カルロス・ゴーン「逃亡の全貌」映画のヤバすぎる中身
日本を逃げ出してから1年半 無罪をアピールするためアラブの放送会社に全面協力して製作
「映画の内容はゴーンの英雄物語です。彼をよく知らない人が見れば、誰もがゴーンこそ正義で日本が悪に映るでしょう。そういう意味では、非常に出来は良いといえるかもしれません」(ゴーンの知人)
世紀の脱走劇から1年半。かねてから製作が噂されてきたカルロス・ゴーン(67)のドキュメンタリー映画がついに完成した。気になるタイトルは『THE LAST FLIGHT』。製作したのは、アラブ首長国連邦に本社を置く放送会社『MBCグループ』だ。
「中東初の24時間無料衛星放送ネットワークを始めた会社で、アラブ社会では知名度が高い。自身の無罪をアピールしたいゴーンからの熱心な売り込みを受け、製作を進めたと言われています」(全国紙国際部記者)
監督にはドキュメンタリー作品での受賞歴のある英国人、ニック・グリーン氏が起用された。完成した映画は6月4~13日まで、英国のシェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭で上映された。
映画祭で試写を見た英国在住ライターの山口ゆかり氏が語る。
「映画では犯罪かどうかには一切触れず、ゴーン被告の身に何が起きたのかが克明に描かれていました。本人へのインタビューと記録・再現映像を織り交ぜながら、全体がスリリングにテンポよくまとめられている印象です。日本でも撮影していて、解任された弁護士などが登場しインタビューに答えるシーンもあります。レバノンの自宅なのかわかりませんが、ゴーンがプールで悠々と泳ぐ姿や、集中力を養うために射撃練習している様子なども映し出されます」

映画の見せ場はもちろん、「音響ケース」のなかに入り、関西国際空港からプライベートジェットに乗って国外脱出を果たした逃亡シーンだ。監視カメラの映像と再現映像が映し出されるなか、ゴーンが熱っぽい口調で説明を始める。
底に小さな空気穴が開けられた黒い箱に入り、息をひそめるゴーン。最大の難所である空港での手荷物のX線検査では、逃亡請負人のマイケル・テイラー被告が機転を利かせる。空港職員に「高価な楽器が入っているのでチューニングが狂ってしまうと困る」と説明し、まんまとすり抜けることに成功。このとき箱の中のゴーンには、職員たちが「箱の中に美女でも入っているのではないか」と冗談を交わすのが聞こえていたという。
前出のゴーンの知人が話す。
「ゴーンはイスラムの説話集『アラビアンナイト(千夜一夜物語)』に登場するシャター・ハサンというスーパーヒーローに自身を重ね合わせて映画を作っています。ハサンは初め貧乏な漁師でしたが、運と実力で成功を収めていく人物。ゴーンも幼いころにブラジルからレバノンに移住し、苦労を味わいながらビジネスの世界で頭角を現した。日産を建て直したと思ったら逮捕勾留の困難に直面し、そこからも脱出した。自分はハサンと同じヒーローだという筋書きです」
映画の宣伝に余念がないゴーンは最近も昵懇(じっこん)のジャーナリストからのインタビューに応じているが、厳しい質問には決して答えようとしないという。
「先日もドイツの著名なジャーナリストが日本での勾留のことを質問したところ、突然、インタビューを中断して席を立ってしまいました。自分の思い通りにいかないと怒りだすのは、日産時代から相変わらずです」(同前)
英『BBC』も製作に協力しているため、映画は今後、アラブだけでなく欧米諸国でも放送される可能性がある。ゴーンの「自画自賛映画」を観て、世界が彼の人柄を勘違いしなければいいが……。

『FRIDAY』2021年7月16日号より
写真:ロイター/アフロ