ドーピング違反の中国エース「4年減刑」を促したチャイナパワー | FRIDAYデジタル

ドーピング違反の中国エース「4年減刑」を促したチャイナパワー

中国競泳界のスター孫楊の東京五輪出場はなくなった。それでも「減刑」が波紋を呼んでいるワケ

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2016年8月、リオデジャネイロ五輪の競泳男子200㍍自由形で優勝し、国旗を広げポーズをとる孫楊(写真:共同通信)

ドーピング違反のため資格停止中ながら、東京五輪出場を画策していた、中国競泳界のスーパースター、孫陽(29)について、スポーツ仲裁裁判所(CAS=本部・スイス)は6月22日、8年間の資格停止期間を4年3カ月に短縮する裁定を下した。孫楊の東京大会出場の道は絶たれたものの2024年のパリ五輪出場が可能になった背景を探ると、五輪運動でも覇権を握ろうとするチャイニーズ・パワーが着実に拡大しているのがうかがえる。

ジュネーブ発の「孫楊に減刑」というニュースが、あっという間に世界を駆け巡り、ニューヨークタイムズなどの主要紙が「東京五輪への希望は完全に消えた」と報じた。

「処分が1年に短縮され、あのトラブルメーカーが大手を振って来日するのは避けられましたが、改めて、中国の存在感の大きさを痛感しました。だって、8年を4年、資格停止期間を半分にしたのですから」と五輪担当記者は驚きを隠さない。

孫楊は2012年ロンドン五輪の競泳男子400㍍、1500㍍自由形、16年リオデジャネイロ五輪200㍍自由形の金メダリストで、19年世界選手権光州大会でも200、400㍍の2冠に輝くなど中長距離界の王者として君臨してきた。

2018年9月、杭州にある別荘で行われた抜き打ち検査で、検査官の資格と手続きに問題があるとクレームをつけ、ボディーガードに血液検体をハンマーで破壊するように命じる暴挙に出た。

重大な違反行為なのに、国際水泳連盟(FINA)は警告でお茶を濁し、翌年、韓国・光州で開かれた世界選手権出場を許され、400㍍自由形で史上初の4連覇を成し遂げた。

レース後、事件が起きる。孫楊が誇らしげに表彰台の真ん中に立つと、2位のマック・ホートン(オーストラリア)が表彰台に上がるのを拒否。また、200㍍では3位のダンカン・スコット(イギリス)が記念撮影に加わろうとせず、一触即発の事態までに発展した。

2019年7月、韓国・光州で行われた世界選手権の競泳男子400㍍自由形の表彰式で、金メダルを手にする孫楊(中央)と、表彰台に上がらず抗議の意志を示すオーストラリアのホートン(左、写真:共同通信)

ドーピングはフェアプレー精神に反し、自らの身体を蝕む危険性がある。興奮剤や筋力増強剤などを使用して競技力をアップするのは、極めて悪質な行為として摘発、排除されてきた。

そのため、トップアスリートは行動スケジュールを事前に提出して、検査官が夜遅くに突然、自宅や合宿地を訪れても尿検査などに応じる義務を負う。

「ある有名女子選手が夜10時頃に自宅マンションに押しかけられ、検査員の横柄な態度にキレて110番通報し、警察沙汰になったことさえあります」(JOC担当記者)

プライバシーなどなく、24時間、365日監視されているといっても過言ではない。精神的ストレスに打ち克ちながら、厳格なルールを守っている選手にすれば、やりたい放題の者を勝者として、いや、同じアスリートとして認めないのは当然である。

世界反ドーピング機関(WADA)は遅まきながら、孫楊の検体破壊は重大な違反行為と認定してCASに告発、公開聴聞会などの手順を踏み、20年2月に8年間資格停止処分が下された。

この時点で、東京五輪出場への道は完全に閉ざされたはずだったが、孫楊はCASの本部がスイスにあることから、同国の連邦最高裁判所に提訴し、聴聞会にアジア人に偏見を持つメンバーがいたという主張が認められ、審理差し戻しを勝ち取った。

今年5月末に、再び聴聞会を開かれると、これまでの傲岸不遜な言動を改め、素直に検体破壊を認め、事実関係を争わなかった。海外メディアは「新たに雇ったドーピング問題に精通している弁護士のアドバイスを受け入れ、〝危険な男〟というイメージを払拭して好印象を与えて流れを変えた」と分析する。

もちろん、本心かどうかは分からず、大きな過ちを反省しているかのように装ったのかもしれないが、巧妙な法廷戦術が功を奏したといえる。

今回の裁定の背景に中国の国家戦略があるのを見逃してはならない。2022年北京冬季五輪の開催決定後、国際オリンピック委員会(IOC)と濃厚接触を図ろうとしていたとき、意外なところから、チャンスがやってきた。

米ファーストフードのマクドナルドが2017年、「五輪には重要な価値がなく、費用対効果を期待できない」と、IOCのスポンサーの中で最高ランクの「ワールドワイド・オリンピック・パートナー(TOP)」から撤退してしまった。同社は1976年からTOPとして40年間にわたり、IOCに貢献してきたのに契約を解除した。

機を見るに敏というか、IOCの財政的苦境を見透かすかのように、莫大なチャイニーズ・マネーが窮地を救おうと活発に動き出す。

「早速、電子商取引の『アリババ』が手を挙げてTOP入りを果たし、2021年からは乳製品メーカーの『蒙牛』という会社が加わりました。ノンアルコール部門をコカ・コーラとともに担い、両社合わせて10年間で総額30億ドルにも達するスポーツ史上最大級の契約を結びました」(ベテラン記者)

今年5月には、習近平国家主席とIOCのトーマス・バッハ会長が電話で会談、北京五輪成功に向けて協力していくことで一致した。香港の民主派弾圧や新疆ウイグル地区の人権問題で米中関係の緊張度が増し、欧米にはボイコットの動きさえある。それだけは絶対に阻止したい中国は、バッハ会長から「政治を持ち込むのは反対」というお墨付きをもらって、勢いづいている。

孫楊個人にすれば、あと3年も待つのは長く、32歳で迎えるパリ五輪まで選手生命を維持できるか危うい。

「中国政府は母国の英雄を東京大会に出場させたいのはヤマヤマとはいえ、そこまで望んだら各国から非難を浴びるのは必至で、北京大会に悪影響を及ぼしてしまう。8年の資格停止を4年に短縮するというのが、落としどころだったのでは」(ベテラン記者)

平和を推進するために世界規模で開かれる五輪も、中国抜きで身動きできないことを証明し、東京大会閉幕後、一気に主導権を握るための弾みになったといえる。「孫楊減刑」の波紋は今後、大きく広がっていくのではないだろうか。

来年の冬季北京五輪開催に向けて協力体制を確認した国際オリンピック委員会・バッハ会長(左)と中国の習近平国家主席(写真:共同通信、撮影は2019年当時)

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