機械と本当に合体したヤバイ男が明かす「サイボーグ化の魅力」
カナダ発 ラス・フォックス氏 (39)が語る 身体のいたるところにチップが埋め込まれ、手をかざすだけでドアを開錠、バイクのエンジンも始動
「なぜオレはサイボーグになったのかって? テクノロジーによって、常に自分の機能をアップデートできるからさ」
そうウインクするのは、バンクーバー(カナダ)在住のピアッサー、ラス・フォックス氏(39)。20年前、タトゥーやピアスを身体に施したことを発端に身体改造に目覚め、「サイボーグになりたい」という夢を持つに至った奇特な男である。以来、8年にわたって全身をカスタマイズしてきた。
「オレのお気に入りは顔面のタトゥー。左サイドだけに電子基板の模様のホワイトタトゥーを入れているんだ。ブラックライトを当てればホラ、蛍光色でクールに浮き上がるぜ」
舌先を真っ二つに切り裂く「スプリットタン」や額にツノのようなインプラントも施している。見た目はイカツイが、語り口はマイルドで陽気なナイスガイだ。
ラス氏の一番の自慢はマイクロチップやマグネット、電子機器などを体内に埋め込む身体改造「ボディハッキング」。機能的にもテクノロジーと融合し、真の意味で”サイボーグ”になろうとしているのだ。
「ボディハッキングの登場によって、人間と機械が一体化していく未来を日々、実感できるようになったんだ。いよいよ、本当のサイボーグになれる時代が来るね」
現在、一般的に普及しているマイクロチップは、直径2ミリ、全長12ミリの米粒大のガラス管に電子機器が収められたものである。個人認証用に用いられるデータ書き換え不可のRFIDチップと、データ書き換え可能なNFCチップの2種類に大別されるが、ともに電源不要で、非接触で通信によるデータの読み取りが可能だ。しかもNFCチップはスマホと情報を共有できるというスグレモノである。
ラス氏はこの2種のチップを複数、身体に埋め込んでいる。
「左手に入れたRFIDは、玄関のドアを開錠したり、バイクのキーとしても使ったりしている。日常生活で使うことが多いから、利き手の右手で何かを持っているときでも使えるようにしているんだよ。自宅の家具に仕込まれた護身用銃もオレのチップがないと取り出せない。両手に入っているNFCチップには、自分の名刺や自分のプロフィールなどいくつかの重要なビジネス情報が入っているよ。口座番号など個人のセキュリティ情報のチップも埋め込んであるけど、どこに入っているかはヒミツさ」
手のチップは一般的には第1指間腔(親指と人差し指の間の水かき部分)、手の小指側の側面や手首に埋め込まれるのが主流。マイクロチップは専用の挿入器具で埋め込みを行うが、「痛みはほとんどないよ」(ラス氏)。
筆者がラス氏の自宅を訪ねた際には、手かざしで玄関のドアを開錠し、バイクに跨ると同時にエンジンをかけられる非接触型チップならではのスピード感に驚かされたものである。マイクロチップをめぐる最新事情についても聞いた。
「マイクロチップの技術はどんどん加速している。体温などの身体情報をワイヤレスで外部配信する電子機器の埋め込みや、マイクロチップによるキャッシュレス決済などもすでに実用化にむけて試験が行われている。オレが注目しているのは太ももに設置するハードディスクや手の甲に入れて手の動きを読み取るデバイス。今後、どのような機能を付与されるかはまだ実験段階だけど、自分の身体で試してみたいね」
機械と人間が共生する時代はすぐそこに迫っている。



『FRIDAY』2021年7月16日号より
取材・文:ケロッピー前田
ジャーナリスト