて1日最大20万円の協力金が支払われる。

それだけあれば、十分に経営を存続していけそうだと感じる方も多いだろう。しかし、事はそう単純ではない。ここで押さえておかないといけないのが飲食店の儲けの仕組みだ。例えば1カ月で1000万円を売り上げていた飲食店があったとしよう。

すると業態によって多少のバラつきはあるが、飲食店の利益率は10%ほどのため100万円が手元に残る。その利益は、売上から経費を引いて導き出された数字だ。飲食店の経費は「FLRコスト」が70%を占めている。Fはfood(材料費)で、Lはlabor(人件費)、Rはrent(家賃)だ。

休業 or 営業? 進んでも戻っても地獄

コロナ禍での飲食店の対応は、完全に休業する場合と、制限内で営業する場合に分かれる。それぞれの場合について、なぜ協力金では経営を存続していけなくなるか紐解いていこう。

a)休業した場合 

休業する場合、売上は0となるが、Fは掛かからない。また、Lも雇用調整助成金があるのである程度以上まかなうことができるだろう。問題はRだけだ。家賃は売上の10%程度が適切だと言われているので、先ほどの例の場合100万となる。

こう計算をすると、1月あたり最大180万円の協力金で利益が残ると思われるかもしれない。しかし、借入の返済やリースの支払い、そして水光熱費といったコストも経費の20%ほどを占めている。1000万円の売り上げなら200万円ほどだ。コストカットに成功して150万円ほどにしたとしても、1月あたり最大180万円では赤字となってしまう。

月の売上が1000万円ある店舗は、少し規模の大きな店舗となる。規模が小さいと、その分、売上が小さくなって利益も減る。一時期、「協力金バブル」という言葉があったように、一店舗だけの展開だったり、家賃が安かったりする店は協力金で逆にうるおったところもあるだろう。

しかし、うるおったような飲食店は少数に過ぎない。現在、市場に与えるインパクトが大きい、店舗数や雇用人数が多い中堅以上の企業では店舗数が減っている。東京商工リサーチの調査によると、上場するレストラン運営企業11社の店舗数は直近決算で8437店となり、1年間で678店も減少したことが分かった。3回目の緊急事態宣言で規模に応じた支給に変わったが、多少の是正がされたというだけで、経営が苦しいことに変わりはない。

なお、協力金が減ったことで、さらに厳しい局面に立たされる小規模事業者がいることも忘れてはならない。

b)営業した場合 

一方で、営業した場合はどうだろう。FLRは全てかかる上に、雇用調整助成金はもらえない。それに営業をしたとしても、売上はコロナ禍前の80%もあればいい方だ。つまり、1000万円を売り上げていた店は、800万円ほどの売上になってしまう。

ここで問題になるのが損益分岐点だ。飲食店を出店する際、100万円の利益を出すためにいくら売り上げて、いくら経費を使うかと決めて、利益額を導き出す。1000万円を売り上げるなら、損益分岐点はおおよそ750万くらいだ。それなのに売上が800万円となると、単純計算で利益は半減するということになる。

もちろん、使う経費の内訳は変わるので、単純に利益が半減したとはいえない。そのやりくち次第では、十分な利益を上げることもできるだろう。しかし、多くの飲食店でそういう訳にはいかない。その原因がアルコール提供の自粛だ。

3回目の宣言時、「ともすれば、大声、長時間となり、感染リスクが高いことがこれまでも指摘されている」と菅総理の説明の下、酒類の提供が終日停止された。それで飲食店のビジネスの前提が崩れたといっても過言ではない。

飲食店は利益“率”の商売だ。コンビニエンスストアやスーパーマーケットのように大量に商品を販売して、仕入れ額と販売額の差から利益を確保する商売ではない。回転率を上げたり、クロスセルをしたり、高利益メニューを作ったりして、限られた席数の中で客数を最大化して、利益を確保している。その要がアルコールなのだ。それを禁止されてしまうと、全ての計算が台無しになり、利益を上げることさえもできなくなってしまう。

6月21日から切り替わる「まん延防止等重点措置」でも、引き続き、アルコールの提供が禁止される見込みなので、厳しい状況はまだまだ続く。

「感染も倒産も抑えるために、飲食店の営業時間の制限を、より合理的なものに見直すことを提言します」日本経済新聞(全国版)5月25日朝刊に掲載された旭酒造株式会社の意見広告
「感染も倒産も抑えるために、飲食店の営業時間の制限を、より合理的なものに見直すことを提言します」日本経済新聞(全国版)5月25日朝刊に掲載された旭酒造株式会社の意見広告

外食産業をどう守っていくのか 

こうした話をすると、「デリバリーを始めればいい」や「赤字がふくらむ前に閉店すればいい」と指摘する人も多い。しかし、どちらを選択しても、飲食店には厳しい未来が待っている。

まずデリバリーだ。デリバリーは利益率ではなく、販売“数”で勝負をしなければならない。その背景にあるのが、デリバリーサービスに支払わなければならない35%ほどの手数料だ。そこで売上の多くを持っていかれてしまうため、なかなか利益を確保することができない。つまり薄利多売が求められるため、個数で勝負する必要がある。そうなると、大手ファストフードチェーンのようにシステムを整えなければならない。個店が売上をカバーするには、大きなハードルが立ちはだかっているのだ。

次に「閉店すればいい」という声もある。しかし、閉店するのにもお金が掛かってしまう。物件の原状回復をしなければならなかったり、退去の6カ月前に通知しなければならなかったり、バランスシートが悪化して借入が難しくなってしまったりと、撤退するにも高いハードルが立ちはだかっている。

そもそも協力金や雇用調整の申請自体、なかなかハードルが高い。普段以上の業務と並行して、複雑な書類に対応する必要がある。無事に申請ができたとしても着金がいつあるのか分からない。さらに少しのミスがあると着金が遅れてしまう。現在、多くの飲食店は、赤字分をコロナ禍が始まった2020年4月ごろに銀行から借り入れた資金でまかなっている。今、銀行からの追加融資の条件は厳しい。そのため当時、借り入れをしなかった飲食店は瀕死の状態に陥っている。

コロナ禍前、インバウンド需要が好調だったとき、多くの外国人観光客が期待していたのは、日本の食だった。その飲食店の多くがなくなろうとしている。インバインド需要が回復した後、彼らは何を楽しみに日本に来るのだろうか。一方で、国内で多くの飲食店が撤退する代わりに、最近、あえて海外進出を目指す動きも出始めている。数年後、外食の空洞化が起き、街で見かけるのは海外からやってきたチェーンばかりといった日が来るかもしれない。

外食産業をどう守っていくのか。それは今後の日本の国づくりをどうしていくかに密接に関わっているといって過言ではない。

  • 取材・文三輪大輔

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