全ての人を幸せに 新装したけど「ほぼ変わらない」洋菓子店の想い | FRIDAYデジタル

全ての人を幸せに 新装したけど「ほぼ変わらない」洋菓子店の想い

「ケーキは不要不急か」東京神田・近江屋洋菓子店のケーキ哲学

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創業136年の近江屋洋菓子店がリニューアルした。

創業136年の近江屋洋菓子店がリニューアル。新しくなったこと、変わらないこと。5代目店主が語る「ケーキへの思い」が熱い

「大好きなお店ですが、60年経っていろいろ不具合もあったので」

リニューアルを決意した5代目店主・吉田由史明さんは言う。そして新しいお店は…あんまり変わっていない。

45日間休業して工事をしたんです。天井や壁は張り換えました。でも、内装は昔のままです。

この建物になって60年、多くのお客様に来ていただいて、この店の雰囲気が好きと言ってくださる方もいます。だから、雰囲気はそのままにしました」

L字の大きなショーケースには、得意のフルーツを使ったケーキ、定番の3種のいちごショート、サバラン、チョコレートケーキや焼き立てのアップルパイなどが、ぎっしり並んでいる。

できたてのケーキを2階の工場から「直送」する
1884年(明治17年)創業。炭屋としてスタート、すぐにパンの販売を始めた。近江屋のパンは小ぶりでみっちりした食感が特徴的。種類豊富な甘いパンや調理パンが並ぶ

「開店の時間に合わせて、ケーキやパンを仕上げてたっぷり並べます。生菓子は15種類くらい。定番のケーキと、季節の果物を使ったケーキです。うちは2階が工場なので、売れ行きを見ながらつぎつぎ作って補充していきます。パンはお昼過ぎには売り切れてしまいますが、閉店までお客様をがっかりさせないように商品を切らさないように、その日のお天気なども参考にして目を配っています」

1884年(明治17年)創業。リニューアル前の店舗は3代目が建てたものだ。

「老朽化で、空調や電気設備が限界だったんです。残したいもの、変えなければいけないものを、しっかり受け止めて始めました」

残したいものは、なにより「店内の雰囲気」。

「いらしてくださったお客様が『変わっていなくてうれしい』と。僕自身も大好きな店なので」

天井は鮮やかなブルーに。石の床は、そのまま使っている。なにより天井が高く広々した空間は気持ちいい。

リニューアルした店内(写真:Shohki Eno)

「なるべく残す」とはいえ、工事の前に、長年使っていたあれこれを整理した。

「昔使っていたティーセット、クッキー缶、チョコレートの型など、片付けていくうちに懐かしいものが、次々でてきました」

お店のテーマカラー「青」をデザインした昔のクッキー缶は、モダンでクールな印象
かつて喫茶で使っていたティーセットと「ばんじゅう」。ロゴは変わっていない

美味しいケーキをしっかり作るためだけに

「45日の休業中、従業員には、お給料はそのままで丸ごと休んでもらいました。僕も、ゆっくりしてました。

けど、お店を再開して、また元通りみんな仕事をしています。リニューアルで空調は変えましたが、あとは何も変えていません。ケーキの作り方も、毎朝市場に行くのも今までどおり」

お寿司屋さんが市場に魚を仕入れに行くように、毎朝、青果市場に果物を買い付けに行っているのだ。

「旬のフルーツで季節感を感じさせることができるのは、洋菓子だからできること。青果市場に通い続けるのは、目でも舌でも季節を味わってほしいからです。今日いちばん美味しいものをケーキにして、食べてもらいたいんです」

フルーツをふんだんに使ったケーキは近江屋洋菓子店の人気商品の一つ。初夏の今は、マンゴー、メロン、桃などのケーキがショーケースに並ぶ。

「桃のケーキの名前は『もも』。最高級の桃を丸ごと1個使っています。おいしいものは、たくさん食べたいでしょう。だから、山盛りにするんです」

市場で「これは」というものを見つけたら、あるだけ仕入れる。フルーツのタルトや桃のケーキは1日150個ほども作るとか。

「いちばんいい果物を仕入れることができるのは、昔からの長いお付き合いがあってこそ。僕一人の力では何もできない。先祖に感謝しています」

「もも」は1個1200円。

「ちょっと高いなとは、思います。原価を考えるとかなりがんばっているんですが。高価なケーキは自分へのご褒美。ストレスが溜まってしまったときリフレッシュするために選んでもらえたらと。コロナ禍でなかなか遊びにも行けない今、エンターテインメントの一つとして楽しんでいただければと思います。そしてもちろん、お支払いいただいた金額に見合う、それを超える満足がいただけるクオリティのものを作らなければといつも考えています。それは、1000円のケーキだけでなく、定番のケーキでも同じ思いです」

直径7−8センチの大きな桃ケーキはその名も「もも」。なかにはカスタードクリームがたっぷり入っている
旬のフルーツだけを使った季節のケーキたち。台のケーキ部分ももちろん美味しい!

