コロナ禍の苦境にも負けない「東大ラクロス部のスゴい挑戦」 | FRIDAYデジタル

コロナ禍の苦境にも負けない「東大ラクロス部のスゴい挑戦」

スポーツは不要不急か「スポーツの価値」を問う

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スポーツは不要不急か。マイナー競技「ラクロス」がコロナ禍に挑戦した「アマチュアスポーツの新しい形」とは。東大ラクロス部が日本一を目指す!

先週から、埼玉高速鉄道の車内に珍しい広告サイネージを見かける。

「ラクロス 今をみんなで 自分の未来は自分の手でつくる。」

アマチュアスポーツ「ラクロス」の広告だ。

「ラクロスは、80年代後半に日本に入ってきた新しいスポーツ。日本では、大学で盛んに行われていますが、知らない人も多いマイナースポーツです。だからこそ、できることが多い」

こう話すのは、日本ラクロス協会理事の安西渉さんだ。

「コロナ禍に、スポーツ界全体が停滞しました。日本ラクロス協会は、1年前の昨年6月に、いち早く新型コロナ対応を決めました。そして『蛮勇ではなく真の勇気と知性を携えて』、公式戦の再開を発表したんです」

カレッジスポーツだから、東大も強豪になれる

安西さんには、もうひとつの顔がある。それは東大ラクロス部男子の「メンター」という役割だ。
日本ラクロス協会には、ラクロスチームのコーチや監督、スタッフをしながら働いている人が多い。審判もいる。さまざまなガバナンスを利かせる必要があるが「現場を知っている人が協会運営を担うメリットも大きい」という。安西さんは、母校東大のコーチを務めた後、千葉大学で5年間コーチを務め、再び東大に戻った少し異色の経歴を持っている。加えて、地方を含むいくつかの大学の選手やコーチのメンターも行っているという。

「東大ラクロス部、強いんですよ。

ラクロスの選手って、ほとんどが大学から始めるんです。東大にはスポーツ推薦の制度がありませんから、甲子園出身の野球部員といった経験者はまずいません。けど、ラクロスは大学スタートなので、他大にも経験者は少ない。同じスタートラインで始められるんです。だから、東大も十分勝負できる。

部員のほとんどは、高校時代にバスケやサッカー、野球などの運動部を経験しています。ラクロス初心者ですが、運動経験はあるんです。

男子ラクロスは『地上最速格闘球技』といわれるほどハードにぶつかるスポーツです。一方で、華麗なクロスさばき、そしてかなりの頭脳戦が求められる。非常におもしろい競技なんです」

東大ラクロス部男子は、大学日本一を目指す「強豪チーム」なのだ

東京大学ラクロス部男子、通称「BLUE BULLETS」は関東大学1部リーグで、ほぼ毎年、優勝争いに絡んでいる。コロナ前の2018年と2019年は、関東の大学リーグ戦で準優勝を果たした。

「どちらも決勝で早稲田大学と対戦し、優勝には届かなかった。リベンジの昨年は、コロナ禍で大会の形式が変わるなどイレギュラーなシーズンになりました」

2020年はラクロスだけでなく、あらゆる学生スポーツが活動を制限された。なかでも東大は、学内基準も厳しく、運動部の活動は難しかった。そして2021年。

SNSを駆使した勧誘活動を展開して、今年も25人が入部しました。緊急事態宣言中は、オンラインを駆使したトレーニングをして、今は通常に近い練習をしています。ラクロスというスポーツの特性を活かして、今年は学生日本一を目指すチームです」

リーグ戦開幕を前に6月27日に行われた「オンライン壮行会」には、現役部員だけでなくOBOGも多数参加した。現役の活動のための支援は、常に即座に集まるなど、OBOGからの期待も大きい。

競技人口の9割が「大学からスタート」

大学ラクロスチームは、コロナ禍に、新入生の勧誘にも苦労した。

「ラクロスをやろう!と思って東大に入る学生は、まあ、いません(笑)。でもそれは、他大学も同じなんです。『大学で野球をやろう』『ラグビーやりたい』と思って入る学生はどの大学でもたくさんいますが、ラクロスは違う。春の新歓の時期に、新入生にこの新しいスポーツの魅力を伝えて勧誘するんです。

けれども、昨年今年と2年連続でリアルでの勧誘ができなかった。これはラクロス界全体にとっても大きな試練でした。なにしろ大学スタートのラクロッサーが生まれなければ、ラクロスの競技人口が減ってしまいますから」

