五輪特需が消えた新宿ゴールデン街店員が「ちょっとホッと」の理由 | FRIDAYデジタル

五輪特需が消えた新宿ゴールデン街店員が「ちょっとホッと」の理由

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撮影:村田克己

新宿ゴールデン街――新宿区役所通りから少し横道にそれると、小さなバーや居酒屋、飲食店が密集する、レトロな異空間が現出する。フランスの観光ガイド『ミシュラン』でも紹介され、コロナ禍以前までは多くの外国人で賑わっていた。

「私が最初に外国人が増えたなあと感じたのは、5、6年前でしたかね」

そう証言するのは、新宿ゴールデン街三番街『エポカ』のバーテンダー、吉田幸恵さんである。

「最初は中国や韓国などのアジア系の方が多かったと思います。国のインバウンドのターゲットも、そういったエリアの国々でしたよね。お店にも多くのアジアの方がいらっしゃるようになりました。一気に多国籍になったのは、2年前のラグビーワールドカップ(2019年日本大会)。あれが一気に起爆剤みたいになって、店の中が外国人の方だけという風景も不思議ではなくなりました」

そもそも、ゴールデン街とはどんな街なのか?

端的に言えば、深く濃く酒を飲み、常連客を中心に人と夜の契りを交わしていく。名物的文壇バーや、昭和から続く名店などがそういった営業スタイルの筆頭格であり、伝統的なゴールデン街のカラーと言える。大人数を収容する店は皆無で、「4人以上の団体客お断り」という店すらある。「常連じゃないと入りづらい飲み屋街」という側面も強かった。

それが、大きく変貌した。

吉田さんが前述したように、インバウンド需要に伴うアジア系外国人客の急増に加え、2019年の自国開催のラグビーワールドカップを経て、すっかりカジュアルな観光名所へと変貌したのである。毎年夏に開催されてきた『新宿ゴールデン街 納涼感謝祭』も盛況で、週末の昼からほぼ全店舗が参加。納涼祭が「一度行ってみたかった」という若い新規客を引き付けるキッカケとなり、通常営業時に再訪するようになった。

昭和時代から通い詰めたオールドファンからすれば、外国人観光客や学生などの若い新規客の姿に戸惑う人も少なくないだろう。もちろん、いまだに常連客でないと入りづらい店も点在するのだが。

このように街が変貌しつつある中、本来、新しいスタイルへの変化を決定づけるビッグイベントとなるはずだったのが、TOKYO 2020だった。ところが昨年からのコロナ禍で、訪日客は激減。日本に在住者を除いて、ゴールデン街から外国人客はほぼいなくなった。

『エポカ』は、一見の外国人にも人気で、最大で一日100人以上のお客様で賑わったことがある。「TOKYO 2020開催での特需に期待していたのでは?」と質問を向けると、吉田店長は「ちょっとホッとしているところもあるんです」と打ち明けてくれた。

「もちろん、どの国籍の方も大歓迎なんですが、ラグビーワールドカップの時も英語を使わなければなりませんでしたし、常連客の方にもいつも以上に気をつかわなければなりませんでしたし、振り返ってみると営業は大変でした。テレビでオリンピックが見たいというお客様がいらっしゃいましたら対応します。でも、店を挙げて大会を応援しようという営業はしません。

現在は国や都の方針に従って営業していますが、基本的に会員制、つまり一見さんお断りの常連限定営業にさせていただいています。いつもこの店を愛して下さる常連様がコロナに感染していたとして、その方から私が感染したら仕方がない。そう思えますから。もちろん、一日も早くワクチンが普及して、以前までの街の姿、店の姿に戻ってほしいと願っています」

エポカのバーテンダー、吉田幸恵さん(撮影:村田克己)

『エポカ』を取材したのは、土曜日の午後だった。夕方からの営業の店も多く、閉まっている店が大半。それでも開店している店はいくつか存在する。『エポカ』はゴールデン街の中では、比較的客席スペースが広く、客同士の距離は保つことができる。適切な感染対策を講じているのは言うまでもない。

ところが、他店をのぞいて気になったのが、あまりにも「密」な――もともとがそうやって飲む街なのだが――店内空間である。肩を寄せ合って狭い店内に6、7人が密集する。そんな店が複数見受けられた。

ここで筆者の立場を明らかにしておくが、私自身、この街で20年近く飲み続けたゴールデン街を愛する人間である。仮に行政が「ゴールデン街を無くしてしまえ、立ち退きさせて、区画整理せよ」などと言い出したら、おそらく抗議で暴れるだろう。

それでも、「密」回避のために、コロナ禍以降はこの街から足を遠ざけてきた。それゆえ、昼間の光景はゴールデン街の日常的スタイルとはいえ、あまりにも無防備すぎないかと驚いたのである。

そんな中、警鐘を鳴らす関係者もいる。

匿名を条件で取材に応じてくれたゴールデン街の店舗経営者Aさん(40代)は、こう声を荒げる。

「この前も、とある店で7、8人のお客様のうち2人がコロナに感染しているんです。それでも営業を続けていたりする。私はコロナ禍での営業に関してはとても慎重派です。ゴールデン街の大半が『そろそろどんどん営業しようよ』みたいな空気になっていますが、とても怖い」

Aさんの店では、アルバイト従業員と店舗営業方針を巡って対立することもあるようだ。

「アルバイトからすれば、お客様からの要望もあるし、自分がカウンターに立ちたい。売上も上げて、自分の収入にもしたい。その気持ちは痛いほどよく分かります。オーナーとして、自分もその気持ちにこたえてあげたい。でも、そう主張するアルバイトにはこう言うんですよ。『じゃあ、店がクラスターになったら、誰が責任取るんだ。休業支援金の取消にでもなったら責任取れるのか』って」

常連客に限定して、訪日客に依存しないスタイルへと原点回帰する人気店。
コロナ対策をほとんど顧みず、クラスターが発生してもどこ吹く風の店。そしてもちろん、しばらくの間休業を続ける店。

TOKYO 2020が決定打となるはずだった、ゴールデン街の新しい姿とスタイルはすっかり消え去っている。

おそらく、今この街にあるのはモザイク的風景であり、捉えどころのないカオス的状況だ。逆説的だが、それこそが本来のこの街の魅力でもある。

新宿ゴールデン街全体で感染防止対策をしていることを訴えたが…(撮影:村田克己)
近年、数多くの外国人が訪れているため、外国語の張り紙も目立つ(撮影:村田克己)
時短営業、人数制限などが英語でも記されている(撮影:村田克己)
エポカの店内にあるビールサーバーの隣に置かれた招き猫。五輪特需にかわる「福」はやってくるだろうか(撮影:村田克己)
コロナ禍が過ぎ去った時、新宿ゴールデン街はどんな魅力を醸しだすのだろうか(撮影:村田克己)
  • 取材・文鈴木英寿

    実業家・経営者、スポーツジャーナリスト。1975年生まれ、宮城県出身。東京理科大卒。音楽雑誌記者、スポーツ雑誌記者を経て2005年にスポーツジャーナリストとして独立。複数のJリーグクラブの経営幹部を経て現在はフットサル施設運営や複数のベンチャー企業への出資・経営指南なども手掛ける。著書に『修造部長』(松岡修造監修、宝島社)、訳書に『プレミアリーグの戦術と戦略』(ベスト新書)など。

  • 撮影村田克己

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