ふだん着で食べられる「リーズナブルだけど、チープでない」お菓子を

定番のケーキはどれも、東京のケーキ屋さんとしてはリーズナブルだ。

「リーズナブルだけど、チープでない洋菓子を目指しています。これは、創業のころから変わらないテーマなんです。特別な日に食べるのではなく、おなかが空いたなと思ったとき、冷蔵庫から出して、小腹をなだめる。そんな、ふだん着感覚で楽しんでもらいたいんです」

ショートケーキ、サバラン、チーズケーキ、ショコラなど定番ケーキは、300〜400円台。だが、製法にはこだわっている。

「うちのケーキはずっと、いい材料を使っています。レシピは、時代に合わせて少しずつ変えています。そうしなければ、あっという間にお客様は離れていってしまいますから。でも、変えないところもあるんです。

たとえばスポンジは、ハチミツや水あめを加えた、ふんわりした食感のものが主流ですけど、うちは昔から小麦粉と卵と砂糖だけ。だから、しっかりした生地に焼き上がります。僕は、これがおいしいと思うからなんです」

と、ケーキ職人のプライドを見せる。

「うちのマドレーヌは、バターをたっぷり使うので、機械にかけられないんですよ。でも、やっぱりこれがおいしいから」

変えるところは変える。変えなくてもいいと思うところは変えない。ケーキ作りにもこの精神が生きている。

マドレーヌには、刻んだレーズンが入っている。ほろっと割れる硬めの生地にバターの香り

「うちのお菓子に関わるすべての人に幸せになってほしい」

最近、変化が一つ。長らく店頭になかったシュークリームが不定期ながら販売されるようになったことだ。

「シュークリームはパティシエの技術力の塊のようなお菓子で、とても手間と時間がかかるんです。シュークリームを作ると、職人さんに長時間働いてもらわないといけない。おいしいものを作り続けるためには、休息も大事なので、いつも労働時間のことを考慮しちゃいます」

シュークリームは不定期販売。鮮度が命のカスタードクリームを詰める

誠実に作ろうとすると、負担が大きい…そのため、シュークリームはしばらくお休みしていた。しかし、「シュークリームはないんですか」というお客様の声に押されて復活。サクサクの生地にカスタードクリームがたっぷり詰まった、近江屋洋菓子店特製品だ。

「今はまだ不定期ですけど、安定的にお客様にお届けできる目途がついたら、定期的に出せたらいいなと思っています。従業員の負担に配慮しつつ、お客様の声には、利益が少ないことでもなるべく応えたい。お客様も、従業員も、うちのお菓子に関わるすべての人に幸せになってほしいですから」

年中無休の近江屋洋菓子店だが、スタッフは週休2日。職人さんのなかには先々代から50年以上働いている人もいる。

「僕が店を引き継いで、まだ3年。今まで働いてくださった方には、まだまだ返せていない。これからの課題です」

創業以来、これまでに商品になったケーキは「100種類は超える」という吉田さん。美味しいケーキで、全ての人を幸せに。近江屋洋菓子店のケーキが、また食べたくなった。

定番のいちごショートも、時期によっていちごの産地を選んで作る
高級果物店に負けない素材が自慢
フィルムを外すと崩れてしまいそうな山盛りのマンゴーに感動する
改装前の片付けで出てきた。「木製のチョコレート型は、初めて見ました」と、吉田さん
昭和中期?の店内写真。だが、今とあまり違っていない…
現在の店内。入ったところに焼き菓子、奥に生菓子。左手にはパンが並ぶ。奥の喫茶は「しばらくお休み」
甘いパンだけでなく、お惣菜パンも充実
毎朝市場で買い付けるフルーツで作るフルーツポンチや、季節によっては苺ミルクも
包装紙も昔のまま。レトロなタッチが可愛い
  • 取材・文中川いづみ

Photo Gallary19

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