競技者の9割が「大学から始める」というラクロス。社会人チームはあるが、国内競技人口の8割が大学生なのだ。この危機に、協会は大きなチャレンジをした。

「コロナ禍だからこそできる、競技としての成長戦略を練りました。まず最初に、ラクロスを宣伝するための資金をクラファンで募りました。2020年春です。そうしたら、想像よりもずっと短い期間で目標を超える支援が集まったんです」

その支援をもとに、マイナー競技ラクロスを知らしめるべく、協会の活動が始まった。SNSでの宣伝やオンラインイベントの開催、さらには、全国の大学ラクロス部員に特化した「キャリアサポートプロジェクト」も行った。パートナー企業も募った。冒頭のサイネージは、その取り組みから展開したという。

日本のラクロスは世界第6位

「ラクロスって知れば知るほどおもしろいんです。例えば男子では、アメリカ、カナダが強豪国。そこにオーストラリア、イングランド、日本などが続きます。それにね、『イラコイ』です」

イラコイ?という国?ですか?

「イラコイは、アメリカ合衆国の先住民の部族。ラクロスはもともと、アメリカ先住民発祥の競技で、部族間の戦いや問題を解決するために行われた『儀式』だったと言われています。

ラクロスの世界大会では、イラコイは他の『国』と同等の立場で出場します。強いんですよ」

ラクロス。かなり奥深い。ユニークな競技かもしれない。

「イラコイチームは、世界大会のために移動する際、一般的なパスポートではなく独自のパスポートを使うため、開催国によっては入国できずに大会に出場できない、ということもありました」

蛮勇ではなく真の勇気と知性を携えて

「ラクロスは、ゴムのボールを網のついた棒で投げて、ゴールに入れる、というゲームです。このまったくもって意味のない『無駄なこと』に圧倒的なエネルギーを注ぎ、心を動かしているのがラクロッサーです。ただ、やりたいから、やろうと決めたから、です」

このラクロスコミュニティには、独特の熱がある。協会の示す命題は、スポーツ界ではあまり見ることのない問いが多い。たとえば、「ラクロスは社会に必要なのか」。

「ラクロスだけでなく、すべてのスポーツは、たとえなくなっても私たちの命を奪いません。でも、これはラクロスが社会に必要ない、という意味ではないんです。ラクロスに情熱を傾けることで多くのものを得て、それを社会に還元する。これは生きていくうえで間違いなく大きな意味があると思うんです」

五輪開催に議論があり、スポーツは不要不急かと問う声も多い。そんななか、このラクロス協会の姿勢は清々しい。

「コロナ禍に、『これを守っていれば感染するリスクはない』と言い切れる基準はありません。2020年は、ガイドラインをもとに、リスクを許容したうえで活動を再開しました」

コロナ禍にラクロスが得たもの

マイナースポーツ、ラクロスは、コロナ禍の危機を知恵で乗り越えようとしている。

「歴史が浅く身軽で、素早い意思決定ができるから、スポーツに希望を与える先進的なチャレンジができます。コロナ禍に得たノウハウ、経験は、他のスポーツ団体にも伝えていきたいです。

ラクロスは、プロ化を目指していません。大学で出会い、社会人としてのキャリアを積みながら競技を続ける。じっさい、2018年の男子世界大会の日本代表選手は、ほとんどが社会の第一線で働いていてデュアルキャリアを実現しています。これからの働き方を視野に入れて、アマチュアスポーツとしての新しい形を作っていきます。

2028年のオリンピックは、ラクロス強豪国、アメリカで開催されます。このとき、オリンピック競技になる可能性が高い。そうなったときに、日本のラクロスにもまた違った景色がみえてきそうです」

地上最速格闘球技ラクロス。マイナースポーツ「ラクロス」の見ている未来は、スポーツ界を変えるかもしれない。ラクロッサーの射程は長く、可能性は無限だ。

「大学リーグは、先日組み合わせ抽選会があり、8月に開幕の予定です。ラクロス協会は『スポーツの価値』を問いながら進んできました。この1年半、苦境のなか活動してきた学生たちが存分にプレイできること願っています」

BLUE BULLETSは今年も「学生日本一」を目指している。東大ラクロス部から、目が離せない。

日本ラクロス協会理事の安西渉さん。ラクロスの「成長戦略」を発表するなど新しい試みを仕掛けている
コーチを務める母校・東大の早朝練習に参加することも。自身も「ファンリーグ」でプレイを続けている
埼玉高速鉄道線(メトロ南北線乗り入れ)の車内で見られる広告サイネージ。これもひとつの実験だという

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